2024/7/8
宇治市議会令和6年6月定例会における一般質問のご報告第9回です。今回が最終回です。
一部の自治体で導入が進められている有機食材・有機農産物によるオーガニック給食について、基礎自治体による適切な医療・健康情報の発信とともに行わなければ、本来必要のない過度な不安を保護者らに与え、慣行農業やそれを行う農業者への不当な危険視と偏見、地域コミュニティの分断をも助長するメッセージを発することになってしまうのではないか、と提言しました。
市の答弁のポイントは「オーガニック食材を学校給食に取り入れることについては、安定的な供給量の課題等があるため、引き続き、研究していく」というところですが、これは少々問題があるのではないかと思います。
給食の食材については、安定的な供給量が確保されていることも必要な条件ですが、価格・安全性・栄養価はもちろんのこと、例えば地産地消や伝統食の継承、正確な科学知識・情報に基づく食材の選択方法、食の安全性に関する誤った認識の是正など、食育に関係する側面も極めて重要です。市の答弁では、例えば輸入された有機農産物が安定的に調達できるのであれば、その他の側面を考慮しなくてもよいように解釈できます。引き続き市による適切な医療・健康情報の発信についても政策提言してまいります。
第1回の報告は、キャッチアップ接種の早急な普及啓発が必要 かどや陽平一般質問報告1(R6.6宇治市議会)
第2回の報告は、ダブルケア・ヤングケアラーなどケアラー支援を要望 かどや陽平一般質問報告2(R6.6宇治市議会)
第3回目は廃棄リチウムイオン電池収集場所を増設!かどや陽平一般質問報告3(R6.6宇治市議会)
第4回は高齢者・障碍者意思決定支援のため権利擁護センター設置!かどや陽平一般質問報告4(R6.6宇治市議会)
第5回は就職氷河期世代の福祉的側面からの支援 かどや陽平一般質問報告5(R6.6宇治市議会)
第6回は能登半島地震を教訓とした将来の消防対策 かどや陽平一般質問報告6(R6.6宇治市議会)
第7回はデータを活用した学力向上の取組が行われています! かどや陽平一般質問報告7(R6.6宇治市議会)
第8回は宇治市の行政DXの現状 かどや陽平一般質問報告8(R6.6宇治市議会)
農林水産省によれば、令和6年6月5日現在、109の市町村が有機農業と地域振興を考える自治体ネットワークに参加しており、2025年までに全国で100地区のオーガニックビレッジ創出が目標となっているそうです。農林水産省関東農政局パンフレット「オーガニックビレッジでオーガニック給食が広まっています」というものがあります。これによれば、オーガニック給食の実施による波及効果として、残食率の減少、市町村のブランディング・イメージアップに寄与、移住者の増加、新規就農者の増加、農業所得の向上、食育活動の深化、人的結びつきの強化などが挙げられるとしています。ちょっと信じられないほど、夢のような効果があるようです。
そこで、宇治市教育委員会として、オーガニック給食についてどのような見解をお持ちであるのか確認しました。
市の答弁は
「宇治市の学校給食は、学校長・調理職員・栄養職員の代表及び市教委で組織する宇治市学校給食会において、教育現場の意見を取り入れながら、市内統一の献立の作成・食材の調達・経理等を行っている」
「その中で、食材の調達については、児童に、地元の生産品に興味をもってもらうため、できる限り地元産を使用するものとしつつ、学校給食会が定めた条件を満たした納入業者から、学校給食として、安全で安心な食材を、安定的に安価で調達しているところ。オーガニック食材を学校給食に取り入れることについては、安定的な供給量の課題等があるため、引き続き、研究していく」
ということでした。
そもそも有機農業というのは農業生産に由来する環境負荷をできるだけ低減をすることに主眼があるのであって、その農産物が慣行農法による農産物よりも安心であったり、安全であったり、栄養価が高いだとか、特定の疾患の原因にならないなどということは、当たり前ですが一切うたわれていません。先ほどのパンフレットでも移住者が増加する!などと書く一方で、そのようなことは一切触れられていないことにもご注目いただければと思います。
私も例えば有機農産物を地産地消の観点や、畜産農家から出るたい肥の活用など、これまで育まれてきた伝統農法の継承の観点から、給食に取り入れていくことに反対しているわけではありません。
ただ、巷間に流布しているオーガニック給食推進についてのチラシやSNSに「汚染」や「健康被害」などの恐ろしいキーワードが並んでいるのをみますと、慣行農業に対する事実に基づかない危険視と偏見の助長、科学的に薄弱な根拠に基づく特定の疾患と化学肥料・残留農薬の関連性の強調といった問題点があるように思います。
特に問題なのは、オーガニック給食を推進する主張の中で、発達障害の増加と農薬の関連性が強調されていることがありますが、これに至っては保護者等に発達障害に対する誤った認識や懸念を植え付けかねない内容です。そもそも、発達障害が「なってはいけない、かわいそうな、悪いもの」と位置付ける認識自体、また、有機食材を選択していれば避けることのできたいわば中毒症状のように扱うこと自体、発達障害に対する無理解と差別的偏見・自己責任論を助長するものです。
行政が食品安全に関する誤った認識や情報を野放しにしたまま、オーガニック給食を導入してしまうと、本来必要のない過度な不安を保護者らに与え、慣行農業やそれを行う農業者への不当な危険視と偏見、地域コミュニティの分断をも助長する、負の健康情報発信となる危険性があります。
元国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長の畝山智香子さんはその著作「ほんとうの『食の安全』を考える」(2009化学同人)の中で、英国食品基準庁が2009年7月末に「オーガニック食品」の栄養価や健康への影響について、通常食品と意味のある違いはないという報告を発表したことを取り上げ、「ふつうに市場に流通している食品について、かなりのものの残留農薬は検出限界以下ですし、検出されたとしても人体への悪影響は考えられないレベル(つまりは実質的にはゼロリスク)であることは何度も何度も確認されています。」と述べられ、「健康にとって本当に大切なのはオーガニックかどうかより多様な野菜や果物を含むバランスの取れた食生活」であり、場合によっては缶詰や冷凍食品、加工品も上手に利用すればよいとおっしゃっておられます。これこそまっとうな「食の安全」に対する認識ではないでしょうか。
「なんとなくよさそう」「なんとなく怖い」というイメージに基づく健康情報が蔓延している中で、例えば食品安全委員会が提供している情報を基に、わかりやく食の安全や健康情報を、食育などを通じて適切に発信していくことも、市民・住民の安心感を高める正確な医療情報の発信と共に宇治市に要望しました。
なお、今回の質問にあたっては
畝山智香子「ほんとうの『食の安全』を考える」2009 化学同人
「食品添加物はなぜ嫌われるのか」2020 化学同人
髙橋久仁子「『食べもの神話』の落とし穴」2003 講談社ブルーバックス
松永 和紀「効かない健康食品 危ない自然・天然」2017 光文社新書
有坪 民雄「誰も農業を知らない」2018 原書房
久松 達央「農家はもっと減っていい」2022 光文社新書
岩波 明 「発達障害」2017 文春新書
藤原 辰史「給食の歴史」2018 岩波新書
寺岡徹監修「図解でよくわかる農薬のきほん」2014 誠文堂新光社
などを参照しています。
宇治市議会令和6年6月定例会における一般質問のご報告は今回で最後です。引き続き建設的な政策提言に努めてまいります。
宇治市議会議員 かどや(角谷)陽平 公式ホームページ
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