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すべての候補者は「有権者の貴重な選択肢」東京選挙区の候補者34人全員の生の声(畠山理仁)

2022/7/8

畠山理仁

畠山理仁

「都民の声を反映させたい。都議を辞職して命をかけて戦う」・荒木 「『青い山脈』の作曲者と同じ名前」名前の浸透にあの手この手・服部

 東京都議を辞職して立候補したのが、ファーストの会代表・荒木ちはるだ。ファーストの会は、地域政党・都民ファーストの会が国政を目指して作った新たな政治団体。その唯一の候補者として荒木ちはるは立候補した。

 選挙前から「鍵を握る」と言われていたのが、都民ファーストの会特別顧問を務める小池百合子東京都知事の応援だ。小池知事は荒木ちはるが中野駅に事務所を開いた際にも出席し、選挙期間に入ってからも、連日、荒木の応援に入っている。小池知事は街頭演説で荒木を「私の相棒」と紹介。小池知事が応援に現れる演説会は、連日、多くの人たちが駆けつけている。

 荒木は街頭演説の中で、自分が都議として国に要望を伝えていく中で、東京都選出の国会議員が都民の声を国会に届けてこなかったと批判した。

「しっかりと現場がわかる、地域がわかる参議院議員を誕生させていただきたい!」

荒木ちはる・写真右(撮影・畠山理仁)

 演説を終えた荒木に「知事の応援は心強い?」と聞くと、荒木ちはるはかすれた声で答えた。

「東京都のトップが来てくれるという事実だけでもね。コロナが『東京問題』だと言われた時、東京都選出の参議院議員が都民の暮らし、いのち、経済に思いを馳せてくれたかというと、まったくありませんでした。私はしっかりと都民の声を反映させたい。都議を辞職して、命をかけて戦っています!」

 荒木ちはるの選挙事務所の目の前の中野駅南口ロータリーでは社会民主党・服部良一の演説を聞いた。予定の時刻より遅れて到着した街宣車は、服部を下ろすとすぐに別の場所へと向かってしまった。

「街宣車がトラブルで、すぐに修理をしにいくんです」

 街宣車から降りた服部は支援者とにこやかに話している。タスキのねじれを支援者が治そうとすると、服部が言った。

「ヘロヘロだ〜」

 服部にあったのは選挙戦序盤。すでに「ヘロヘロ」だなんて、大丈夫なのだろうか?

「違う違う! 動きすぎてタスキがヘロヘロになっちゃったの。私の足腰はまだまだ大丈夫です(笑)。毎日元気に走り回っております!」

 街宣車の上から呼びかける演説では、自民党の選挙公約への危機感をあらわにした。

「自民党が軍事費を2倍にすると言っている。そして、敵基地攻撃能力を持つと。憲法が壊されることによって、どんな社会になるのか、みなさん、一緒に想像力を働かせてほしい。断じて憲法9条を変えさせない。そのための大変重要な選挙です」

服部良一(撮影・畠山理仁)

 街宣車の上には、全国比例で立候補している他の候補者も立った。

「服部良一さんの名前、ぜひ覚えてください」

 そう言ってその候補者はいきなり歌を歌いだした。1949年にリリースされた流行歌「青い山脈」だ。

「みなさん、この、『青い山脈』の作曲者の名前をご存知ですか。服部良一さんです。ここにいる服部良一さんとは違いますが、『青い山脈』の作曲者と同じ名前の服部良一さんだと覚えてください!」

 選挙区の投票用紙には候補者の名前を書かなければならない。各陣営が必死になって選挙を戦っている。

「体験にお金を使う時代」への転換を・長谷川 陣営は少数精鋭だが、手際の良さが際立つ選挙戦・山添 芸術家がもう少しだけ安心して暮らせる社会を・いの

 選挙に立候補しても、街頭演説を行わない候補もいる。NHK党公認・炭作り党推薦の長谷川洋平候補は街頭演説を行わず、自転車に乗ってポスター貼りをしていた。長谷川はアウトドアが好きで、環境にいい炭作りの面白さを伝えるために政治団体を作ったという。もともと炭作りを教えてもらったのは都民ファーストの地方議員。いまは八王子市で炭作りをしている。

 炭作りで暮らせているのか、と聞くと、「暮らせていません」と笑った。長谷川は「大量消費の時代は終わったと思っている」と語り、「体験にお金を使う時代」への転換を訴えている。

「日本は水も良くて山もきれい。環境を守りたい。観光資源は次世代に残せる。海外から人を呼んで経済を回したい」

長谷川洋平(撮影・畠山理仁)

 長谷川はポスターを貼る際、ホチキスのような針でポスターを固定するタッカーという器具を使っている。時々、ポスターの自分の目の部分にタッカーを遠慮なく打ち込んでいるのをSNSで見た。自分の顔に針を打ち込むことに抵抗はないのだろうか?

「全然ないですね。まずはポスターを見てもらわないと意味がないんで(笑)」

 長谷川はNHK党の公認だが、NHKの受信料は払っているのか。

「テレビは捨てました。払っていません」

 ほかのNHK党候補のポスターもあわせて貼る長谷川のもとには選挙管理委員会からの電話がよくかかってくる。

「タッカーでポスターを貼っていると、強風が隙間から入ってポスターが破れちゃうんです。せっかく貼っても、また貼り直しです」

 長谷川は汗を流しながら次のポスター掲示場へと向かった。

 日本共産党・山添拓の演説は新橋駅のSL広場前で見た。山添は国会質問260回。鋭い舌鋒で政府を追求する質問力は国会ウォッチャーの間ではよく知られている。ビラには「政治を動かしました」と大きく書かれている。

 演説の導入は「モヤシの値段が上がりました!」。一般庶民と同じ生活実感を持っていることが伝わってくる。

「給料は上がらないのにどうやって暮せばいいのか、そんな困惑の声をうかがってきました。抜本的な対策が求められているはずです。それなのに、岸田内閣の経済政策って、あまりにもみみっちいと思うんです!」

山添拓(撮影・畠山理仁)

 聴衆はそれほど多くない。スタッフも維新に比べたら多くない。しかし、陣営のムダのない動きに目を奪われた。少数精鋭だが、手際がものすごくいいのだ。

 会場には事前に場所取りのスタッフが来ている。そして、車の荷台から共産党の主張が書かれたたくさんのパネルを一瞬にして出して展開する。人数が少なくても、通りすがりの人たちには「何を訴えているのか」がすぐ伝わる。そして演説が終わると一瞬にしてパネルを回収し、車の荷台にピッタリと整理して撤収完了。またたく間に次の演説場所へと移動していった。さすがは結党100年。活動の歴史を感じさせた。

 NHK党公認、バレエ大好き党推薦・いの恵司の演説は渋谷のオーチャードホール前で聞いた。ちょうどオーチャードホールでバレエの公演が行われており、いの恵司はその公演を観た人たち、観終えた人たちに訴えるのだという。予定の時間になっても現れないので電話をすると、「そちらに移動します」と言って電話が切れた。

いの恵司(撮影・畠山理仁)

 オーチャードホールの入口で待つこと数分。いの恵司はバレエの舞台衣装を着て自転車を押してやってきた。

「日本の文化を支える芸術家たちがもう少しだけ安心して暮らせる社会をつくるために出馬しました」

 バレエダンサーの待遇は厳しい。これでは日本の文化が育たない。だからヨーロッパの芸術家公務員制度のような、プロの芸術家への補助制度をつくることを考えているという。

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畠山理仁

畠山理仁

フリーランスライター。第15回開高健ノンフィクション賞受賞作『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)著者。他に『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)など。興味テーマは選挙と政治家。

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