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すべての候補者は「有権者の貴重な選択肢」東京選挙区の候補者34人全員の生の声(畠山理仁)

2022/7/8

畠山理仁

畠山理仁

「メディアが言っていることは事実じゃない」・河西 ほとんど報道がない人物・油井

 参政党・河西泉緒の活動は公示前の政治活動から見ている。河西はホームレスの経験もある銀座のクラブ経営者だ。公示前に明治神宮前で行われた演説では、20人ほどの熱心な支援者が集まって演説会を盛り上げていた。演説の途中では支援者たちがかわるがわるマイクを握り、政治に対する熱い思いを演説していた。みんな目が真剣だ。

河西泉緒(撮影・畠山理仁)

 公示前の河西は「政策的なことはこれから勉強するので、難しいことは私に質問はしないでくださいね〜」と釘をさした。それでも「モテる男の条件トップ3」などを軽妙に話していくと、支援者たちが笑いながら喜んだ。

 全国比例候補と一緒に行う街宣では大変な人数が集まる。しかし、選挙区候補単独ではそれほど人が集まっていない。河西は公示後の演説では参政党の政策を語っている。

「参政党の重要課題は、1に教育、2に食と健康、3番目に国守りです」

 参政党の候補者に共通する主張は「メディアが言っていることは事実じゃない」である。その理由を河西は「日本が敗戦国だから」だと説明した。

「政治も情報も経済も、ぜんぶ、ぜーんぶ操作されているんですね。日本はアメリカとかの家畜ですよ。残念ながら。この事実を伝えたくて参政党から立ってるんですね」

 熱心な支援者たちがオレンジ色のビラを振っていた。

 今回の選挙戦で、核融合党の桑島と並んでほとんど報道がなかった人物がいる。それが無所属の油井史正だ。私は公示日に立候補届出会場で話を聞けたが、それ以降、油井は電話をかけてもまったく出てくれなかった。時間帯をずらして何度かけても出てくれなかった。届出初日の貴重な肉声がこちらだ。

油井史正(撮影・畠山理仁)

「ポスターは作った。街頭演説は地声でやります。私の最大にして唯一の訴えが憲法改正。9条廃止。軍隊を持たないのは情けない。9条廃止して自衛隊を合憲にする」

 自衛隊への思い入れがあるのでしょうか。

「ない」

 えっ。

「防衛費2%とかは二次的な問題。憲法をやれば、自民党と社会党がけんかしなくなって日本が統一される。軍隊と警察は国家の基本ですよ」

 改めて話を聞きたいと思い、電話をしたが、やはり出てくれない。そこで自宅を訪ねて呼び鈴を鳴らしたが反応がない。手紙を書いて油井の自宅ポストに投函すると、7月7日に油井からの手紙が封書で届いた。万年筆で書いたと思われる手紙の始まりはこうだ。

「拝啓 インタビューの申し込みありがとうございます。私の参議院選挙立候補の最大目的は日本国憲法改正です」

 その後には油井の主張が続いた。すべての漢字にルビをふってくれていた。しかし、携帯電話の番号や、インタビューの日時などに対する返事はなかった。

「私は超能力者なんです」・中村

 無所属の中村高志が選挙に出るのは2回目だ。最初の選挙は9年前の参議院議員選挙。それから今回の立候補までに間が空いた理由を聞いた。

「その時はまだ会社員。会社に迷惑がかかると思って言えなかったことがある。それが心残りだった。今回はもう会社を退職したので言いたいことが言えます。今回が最後の選挙です」

 9年前の選挙で言いたくて言えなかったこととはなんですか。

「私は規格外の人間なんです」

 わかる。選挙に出るのは大変なハードルだ。立候補した人は誰もが特別な存在だと言っていい。具体的には、どう規格外なのですか。

「私は超能力者です」

 そうなんですか!

「私は、私のすることを皆が真似しがちだと思っています。私の考えたことはテレパシーで全世界に届いてしまっている。このテレパシーは自分でも制御できないんです。だから私が参議院議員になったら、議員歳費をどんどん使って消費に回したい。安くなくても品質のいいものをどんどん買っていきたい。そうすればみんなが私の真似をして、日本の経済が活性化すると思っています」

 電気主任技術者でもある中村は、地熱発電を活用すべきだとも訴えている。今回の立候補者にも地熱発電を訴える候補がいる。日本で長く不況が続いていたとき、中村高志はお金を使わない生活を続けていたという。そんな中村高志が超能力者だと自分で気づいたのはいつなのか。

「1990年、ベルリンの壁が崩壊したときです。あのとき、壁を壊している人が取材を受けて、『自由はいいぞという声がどこからか聞こえた』と話していたのをテレビで見たんです。その時、ああ、私のテレパシーが全世界に届いてしまった、と思いました」

 そう話した後、中村高志は「この話、どう思います?」と私に意見を求めてきた。私は「世の中のために超能力を使うのは公職の候補者として素晴らしいことでは」と簡単に答え、こう質問した。

「中村さんはこれまでも世の中のために超能力者を使ってきたわけですよね。どうして今までと同じようにボランティアではいけないんでしょうか」

 少し考えて中村は答えた。

「いや、もうボランティアじゃあ、やってられない……。もちろん、私の言っていることを信じろとは言いません。信じてもらえるとも思っていません。それでも私はそう思うんです」

 実は中村高志も個人演説会を開こうとして会場は押さえていた。しかし、施設から避難誘導員が4人必要だと言われてあきらめていた。そのかわりに中村高志が思いついたのが、10代から親しんできたギターを持っての街頭演説だ。

中村高志(撮影・畠山理仁)

「街頭演説だけでは話を聞いてもらえないかと思って。演説の前後に歌を歌います」

 演説前に演奏した曲はサザンオールスターズの『ロックンロール・スーパーマン』。高音の歌声が切なく響く。決してうまいとは言えないが、通りがかった若い女性が一人、中村の歌に足を止めて体を揺らし、手を叩いた。

 私はまた別の日に中村高志の街頭演説を見に行った。超能力者である中村が世界平和を願えば、それがいつかは実現するのではないかと伝えに言ったのだ。

「うーん。戦争をとめるのは難しいですよね」

 それならせめて、平和を願う歌はどうですか。

「平和を願う歌ですか……。なかなか思いつかないので、また『ロックンロール・スーパーマン』を歌います」

 新宿西口の地下に中村のギターと声が響く。中村が掲出した「街頭演説会」の標記を見つけた男性が歩きながら中村の姿をカメラで撮影し、立ち去り際にこう言った。

「おい、泡沫候補、がんばれよ! 300万円没収されるけどな!」

 中村は男性の大声にも演奏を止めず、懸命に歌い上げた。演奏終了後、中村高志がギターを片付けていると、さきほどとは別の初老の男性が寄ってきて御礼を言っていた。

「サザンの名曲を久しぶりに聞けて嬉しかった。ありがとう!」

 中村は少なくとも一人の男性を幸せな気持ちにさせた。それはとても尊いことだと私は思う。

***

 この世の中には多様な人たちが生きている。そして、政治家は多様な人たちの代わりに仕事をする。公職に就く者とは、この世に生きる多様な人々の権利を守るために働くべき存在だ。自分たちだけが優遇されればいい、自分を支援した人たちだけのために働くという考えでは務まらない。政治家は等しく「全体の奉仕者」でなければならない。

 東京都の有権者には、34もの「贅沢な選択肢」が用意されている。投票日まであとわずか。有権者はすべての候補者の熱い思いに応え、大切な一票を行使してほしい。

(了)

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畠山理仁

畠山理仁

フリーランスライター。第15回開高健ノンフィクション賞受賞作『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)著者。他に『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)など。興味テーマは選挙と政治家。

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