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ある一家の支配が60年続く現実が日本にあるんです。そう、大分県に・・・

2016/10/15

宮澤 暁(Actin)

宮澤 暁(Actin)

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大分県姫島村。この村の村長選は1955年に選挙戦が行われて以降、現在まで61年間、選挙が行われていません。1名の候補者以外に対抗馬となる候補者が立候補しておらず、16回連続で無投票に終わっています。これは首長選としては全国最多であり、今年11月に予定されている村長選でも現職の藤本昭夫氏しか今のところ立候補の予定がなく無投票になることが予想されています。今回はこの姫島村長選にスポットを当ててみます。
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村を二分する激戦、相次ぐ突然の辞職

投票が行われた最後の姫島村長選は1955年でした。この選挙は公職追放を受けて解除されたばかりの元村長の藤本憲吉氏と新人の鹿野亀太郎氏の一騎打ちとなり、村内を二分する激しい戦いになりました。そして、藤本憲吉氏が1,166票対1,061票の僅差で勝利しました。
しかし、藤本憲吉氏は1957年に甥が村有地から石を盗掘した疑いが村議会で問題となり、その直後に病気を理由に辞職。その後の村長選では前回の選挙に立候補した鹿野亀太郎氏のみが立候補し、無投票当選しました。しかし、この鹿野氏も一身上の都合で1959年12月に突如辞職。1960年1月の村長選では当時の村議会議長の藤本熊雄氏のみが立候補し、無投票当選しました。この藤本熊雄氏はその後の6回の村長選も全て無投票当選し、1984年11月に村長在任中に死去しました。
死去に伴う村長選には2、3人の立候補者が出るのではないかと噂されていたものの、藤本熊雄氏の長男である藤本昭夫氏のみが立候補し、無投票で当選。現在も藤本昭夫氏は最初の当選を含めて8回の村長選を全て無投票当選し、親子2代で15回連続無投票当選、56年間村長職に就いています。
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親族で憎しみあった選挙が尾を引く

長期間無投票が続いている理由として次のような理由が考えられます。

・1955年の選挙戦の激しさ
1955年の村長選では村を二分する争いとなりました。この選挙戦は親類間でも対立が起き、選挙後も互いの陣営では挨拶すらしないなど、激しいしこりを残しました。この苦い経験から村長選を避けようとする強い雰囲気が未だにあります。

・姫島出身の政治家 西村英一
姫島出身の人物に1949-80年に衆議院議員を務め、建設大臣や厚生大臣、自民党の副総裁まで上り詰めた西村英一氏という人物がいます。藤本熊雄氏はこの西村氏の右腕として活躍し、「地元家老」と呼ばれるほどでした。藤本熊雄氏は西村氏と共に村内の港や道路の整備を推し進め、新産業を起こすなどの政策を進めたため、村全体で両氏体制をバックアップしていました。なお、藤本熊雄氏はこのようなことから村で大きく評価され、業績をたたえる祭りが毎年行われるほどになっています。

・姫島特有の公務員の雇用形態
全住民に雇用を確保できるほど産業が無く、このままでは人口が流出してしまうため、村の仕事をワークシェアリングすることで多数の住民に仕事を提供するという手に出ました(2015年のデータによると人口の約8%が公務員あるいは公営企業などの職員になっています)。この政策は住民に支持されており、この政策を続けるために他の自治体との合併に極めて後ろ向きで、村そのものが合併によって消滅しなかったことも無投票記録に寄与しています。

この他、村内に行政経験のある人がいないという事情もあります。

 

 

 

議員も発言できない。政治的な活動を止める圧力

一部の住民の声として、新しい人が立候補してほしいという声もあるようです。また、村議会も選挙があるものの活発ではなく、2012年に村の融資に不正があったとして15年ぶりに議会で質問が出ましたが、基本的には質問が行われず、村が提出した案を原案通り可決して1日で議会が終わるような状態になっており、村内で政治的な声を挙げられない状況にあるという批判もあります。
ただ、一方で現在住んでいる村民の大半は村長を評価しているようで、対抗馬が出てくる気配はないようです。今後、何らかの争点が生じて1955年以来の選挙戦で繰り広げられるのか、あるいはこのまま無投票記録が続くのか、今後も目が離せない所です。

 

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宮澤 暁(Actin)

1984年東京都出身。個性あふれる候補者が多数出た1999年の東京都知事選に衝撃を受けてインディーズ候補(いわゆる泡沫候補)にはまり、そこから変わった選挙・政治事件に興味を持ち、現在に至る。著書に『ヤバい選挙』(新潮社)。

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