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米大統領選で思い出すワシントンの桜の木

2016/10/11

中村 仁

中村 仁

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米国の大統領選を前にしたテレビ討論で、クリント(民主)とトランプ(共和)両氏が見苦しいいがみ合いを続けています。「これまでで最も不快なテレビ討論」という評価のようですね。米国は最も進んだ先進国、民主主義国であり、大統領候補がそれにふさわしい人格と品性を備えているはずなのに、違うのですね。
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思い出すのは初代大統領のワシントンが子供のころ、父親が愛する桜の木を切ってしまった逸話です。そのことを正直に告白したら、「お前がしたことは確かに悪い。ただし、正直に詫びてくれた。父さんの腕の中に走っておいで。愛しい息子よ」と逆に褒められたという話です。あまりにも有名な美談です。

このエピソードが日本人のアメリカ観の一つの根底を形成しました。「米国は素晴らしい国なのだ」と、尊敬したものです。米国といえばワシントン、ワシントンといえば桜の木という時代がありました。
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ウソの行商人とは下品な表現

クリントン候補はトランプ氏のことを「ウソの行商人」とけなしました。「わめきちらして個人攻撃を繰り返し、真っ赤なウソをいう」と。では、クリントン氏側にウソがないといえば、ウソになるでしょう。国務長官当時、私用メールアドレスで公務のメールを送り、機密情報の取り扱い規則違反をしていました。発覚しなければ、隠し通すつもりでしたね。

女性問題も両陣営が騒ぎたてました。トランプ氏の女性蔑視の発言が隠しマイクに録音されており、攻撃材料に使われました。つまらないことまで隠し録音をしておいて、機が満ちたら探し出してきて、相手を困らせる。それに対抗してトランプ氏は、クリントン元大統領の女性スキャンダルを持ち出し、被害者を4、5人、揃えて記者会見まで開き、蒸し返しました。これが最大の民主主義国のレベルなのですかねえ。

恐らく多くの視聴者は「大統領やその候補といえども、なんだ、自分たちと同じような行為をしている。米国ではよくあることで、騒ぎ立てることでもあるまい」と、あきれたのではないですか。両候補のテレビ討論といっても、まるで程度の低いバライエティ番組です。第一回の討論では、経済、安全保障、人種・銃規制などが論じられたものの、第二回にきてレベルが一気に落ちました。

 

 

司会者も割って入らない

本来なら司会者が割って入って、真面目な討論に軌道修正さすべきところです。そうしなかったのは、両人のけんかぶりが面白いことは面白く、このほうが視聴率を稼げると考えたのかもしれません。米国社会は不正を重ね、ウソをつき続けても、徹底的に追い詰められ、申し開きができなくなるまで詫びません。もっともこの点では、日本の政界も同じです。

冒頭に紹介した建国の父・ワシントンの桜の話は、われわれの中学生のころは、英語の教科書に載っており、教師たちは「米国はこういう立派な国なのだ」という説話に使われていました。生徒一同、一様に感心したものです。その後、この美談は「同時代の作家がワシントン伝を書くにあたって、創作したらしい」ということになっています。

 

 

実際は作家による創作か

作家のメーソン・ウイリアムズが子供向けに「逸話で綴るワシントンの生涯」という本を書きました。それらしいい話を小耳にはさんで、「ウソをついてはいけない」という説話として追加したらしいとか。ワシントンが6歳の時という想定の話で、子供のころから立派だったからこそ大統領になれた。説得力がありますねえ。

米国にそのころ桜の木があったのか。日本から桜の木が贈られたのは、100年前のことです。6歳の子どもが斧を振るって桜を切り倒したというのも、にわかに信じられません。それにしてもよくできた話です。米国でも「逸話で綴るワシントンの生涯」を愛読していたという大統領がいたとか。特にトランプさん、今からでもいいから、探し出してきて、この本を読んでみたらいかがですか。

※本記事は「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」の10月11日の記事の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。

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中村 仁

中村 仁

全国紙で長く経済記者として、財務省、経産省、日銀などを担当、ワシントン特派員も経験。2013年の退職を契機にブログ活動を開始、経済、政治、社会問題に対する考え方を、メディア論を交えて発言する。

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