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ドナルド・トランプを大統領にしてはいけない理由。~ヒューマン・バラク・オバマ第5回

2016/10/17

堂本 かおる

堂本 かおる

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本選まで1ヶ月を切った時点でトランプの女性への性的ハラスメント問題が続出し、選挙戦はさらなるカオスとなっている。これまでは「ブタ」「汚らわしい動物」「生理で気が立っているのでは」など言葉による度を超えた侮蔑が問題となっていたわけだが、今回はロケバス内で録音された女性を「モノにする」会話が暴露され、そこでは「ビッチ」「ファック」「プッシー」と言った単語が連発されている。

トランプが対抗策としてビル・クリントンの過去のセックス・スキャンダルを持ち出し、大統領選はもはや低俗なタブロイド新聞の様相となっている。それを受け、「触られた」「キスをされた」「着替えを見られた」など、被害を受けた女性たちが現れた。こうしたトランプの過去のセックス・スキャンダルを掘り起こしているのはゴシップ紙ではなく、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズなど、いわゆる高級紙と呼ばれる大手メディアだ。

ポストやタイムズはゴシップ紙に成り下がったのではなく、トランプ当選を阻止するための手段としてこうした記事の掲載を始めた。トランプが政治に無知であることは周知の事実だが、一国を治める大統領として同等に問題とされているのがモラルの欠如だ。「白人・男性・異性愛者・健常者・キリスト教徒」である自分と同類以外の他者をすべて見下し、阻害、差別、攻撃し、自分が上位に立とうとする人間であることがすでに証明されてしまっている。今は女性へのハラスメントが取り沙汰されているが、トランプはこれまでにあらゆるグループを侮蔑している。以下はその一例である。

 

■ヒスパニック

トランプは昨年6月の大統領選への立候補表明演説ですでにメキシコ人を「レイプ犯、犯罪者、麻薬密売人」と呼んでいる。アメリカとメキシコの国境に壁を作り、費用はメキシコに払わせるとも宣言したが、国境線は3,200kmにも及ぶ。

今年5月には「メキシカン」の判事は公平な裁定を下せないと発言。これはトランプがかつて運営していた詐欺紛いのトランプ大学(実際にはビジネス・セミナーであり、大学ではない)を受講者からを訴えられ、その裁判の担当となったメキシコ系アメリカ人の判事に向けられたもの。判事はメキシカンであり、メキシコ国境に壁を作ろうとしている自分に不利な裁定を下すという主旨だった。この発言は法曹関係者を非常に憤らせた。第一に判事はアメリカ生まれのアメリカ人であり、次いで、法律家は人種も含めてバックグラウンドに関係なく、法のもとに公平・平等に裁定を行うという矜持を傷つけたのだった。

 

■アフリカン・アメリカン

トランプは1970年代に経営していた不動産会社のアパート賃貸について、黒人を故意に入居させないとして2度、訴えられている。1980年代、経営していたカジノで黒人従業員を著しく差別していたとの元従業員の談話がある。1989年、ニューヨークのセントラルパークで白人女性がレイプ暴行された件で5人の黒人とヒスパニックの少年が誤認逮捕された際、トランプは5人が未成年であるにもかかわらず、自費で「ニューヨークに死刑復活」を訴える新聞一面広告を打っている。後に真犯人が逮捕されたが、トランプは少年たち(現在は成人)への謝罪をおこなっていない。1990年代には経営するカジノなどで黒人従業員への雇用差別でやはり訴えられている。

オバマ大統領就任後、トランプは「オバマはケニア生まれで大統領の資格無し」と何年も訴え続けた。この件について今回の選挙戦の中で非難が高まり、ついに先月「オバマはアメリカ生まれ」と認めたものの謝罪はなく、「オバマに出生証明証を公開させたのは自分の功績」と開き直りの発言。

今回の選挙キャンペーン中、トランプの集会で「ブラック・ライブズ・マター」を唱えて抗議行動をおこなう黒人が男女を問わず、トランプ支持者に殴られたり、小突き回されることが幾度かあった。

今年2月、KKKの元リーダー、デヴィッド・デュークがトランプ支持を表明。この件についてCNNのアンカーマンに質問された際、トランプは「デュークのことは知らない」とのみ言い、デュークからの支持を退けることはしなかった。これを批判されたトランプは後日、インタビュー時はイヤフォンが不調で質問がよく聞こえなかったと釈明。ちなみにトランプの父親(故人)は1920 年代にKKKが暴動を起こした際に逮捕されている。逮捕の行状は不明。

 

■ムスリム

昨年12月にフロリダ州サンバーナディーノの障害者施設で乱射事件が起こった際、トランプは「全てのイスラム教徒の入国を全て、完全に遮断すべき」と発言。犯人は夫婦だった。夫はイリノイ州シカゴ生まれのパキスタン系。妻はパキスタン人で、夫との結婚を前提にK-1ビザ(通称フィアンセ・ビザ)でアメリカに入国後、結婚していた。 今年6月のフロリダ州オーランドのゲイ・クラブでの乱射事件の際には「反米テロの歴史が証明されている国からの移民を差し止めるべき」と発言。その際、犯人を「アフガニスタン出身」と発言したが、実際はニューヨーク生まれのアフガニスタン系だった。後に「犯人がアメリカにいたのは、両親をアメリカに入れたからだ」と言い直している。

CNNによると、今やテロリストはいわゆるイスラム国家だけでなく、世界40ヶ国に居住や活動の場を広げており、アメリカはそれら40ヶ国からの入国者に対して年間270万通以上のビザを発行。これを全て差し止めることは事実上、不可能と言える。

 

■軍人

7月に開催された民主党全国大会にイラクで戦死した兵士の両親が登場し、父親のカーン氏がヒラリー支援の演説を行うと同時にトランプを批判。翌日、トランプはカーン氏の妻が側に立つだけでスピーチを行わなかったのは「喋ることを許されていなかったのでは」と、イスラム教徒へのステレオタイプを揶揄。これに対し、他の戦死した兵士の遺族たちが謝罪を求めた。

トランプは昨年、2004年の共和党大統領候補だったジョン・マケイン下院議員について「マケインは(ベトナム戦争で)捕虜となったから戦争の英雄になった。私は捕まったりしない人間が好きだがね」とコメントし、マケイン議員のみならず、多くの軍人と家族、遺族を憤らせた。

 

■障害者

昨年11月、サウスカロライナ州での選挙キャンペーン集会の演説中に、トランプは手に障害を持つジャーナリストのモノマネをした。トランプは911テロによりWTCのツインビルが崩壊した後、ニューヨークに隣接するニュージャージー州で「何千人ものアラブ人が歓喜しているのを見た」と発言。発言の内容は911テロの数日後にワシントンポストに掲載されたコヴァレスキー記者の記事にある「歓喜し、パーティなど開いたと “される” 数人がFBIに捜査された」の部分に触発されたものと思われる。記事はFBIの活動を記したものであり、実際に歓喜する者がいたとは書かれていない。また、FBIの捜査でもそうしたグループは確認されていない。しかしトランプはコヴァレスキー記者は自身が書いた記事の内容を覚えていないのだとし、観衆の前で手を振るわせながら「覚えてないよ~!覚えてないよ~!」とモノマネをした。

 

コヴァレスキー記者のモノマネをするトランプ(16秒目から)

 

■アジア人

昨年8月、アイオワ州での選挙キャンペーン集会での演説中に、トランプはアジア人の訛りと態度のモノマネをしている。 「日本人、中国人と交渉する時、彼らは部屋に入るや否や、天気や野球については話さず、いきなり『案件をまとめたい!』と言う」とアジア系のアクセントでジョークを飛ばし、会場の笑いを誘った。

■LGBTQ

6月のゲイ・クラブ乱射事件の後、「大統領として持てる力を全て使い、LGBTQ市民を守ります!」と演説したトランプだが、過去の言動は反LGBT。最高裁判所の裁定により全米で同性婚が合法となった後、「大統領になったら同性婚反対の最高裁判事を指名し、覆す」と発言している。それ以前にも「ゴルフのパターをとても長いものに変える人が多いが、とてつもなく魅力がない。ヘンだ。私はあれが嫌いだ。私は伝統的だ」と、同性婚をゴルフのパターに例える話もしている。2011年の時点では、同性婚はおろかパートナーシップも「ノー&ノーだ」としている。

共和党副大統領候補でインディアナ州知事のペンスはさらに強烈なアンチLGBT。昨年、「信仰の自由法」に昨年サインし、同州で施行している。同法は、例えば商店主が「私の信仰に反するのでゲイの客に商品は売れない」、役所の職員が「私の信仰に反するので同性婚の申請書類を受け付けられない」といった言動を合法化してしまっている。

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8年前に史上初の黒人大統領が誕生して以来、マイノリティは大いに勇気付けられてきた。同時にマイノリティの躍進によって自身の優越感と既得権を無くすことに極度の恐怖を抱える者たちがレールを踏み外した。永年の間に減っていたKKKなどヘイト団体に所属する者の数が増えたというデータがある。

昔、KKKのターゲットは黒人とユダヤ教徒だった。それとは別の文脈で、女性は常に男性から抑圧されてきた。今、時代は代わり、ヘイトの対象はイスラム教徒、ヒスパニック、LGBT、さらにはアジア系にも広がりつつある。昔はマジョリティの視野には存在しなかった、もしくは差別の対象にすらならない取るに足らない存在だったグループが、今は狭窄な者たちの視界に入り、苛つかせている。

トランプ支持者がトランプを支持する理由には経済事情も含まれ、必ずしも人種などに基づくヘイトだけが理由ではないが、根底にあるのはそれだ。トランプが叫び続けるスローガン “Make America Great Again” (アメリカを再び偉大に)に共感する層の「偉大さ」とは、自分たちのみが数も能力も立場も秀で、特権を維持できることを指している。

こうした層は真の意味での知性も理解せず、オバマ大統領の知性に反感を抱き、「トランプこそ、我らの代弁者」と言う。トランプに米国大統領として外交と国政を行う能力と知識があるのか、そこに疑問は持たない。

私自身は、テレビ画面でこうした言動を繰り返す大統領を子どもたちに見せることを恐れている。オバマ大統領が過去8年間、人種や背景を問わずすべての子どもたちに見せた品位・知性・ユーモアも含めた人間性と未来への希望をドナルド・トランプはすべて反故にしてしまう。私がトランプをこの国の大統領にするわけにはいかないと考えるのは、これが理由なのだ。

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※本記事は「ハーレム・ジャーナル」の10月14日の記事の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。

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堂本 かおる

堂本 かおる

ニューヨーク在住フリーランスライター。ブラックカルチャー、エスニックカルチャー&移民事情の他、教育、犯罪、福祉などアメリカの社会事情を雑誌、書籍に執筆。 ●ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア ●ハーレムツアー/ゴスペルツアー

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