
書籍:『セシューズ・ハイ 議員探偵・漆原翔太郎』
著者:天祢涼
出版:講談社
発行:2013.1.24
世襲議員といえば、大抵イメージは良くはない。親の地盤、看板、カバンをそのまま引き継ぎ、さしたる苦労もせずに議員特権を手に入れて高給を稼ぐという印象がつきまとう。もちろん本人に高い能力はあるのだろうが、世襲で議員という恵まれた地位を得ることに対して幾ばくかの羨望にも似た思いを覚えるせいか、どうしても本人の能力以上に優遇されているような印象さえある。そんな立場に異を唱えるのが、本作の主人公、漆原翔太郎である。
「みなさん、政治家がなにをしても、逆になにかをしなくても、とにかく批判するじゃないですか。そんな目に遭うとわかっていながら政治家を志す子どもがいるはずありません。かくして子ども達は政治家を避け楽にほめてもらえる職業を選び、政治の空洞化が進んでいくのです。そこで出番となるのが、僕ら世襲議員です。……云ってみれば僕ら世襲議員は『政治家』という職業を守る、最後の砦なのです。世襲が悪?政治を家業にしている?とんでもない。感謝ならともかく、批判される筋合いはありません」
……自分が仕える「先生」がこんなことを言おうものなら、火消しに奔走する秘書の手足はいくらあってもたりない。『セシューズ・ハイ』では、黙々と仕事をこなす姿から「サムライ秘書」と謳われたキレ者、雲井進が、世襲で国会議員になった翔太郎の公設第一秘書として活躍する。いや、コメディタッチのこの物語では、活躍というより空回りするといった方がふさわしい。良く言って天真爛漫、ありのままを言えばおバカな翔太郎に振り回される役どころを、雲井が戸惑いつつも自ら選んでいく様子に好感が持てる。
一話ごとに完結しているが、前話を引き継いで話が展開するので、見落としがちな小さな描写が次の話できちんと回収される伏線となっており、ディテールを味わうためにもう一度最初からページを繰ろうという気になる。コミカルな筆運びのためか、ミステリ調といえども変に感情が高ぶることもなく、手軽に読書を楽しめる。
国政選挙にしては選挙時の描写が臨場感に乏しくリアリティに欠けるものの、その難点と引き換えに登場人物の人となりが丁寧に書かれていて、読み手の心を離さない。続きが詠みたくなる愛すべき登場人物たちが魅力である。
この記事をシェアする
選挙ドットコムの最新記事をお届けします