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30代、人生のレースを走るために戦う選挙『ダイスをころがせ!』(書評)

2015/9/23

川上伊織

川上伊織

51OLBF7ZE6L51Aos45h55L 書籍:『ダイスをころがせ!』上・下
著者:真保裕一
出版:講談社
発行:2013.7.12

 

 

「選挙には魔物がいる」とは、よく聞く言いまわしだ。盤石の地位を築いていると思われた候補者が急速に支持を失ったり、何が起こるかわからないといった意味で使われることもあるし、選挙を戦う中で陣営に強固な仲間意識が醸成され、熱にうなされるような盛り上がりを体験し、いわゆる「選挙ハイ」になるような状態を指すこともある。本書『ダイスをころがせ!』では、かつての仲間たちが、そんな魔物に魅せられつつ、自らの場所を探す様子が綴られる。

総合商社で仕事に邁進していた駒井健一郎は、事業失敗の責任を負わされ子会社に出向、仕事を奪われて自ら退職を申し出た。結果、妻と娘は出て行き、ハローワークに通いつつ酒を食らって惨めさをごまかす日々を過ごしていた。そんなとき、高校時代のライバルから衆議院議員選挙に出馬するため第一秘書として支えてほしい旨の要請を受ける。「俺には守らなければいけない家族がある」「夢を見るのはやめろ」と断り続けるものの、ひとりになると考えるのは、人生のレースをどう走れば良いのかということばかり。34歳、無職。元長距離ランナーとして活躍した健一郎は、まっすぐにゴールを目指した日々の情熱を忘れていなかった。今こそ、新たなレースに向かえるチャンスなんだ……。

本書は、地盤・看板・カバンを持たない年若い候補者が、既成政党の枠を超えて政治を変えるために衆議院選挙に挑む戦い方を描いた物語だ。彼を支える登場人物は、健一郎をはじめ、いずれも政治を変えたいと思っている一方で、自らも変わりたいと望んでいる。30代も半ばを迎え、それまでの人生をふり返った時、程度の差はあれど後悔を覚えない人はいない。それぞれの人生を選挙に投影して、戦っていく。

青年というには社会での立場がそれを許さず、中年というには青臭さが残る。34歳とは、まだ迷って良い年なのだろう。健一郎は事あるごとに「大人になれよ」と自らに言い聞かせるが、34歳はまだ、何もかも背負い込まなくても良い年だ。一番大切なのは妻と娘であることに変わりはないが、自分が前を向いて、誇りをもって走れるのは、決して安定したレールの上ではなかった。姿の見えない相手からの妨害工作に遭い、理想と緊張感をもって戦う健一郎は、日に日に精悍さを増し、確実に歩を前に進める。子育てのために退職し、娘しか見てこなかった妻との対比が印象深い。

架空の物語ではあるが、現代社会に照らした問題提起も多々あり、立候補から選挙を戦うまでの流れを知りたい人には参考になるだろう。

 

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川上伊織

川上伊織

零細メディアにて約7年間、本の紹介コーナーを担当。絵本からビジネス書まで多岐にわたって、要約、書評、著者インタビュー、文学賞の取材などを行う。選挙に関わる人たちの近くで仕事をするようになって久しいものの、選挙の知識は相変わらず門前の小僧程度。日々精進します。

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