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北国の冷たい空気をまとう選挙 『カウントダウン』(書評)

2015/11/21

川上伊織

川上伊織

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書籍:『カウントダウン』
著者:佐々木 譲
出版:新潮社
発行:2013.10.28

雪国の冬は長い。冴えわたった空気は、澄んでいるというよりもむしろ張りつめていて、ときに息苦しささえ感じさせる。市長選を4か月後に控えた幌岡市は、財政難を抱えていた。かつて栄えた炭鉱が閉山となったあと、現在5期目の大田原昭夫市長のもと観光開発に過剰に投資して財政が悪化し、隣接する夕張市同様、財政再建団体入りは秒読みだと噂されていた。それでも意気軒昂な市長は己の力を喧伝して6期目を狙うという。そこに対立候補として名乗りを上げるのが、市議1期目の新人、森下直樹である。

諸悪の根源である現職を倒そうと奮起する新人、彼を支える選挙コンサルタント、既得権益を握った市長派から仕掛けられる妨害工作など、設定は選挙小説の王道を行く。唯一、本作品が他の選挙小説と異なるのは、熱さが見えない点である。

選挙は、関わる人すべての心を熱くする。情熱、闘志、嫉妬、渇望、焦燥など、熱の種類には区別があるが、戦う人たちの心は一様に熱い。だが幌岡の人たちはどうか。それぞれ確かに真剣ではあるが、読み手が共感し、登場人物たちと同じように息をのみ、希望を持つような熱さはない。そうなる手前で、まるで幌岡の寒さに目覚めさせられるかのように、淡々と読み進めていく状態が続く。なぜか。

36歳の市議兼司法書士、森下直樹のまっすぐな生き方のためか、あるいは選挙コンサルタント多津美裕の木で鼻をくくったような応対の仕方のためか。いやそもそも、選挙業界トップを自任する多津美が片手間でしか関わらないという設定にも、熱はない。

雪に覆われる町の一大方向転換を促すメルクマールとなる選挙を戦う直樹の思いが、炎の中心となる青白い熱だからだろうか。炎心と呼ばれる炎の中心部分は低温で、そこには燃え切らない気体が残っている。今回の選挙戦で十分に熱せられなかったその気体は、これから取り組む市政で少しずつ燃焼し、やがてはもっと大きな舞台で熱を帯びるのだろう。幌岡の凍てついた空気は、真面目で愚直な直樹の野心を、程よい炎で燃やし続ける。

 

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川上伊織

川上伊織

零細メディアにて約7年間、本の紹介コーナーを担当。絵本からビジネス書まで多岐にわたって、要約、書評、著者インタビュー、文学賞の取材などを行う。選挙に関わる人たちの近くで仕事をするようになって久しいものの、選挙の知識は相変わらず門前の小僧程度。日々精進します。

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