書籍:『本日は、お日柄もよく』
著者:原田マハ
出版:徳間書店
発行:2010.8.26
「本日は、お日柄もよく」という言葉は、最近では結婚式以外ではあまり耳にしない。ずっと片思いをしてきた幼馴染の結婚式でまさにその言葉が入ったスピーチを聞き、スピーカーのとりこになってしまったのが、この本の主人公、二ノ宮こと葉である。日を置かずに伝説のスピーチライターに弟子入りし、やがてはOL生活に終止符を打って、スピーチライターの檜舞台とも言える選挙に関わるようになる。
選挙の現場は、想像以上に忙しい。10分ほどの街頭演説でも、話す内容を事前に決めて文章にしておくのはもちろん、目の前の聴衆に合わせて話す内容を変える。お年寄りが多ければ後期高齢者の医療制度について、公園の近くであれば子どもを遊ばせている母親たちを意識して子育て政策について重点的に話すなど、どのような人が聞いてくれるのかを調査して内容に手を加えるのも、スピーチライターの仕事だ。
加えて、相手候補がここまで批判してきたから、こちらではこう迎え撃とうといった、ライバル陣営の情報収集と対策も欠かせない。敵陣スピーチを分析した上で党としてブレない主張を盛り込みつつ、候補者本人のスピーチにする。そして、仕掛けるタイミングを見極めて、ここぞという時に爆弾を落とす。
こんな仕事は、文章を書くことが嫌でない人にとっては、恐ろしくもあるけれど非常にチャレンジングで、言葉のもつ力にしびれさせられるであろうことは想像に難くない。新人だからと言い訳をしていたこと葉も次第に本気になり、言葉で人を熱くし、心を動かしてみたいと思うようになる。
本書は、格式高いというよりは手軽な小説だ。年上のデキる女性が「〜するわね」「〜なのよ」といった「いかにも」的な語尾で会話を終わらせたり、与党と野党の党首の名前がそれぞれ小早川と小山田で似通っていたり、設定にやや違和感を覚えることはあるものの、総体としては面白い。選挙戦が始まり、相手陣営との駆け引きのシーンでもたらされるスピード感は、選挙好きにとっては山場のひとつでもある。
展開が読めてしまうという難点を差し引いても、設定やセリフがビジュアル向きで、ドラマ化した作品を見てみたくなる。スピーチライティングとはどんなものかという概要をつかんだり、選挙の雰囲気を知りたいとき、あるいはラブストーリーを読みたいときにお勧めの一冊である。
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