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失うもののない議員の根性 『タナボタ!』(書評)

2015/11/11

川上伊織

川上伊織

tanabota書籍:『タナボタ! 』
著者:高嶋 哲夫
出版:幻冬舎
発行:2010.7

月給130万円、夏と冬のボーナスが約630万円。この約2200万円が、衆議院議員の年収らしい。加えて領収書のいらない「文書通信交通滞費」1200万円と「立法事務費」780万円がプラスされて約4200万円。欠勤、遅刻、居眠り自由。資格、経験、学歴不問。

27歳フリーターの大場大志は、この「最高に美味しい仕事」にタナボタでありついた。政権交代の風に乗って候補者公募に手を挙げ、卒論を短く書き直した書類で選抜試験に通ったのだ。要領は良い方で、目立つことは嫌いじゃない。土下座の練習だってやるが、アタマには期待できない。『タナボタ!』は、そんな大志を通して日本の政治・選挙制度に関する不合理さを突く。

比例名簿98番目というブービーながら「一夜明けたら先生になっていた」大志をはじめ、お笑い芸人、プロレスラー、お天気キャスター、医師、中小企業経営者など、およそ政治とは縁の薄い職業の人たちが比例代表という選挙制度のもと、国民の代表たる国会議員になっていく。

比例って何だ。大志の指導係となった梅村忠夫は「比例で通った奴らを国会議員とは認めない」と言う。そんな梅村だって、小選挙区で対立政党に刺客を立てられて大敗、半年後に参院選に立候補して比例で通るという節操のないことをした身分である。言うまでもなく、参議院とは、衆議院の議論を異なる見識からもう一度吟味し直すところだ。そこに衆議院と同じ頭を持った人が入っても、何の意味もない。衆議院がダメだったから参議院に、という自らの行動を、梅村は「悪魔に魂を売った」と自嘲した。

『タナボタ!』は、比例代表制の功罪、二院制の実態、巨大政党内の理不尽な力学など、著者が疑問視しているであろう問題に次々と触れていく。秘書の雇い方や議員立法の通し方など各種の説明が助長で、全体を通してやや解説くさい雰囲気もあるが、熱血漢でもなく、かと言って無気力でもない等身大の1年生議員である大志の行動は、読み手の正義感をくすぐる。タナボタで議員になった大志は、党議拘束を無視して議員立法を提出。この時点で国会議員としての次はないから、己の良心にのみ従って行動できる。改革の芽は、ひょっとするとこんなところから生まれるのかもしれないと、少しばかり現実に期待してしまう。

 

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川上伊織

川上伊織

零細メディアにて約7年間、本の紹介コーナーを担当。絵本からビジネス書まで多岐にわたって、要約、書評、著者インタビュー、文学賞の取材などを行う。選挙に関わる人たちの近くで仕事をするようになって久しいものの、選挙の知識は相変わらず門前の小僧程度。日々精進します。

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