書籍:『平和のための戦争論: 集団的自衛権は何をもたらすのか?』
著者:植木 千可子
出版:筑摩書房
発行:2015.2.4
「戦争をしない国」の看板を自ら下げる集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法案が7月16日、衆院本会議で可決した。これにより、今国会中に安全保障法制が成立する見込みだ。安倍首相は繰り返す。「わが国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している」。だからこそ、いま有事に備えることが必要だと説くが、一体どのような状況を「厳しい」としているのか。
安全保障に関する議論は、難しい。耳慣れない専門用語もたくさんあるし、非公開情報も多い。それでも私たちは、主権者として自ら責任をもって戦争をするのかしないのかを決めるために、安全保障に関する知識を得て考えなければならない。そんなときの一助となるのが『平和のための戦争論――集団的自衛権は何をもたらすのか?』だ。
本書は新書ということもあり、関心のある大学生なら十分内容を咀嚼できるレベルで書かれている。安全保障の専門家である著者は、安全保障を考えるには、脅威を特定し対処法を考えることと、自国が脅威とならないようにチェックすることが必要だと説く。本書ではこの2つを前提としたうえで、戦争を防ぐための考察が繰り広げられる。
日本にとって差し迫っていると考えられる脅威の一つは、北朝鮮の核兵器開発だ。事実、北朝鮮は日本を攻撃できるだけの能力を備えた核兵器を開発しており、核弾頭ミサイルが発射されたら、日本の被害は計り知れない。だがそのミサイルだけでは、北朝鮮はその後勃発する戦争には勝てない。通常兵器では米国や韓国の方が勝っているし、戦争を維持するだけの費用もないからだ。周辺国に追いつめられてどうにもできなくなり、苦し紛れにミサイルを発射するという状況以外、北朝鮮から戦争を始めるとは考えにくい。とすれば、「日本も軍備を拡充してお前の攻撃に備えるぞ」という強硬姿勢を見せるより、北朝鮮を対話のテーブルに出して良好な関係を模索していく方が、コストとしてははるかに安く済み、道徳上もしっくりくると著者は分析する。
では、中国の脅威はどうか。中国は毎年防衛費を増やして空海軍力を増強しつつ、尖閣諸島の領有権を主張してきている。中国籍漁船による領海侵犯もしばしば起こる。こうした態度は、私たちには確かに脅威に映る。日本政府は中国が本格的に侵攻してくる可能性は低いと見ているが、警戒・監視を強化し、「これ以上来たらひどいことになるよ」と脅すことで攻撃を事前に抑止することを目指している。脅しの信憑性を高めるためにはそれなりの軍備を整え、守る意思が強いことを示す必要がある。それゆえの、安全保障法案なのだろう。
だが著者によるとこれは諸刃の剣で、「脅しが強固で軍事能力が高いことは抑止を可能にするが、逆に対立を深める事にもつながる」と述べる。この「安全保障のジレンマ」を緩和するためには、平和の方が得だという損得計算と、平和による安心感を実感できることが必要だ。それには日中の信頼関係を強化することが不可欠だと著者は説く。
「長く、日本では戦争のことを語ることを避けてきました。にもかかわらず、日本の安全保障政策が大きく転換しようとしています」「これまでの多くの戦争が、戦争をしようと思って起こったわけではないことを忘れてはならないと思います」と語る著者の平和への思いが詰まった本書は、一足飛びに「徴兵制ができて子どもが戦地に行くのではないか」と過剰反応する前に、自ら考えて議論を深めるきっかけにするために、ぜひ一読をお勧めしたい。
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