書籍:『市民自治の憲法理論』
著者:松下圭一
出版:岩波書店
発行:1975.9.22
デモの勢いが、止まらない。サラリーマンも子連れの主婦も、大学生も高校生も、安倍政権が進める集団的自衛権の行使を認める安保法制に反対の声を上げ、連日デモを繰り広げている。「子どもを戦争に行かせたくない」「自分たちの世代の声を聞かないでこれからのことを決めないで」など、反対する理由はそれぞれにある。そうした声のひとつに、「安保法制は立憲主義の否定だ」という意見がある。
そもそも、日本における立憲主義の大前提となる日本国憲法とは何か。市民自治による社会の確立を目指した政治学者、松下圭一は、1975年に『市民自治の憲法理論』を著した。松下のいう「市民」とは、「自由・平等という共和感覚をもった自発的人間型」であり、「市民自治を可能とするような政治への主体的参加という特性をそなえた人間型」である。これはまさに、国会前や渋谷でデモに参加する一般の人たちのことだ。
そうした「市民」こそが憲法理論の構築に参加すべきだと、松下は説く。「憲法理論もあらゆる問題領域とおなじく、いわゆる専門家によって独占しえない」「すべての市民は、憲法学を専門とするか否かにかかわりなく、憲法理論を自由に構築することができる」。松下のこの市民に立脚した憲法理論は当時、旧態依然とした国家観やその憲法解釈に大きな衝撃を与えたという。
松下は国民主権と選挙について、「選挙は白紙委任ではない。選挙は『信頼委託契約』である。政府が逸脱するときは『信託契約』を解除する。これが国民主権である」と定義している。『市民自治の憲法理論』が出版されてから40年が経過しているものの、なぜか現在の問題にも照らし合わせることができる。古さを感じさせない本をこそ、古典的名著と言うのだろう。
2000年代に入り、周辺事態法や新ガイドライン制定の流れで改憲へ向けた動きが活発化することが懸念されはじめると、松下は、戦後から延々と続く改憲か護憲かという二項対立の議論を越えた「市民立憲」の重要性を指摘し、「憲法とは、市民的合意をたえず要請しながら修正・追加・整備されうる、可変の市民準則である」と提起した(『市民立憲への憲法思考――改憲・護憲の壁をこえて』)。
憲法は、可変である。その中身を考えるのは、一部の専門家や活動家、政治家ではなく、行動を起こす主体である私たちに他ならない。参議院で安保法制が審議されている今だからこそ、あらためて読み直したい一冊である。
この記事をシェアする
選挙ドットコムの最新記事をお届けします