2025/1/7
こんにちは。兵庫県川西市議会議員の長田たくや(ながたく)です。
インスリン開発シリーズ③の最終話です。
※インスリン開発競争シリーズは3部+αに分かれています。
①世紀の大発見
②超スピード型への挑戦
③なが~く効くために
■最新のインスリン製剤は週1回!?
動物から抽出したインスリンがヒトインスリンへと進化し、さらにアミノ酸配列を改変することで、より便利・強力な「インスリン・アナログ」が誕生しました。前回は“超スピード”で効く改造。今回はその逆──じっくり・ゆっくり効く持効型(基礎分泌をまかなう)のお話です。

従来の中間型(ノボリンN/ヒューマリンN など)はピークもあるし、何より続かない…だらだら長く続くようなインスリン製剤がほしい!となりました。
リリー(アメリカ)かノボ(デンマーク)かと思っていたら…
2000年、1日1回の持続型インスリンを初めて発売したのは、ドイツのヘキスト(現サノフィ/仏)。インスリン・グラルギンを有効成分としたランタス®注です。
ヒトインスリンからの改変点はたった2つ。
①A鎖の21番目アスパラギン酸をグリシンGlyへ変更
②B鎖末端に2つのアルギニンArgを追加

■ どうやって効果が長くなったの?
この改変で、pHが変化しました(pH5.5→6.7)。製剤シリンジの中では、弱酸性(pH≒4)で無色透明なのですが、体内では中性下(pH7.4)となるため沈殿を起こします。そこから少しずつしか溶け出すことで長時間作用を実現したのです。
【ランタスXRの登場】
2015年には濃度を3倍にしたランタスXR®(シャア専用ザクか!)が発売。ランタスが1ml100単位のところ、XRは300単位となっています。例えば30単位を打つ場合、ランタスでは0.3ml、ランタスXRだと0.1mlで済みます。より濃いものを打つと、より長く効くことが判明したのです。
ほんなら、XRだけにしたらいいやんとなりそうですが、まだ2つ販売しています(汗)しかも、あまり単純ではなく、強めに効いてしまうおそれもあるようで、こちらの病院のDIチームは怒っていますね(リンク)。調剤も間違い。
■ 別アプローチの新たな製剤
2004年、サノフィに先を越されたノボですが、インスリン・デテミルを有効成分とした持効型インスリン製剤(レベミル®注)を発売しました。
ヒトインスリンからの改変点はたった2つ。
①B鎖30番目のトレオニンを削除
②B鎖29番目のリジンにミリスチン酸を結合

ミリスチン酸は、パーム油などにも含まれる飽和脂肪酸です。こいつがレベミル®のキーポイントです。
血中のアルブミン(タンパク質)と可逆的に結合し、結合⇄解離のバランスでなだらかに放出。
一定レベルに保つの“Level ”と、ミリスチン酸myristic acid を足し合わせて、Levemyrでレベミル®となりました。

最新作のアウィクリ®注(リンク)と同じ方法、むしろ元祖なのです。
■ さらに進化した持効型
2015年、ノボはまたもや新しい持効型インスリンを開発し、インスリン・デグルデクを有効成分としたトレシーバ®注を発売。
ヒトインスリンからの改変点は2つ。
①B鎖30番目のトレオニンを削除
②B鎖29番目のリジンにグルタミン酸×2とヘキサデカン二酸を付加

えらく長いものをつけましたね。その結果、以下のように6量体(ヘキサマー)がヘビのようにつながる”マルチヘキサマー”ができるようになりました。
皮下でマルチヘキサマー(ヘキサマーの連なり)を形成し、超安定な“貯蔵庫”からゆっくり解放される構造。
さすがインスリン専業のノボ、アルブミン戦略と自己集合戦略の二刀流を出してきます。

■ リリー「・・・ぐぬぬぬ」
リリーに持効型の独自新薬はありません。ランタス®の特許が切れ、そのジェネリックを展開(インスリン・グラルギンBS「リリー」)。薬価が安くなるので、患者さんにとってはメリットだし人気の薬となりましたが…世界初のインスリン製剤を作った会社にしてはちょっと残念な感じですね。
【持効型は3種類+新薬】
・ランタス®、ランタスXR®(サノフィ)
・レベミル®(ノボノルディスク)
・トレシーバ®(ノボノルディスク)
・アウィクリ®(ノボノルディスク):新薬
ノボがんばりすぎ。でも、販売シェアはランタスが1番だったと記憶しています。トレシーバも処方がかなり増えていますが、レベミルはなんだか地味な存在ですね。

【3社の自己注射デバイスの名前】
ノボノルディスク社:フレックスペン
イーライリリー社:ミリオペン
サノフィ社:ソロスター
この注射の名前が末尾に必ずつきますから、どの会社の製剤か一発でわかります。
【インスリンだけじゃない】
糖尿病治療は、いまやインスリンだけではなくGLP-1と呼ばれるホルモン製剤が台頭。GLP-1の歴史も色々おもしろいので、また機会をみてまとめようかなと思います。
3回にわたってインスリン製剤の進化をまとめました。
糖尿病の方々のQOL向上に、この100年の創意工夫がどれだけ貢献してきたかは計り知れませんね。コロナ禍で製薬業界への印象は最悪になりましたが、一方で地道な改良が患者さんの生活を「ラク」にしてくれているのも事実──インスリンはその好例ではないでしょうか。興味を持っていただけたらうれしいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
素敵な1日でありますように。
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