10月10日に告示された参議院埼玉県選出議員補欠選挙(以下、今回の補選)には、今年7月の参院選で初当選したNHKから国民を守る党(以下、N国党)代表の立花孝志氏と元衆議院議員で4期16年埼玉県知事を務めた上田清司氏の2人が立候補を届け出ています。
上田氏の立候補表明に対し、自民党などが独自候補の擁立に動いていましたが9月下旬に擁立見送りを決めています。立花氏は今回の補選にN国党が候補者を擁立する旨を動画などで述べていましたが、8日の記者会見・自身のYouTubeチャンネルの動画で立花氏自身が立候補する意向を表明しました。
今回の補選における各政党のスタンスやこの構図が持つ意義などを考えてみます。
今回の補選を考える上でまず、これまでの知事選や国会議員の補欠選挙の構図でどんなものが多いか、今年行われた選挙を例にみてみましょう。
わかりやすいのが4月の統一地方選で行われた北海道知事選のような与野党対決の構図です。北海道知事選は国政与党が支援する新人と国政野党が支援する新人の一騎打ちでした。このような与野党対決は、同じく4月に行われた国会議員の補欠選挙の衆議院沖縄3区補選でもみられました。
7月の参院選の選挙区選挙では、複数人区で与野党ともに複数の候補者を擁立する選挙区もあったため一概にはいえませんが、一人区では野党共闘により野党候補が一本化され、与党候補との一騎打ちの構図でした。一方でN国党も37選挙区に候補者を擁立し、全国の選挙区での合計得票率によって政党要件を満たすことにつながりました。
また、知事選や市区町村長選でよくみられる構図として与野党相乗りがあります。4月の統一地方選では神奈川県知事選や三重県知事選、大分県知事選などがこれにあてはまるといえます。現職の候補者を国政の与野党がともに推薦・支持などをする構図で、このような場合には現職候補に挑むような形で共産党の推す候補者が立候補することも度々みられます。
統一地方選の知事選で目立った保守分裂の構図も紹介しておきましょう。これは福井県知事選や島根県知事選、徳島県知事選でみられた形ですが、自民党本部などの方針と、自民党の地元組織などの方針が食い違ったまま調整がつかない場合にみられることが多い構図です。
8月に行われた埼玉県知事選では、選挙前には行田邦子氏のような第三勢力の立候補も取りざたされていましたが、最終的には国政野党や今回の補選に立候補している上田氏から支援を受けた大野元裕氏と、国政与党が推す青島健太氏との与野党対決の選挙として注目を集めました。他方で埼玉県知事選にはN国党も候補者を擁立して独自の戦いを進めていました。
しかし今回の補選では上記のいずれとも異なる、NHKから国民を守る党の立花孝志氏と前埼玉県知事で無所属の上田清司氏の一騎打ち、という構図が展開されています。なぜこのような構図の選挙になったのか、補選に対する各政党の姿勢から見てみましょう。
今回の補選は8月の埼玉県知事選に大野元裕氏が立候補し失職したため行われています。大野氏は2016年の参院選で選出された議員のため、2022年の任期満了まで3年弱の任期を残しています。今回の補選で当選した議員の任期は大野氏の任期を引き継ぐことになるため2022年に改選を迎えます。
2022年に埼玉選挙区の改選を迎える議員・議席は、2016年埼玉選挙区選出の、
の4議席です。
今回の補選で自民党が候補者を擁立しなかった理由の一つに、補選で自民党の候補者が当選すると2022年の参院選で埼玉選挙区に2人の自民党の現職議員がいることになります。埼玉選挙区は自民党と同じく与党の公明党の議員がいるため改選4議席のうち3議席を与党の自民・公明両党で占めることになります。
参院選の4人区は埼玉の他に神奈川、愛知、大阪がありますが自公で4議席中3議席を占める選挙区はありません。埼玉はこれまで自公で1議席ずつを確保してきた選挙区ですが、自民2人・公明1人となると自公の協力関係も揺らぐ可能性もありました。
8月の埼玉県知事選では自民党が推す青島氏が上田氏の支援する大野氏に敗れたこともあり、知事選に続いて補選でも上田氏と戦って負けることを避ける狙いも自民党県組織にはあったと考えられます。また、自民党本部のレベルでも二階幹事長と上田氏の関係が良好で、憲法改正についても上田氏は前向きだ、という認識から今回のような決断に至ったとみられます。自民党としては自主投票を決め、公明党も対応を検討をしているようです。
他方、立憲民主党、国民民主党といった野党は上田氏支援の姿勢を示しています。8月の埼玉県知事選では共に大野氏を支援したことや、野党勢力につなぎとめる狙いなどから、9月25日には立憲・枝野幸男氏と国民・玉木雄一郎氏の両代表が上田氏と会談し、協力のありかたについて話し合っています。共産党や社民党は上田氏の憲法改正に対するスタンスに反発していますが、県組織はそれぞれ自主投票を決めているほか、日本維新の会も支持や推薦は出さない方針です。7月の参院選で躍進したれいわ新選組も、山本太郎氏の立候補や候補者の擁立が取りざたされることはありましたが結果的に独自候補者は立てていません。
他の各政党の補選に対するスタンスとは異なり、N国党の立花氏は今回の補選への候補者の擁立を表明してきていました。
9月下旬と10月初めに自身のYouTubeチャンネルで公開した動画で、元衆議院議員(2012・2014年の衆院埼玉4区で当選)の豊田真由子氏に立候補の打診を行っている旨を述べていたほか、8月の埼玉県知事選に立候補していた青島健太氏にも打診していたことを8日に行った記者会見で明らかにしました。その会見で、両氏への打診が受諾されなかったことを受けて立花氏自身の立候補を決めたと語っています。
N国党にとっては今回の補選に独自候補者を擁立することで党勢の拡大につなげる狙いがある、という見方もできます。立花氏は参議院の比例選出の議員だったため、今回の補選への立候補による立花氏の自動失職があってもN国党で次点の浜田聡氏が繰り上げ当選するためN国党の国会内での議席数に変動は生じません。
今回の補選は、前埼玉県知事の上田氏に与野党が対立もしない(あるいは上田氏を支援する)状況の中、唯一候補者を擁立した国政政党がN国党であり、その政党の代表である立花氏が挑むという構図が注目の要因となり、かつ国会会期中の国政選挙という状況が話題を加速させていくことになると思われます。
話題になれば投票率も上がり、浮動票を獲得するチャンスも増えます。また「反上田」票を取り込むことも加われば、支持率以上の得票を掘り起こすかもしれません。
立花氏は自身のYouTubeチャンネルで公開している動画内で度々「次の衆院選」に向けての動きに言及しています。今回の補選への候補者擁立・立花氏自身の立候補は目の前の戦いだけではなく、それに向けた足掛かりの一つと言えるのかもしれません。
注目の参議院埼玉県選出議員補欠選挙は10月27日(日)に投開票が行われます。
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