東京都議会は、8日招集の臨時会において正副議長を選出し、都民の新たな付託を受けた議員たちは、本格的な活動をスタートさせます。
今回の都議会議員選挙で、大きく議席を伸ばした都民ファーストの会は公認と無所属の推薦候補を合わせて「213万票」を獲得しました。立候補数が違うので単純に比較は出来ませんが、自民126万票、共産77.3万票、公明73.4万票、民進38.5万票などですから都民ファーストの会の得票数は際立っています。
新党が躍進した場合、「既成政党にお灸を据えるため批判票を取り込んだ」「新党に期待する風が吹いた」などとこれまでの選挙総括では語られてきました。今回、都民ファーストの会が獲得した「213万票」という得票数をどのように見れば良いのかその内実を分析していきます。
対象は公認50人、無所属で推薦を受けた11人の得票数とします。
(都民ファーストの会は公明23と東京・生活者ネットワーク1の計24人の他党公認候補に推薦を出していますが、この24人については除外します)
選挙の場合、「各選挙区で当選に必要な得票数、当選ライン」を考えるため、いわゆる「票読み」を行います。各候補者が獲得しそう(できそうな)得票数の目安を割り出します。選挙後も「得票結果の数や率の増減」を検証して、選挙総括を行い、次の選挙や日常活動の強化に向けた戦略戦術を考えていきます。既成政党の場合、国政選挙や地方議員が獲得した得票数を参考に「ある程度」の基準があり「ものさし」にしていきますが、選挙初挑戦の都民ファーストの会にはその基準=ものさしがありません。
都民ファーストの会は、選挙直前に小池知事が代表に就任し知事への支持の高さを各候補者の得票に結びつける戦術を選択しました。仕組みが違う選挙での得票数比較となってしまうため、「参考分析」となりますが、去年の知事選挙において、小池知事が獲得した得票を基準に、都議候補の得票数を分析していきます。
●東京都全体での小池知事の得票数は290万票、これに対して都民ファーストの会61人の候補者の合計得票数は213万票と77万票少なく、歩留率は73%でした。
●府中市では2人の公認候補の合計得票数は6.6万票と小池氏の得票数に比べ1.3万票増やしたのをはじめ、西東京市は8,500票超、台東区では約6,000票増やしています。
●割合(貯金率/歩留率)で見ていくと、稲城市が128%と最も高く、次いで府中市124%、羽村市121%などとなっていて、合わせて14の区・市・郡で小池氏の得票数を上回っています。
●稲城市は、市長を務めた経験がある候補者の個人票、府中市は一方の候補者を自動車産業の労働組合が中心となって支援していたので、労働組合票を積み上げたものと推測できます。
●また、台東区の候補者はともに父親が都議・国会議員を経験していることから、父親の代からの支援者を中心に、個人票を積み上げた結果と思われます。
●歩留率が都平均の73%を上回ったのは15の区・市(島部含む)です。千代田区の候補者は、去年の知事選挙で小池氏が獲得した得票数とほぼ同数の1万4,418票を獲得していて、小池氏と連動した選挙戦術が奏功した形です。
●落選したものの、島部選挙区の候補者の歩留率は約77%で、小池票を結びつけるための運動展開という視点では善戦したと言えます。
●一方、歩留率が都平均の73%を下回ったのは22区・市あります。大田区、世田谷区、足立区は、得票数こそ多かったものの、歩留率は6割を切っています。結果論ですが、「もう1人候補者を擁立」しても当選したのでないかと指摘できます。
●その他の選挙区でも、当選したものの「小池票の歩留は6割~7割」に留まっていて、「小池票に結びつける」ための運動を展開できたかどうかという観点では課題が残ると思われます。
1993年の都議選では、当時、小池知事も所属していた日本新党が初挑戦し、22人の公認候補者のうち20人が当選しました。
当選した20人の候補者の4年後の都議選での結果を見ていきます。
●港区(定数2)12,744票 1位当選⇒新進党6,297票 落選
○新宿区(定数4)29,017票 1位当選⇒無所属10,657票 4位当選
●墨田区(定数3)17,641票 3位当選⇒選挙後、死亡
●江東区(定数4)28,615票 2位当選⇒民主党11,465票 落選
●品川区(定数5)24,380票 2位当選⇒無所属4,731票 落選
●目黒区(定数3)23,702票 1位当選⇒立候補せず
○世田谷区(定数8)58,642票 1位当選⇒民主党18,279票 7位当選
●渋谷区(定数3)21,614票 1位当選⇒新進党8,516票 落選
●中野区(定数4)23,128票 1位当選⇒立候補せず
○杉並区(定数6)42,723票 1位当選⇒無所属17,274票 4位当選
●杉並区(定数6)21,701票 5位当選⇒立候補せず
●豊島区(定数3)20,077票 2位当選⇒民主党10,118票 落選
●板橋区(定数5)29,886票 4位当選⇒無所属1,768票 落選
●足立区(定数6)39,790票 2位当選⇒新進党8,668票 落選
○葛飾区(定数4)25,721票 2位当選⇒自民党14,554票 4位当選
●八王子市(定数4)35,275票 4位当選⇒無所属10,963票 落選
●町田市(定数3)30,654票 2位当選⇒立候補せず
○小金井(定数1)14,191票 1位当選⇒無所属9,281票 当選
○日野(定数2)19,920票 1位当選⇒無所属14,274票 2位当選 ※次点との差227票
●西多摩(定数2)19,891票 2位当選⇒無所属13,010票 落選
93年都議選で当選した20人のうち、4年後の都議選で再選を果たしたのは6人で確率は30%でした。得票数も大きく減らしていて、当選した6人もギリギリで当選しているケースが目立ちます。
その時点で勢いがある政党の候補者が大量に当選する現象は、これまでも度々出現し、高い支持を誇った党首の名前から「土井マドンナ」「細川家臣団」「小泉チルドレン」「小沢ガールズ」「橋下ベイビーズ」と表現されました。
1人の個性ある政治家を中心に、政治経験がない(もしくは浅い)人たちが議員として集う源流を辿れば「吉田学校」に行き着きます。
戦前の政治家が軍部に屈していった姿を見ていた吉田茂氏は、既成の政治家を信用せず、自身と同じ官僚出身の池田勇人氏、佐藤栄作氏らをはじめ、田中角栄氏、橋本龍伍氏(龍太郎の父)、小渕光平氏(恵三の父)など政治経験がない(少ない)人たち=手垢のついていない人材を官界や地方から国政選挙に立候補させ、新人議員にも関わらず、池田氏を大蔵大臣に登用したり、佐藤氏らを党幹部や側近議員として政治経験を積ませていきます。
池田氏は高度経済成長、佐藤氏は小笠原・沖縄の返還、田中氏は日中国交回復など内政や外交上の課題を解決した他、橋本・小渕両氏の子息もそれぞれ首相に就任し、他の政治家も要職を担っていきました。吉田氏が育てた「吉田学校の人脈と政策」は、時には対立しながらも戦後政治の中で脈々と受け継がれ、「政界の中核を担う人材」を輩出しました。
東京都の年間予算は総額13兆円、スウェーデンの国家予算に匹敵します。市場移転問題、開催まで3年と迫った東京オリンピック・パラリンピック、高齢化の進展に伴う福祉、首都直下型地震への備えなど、議会としても的確かつ早急な対応が求められる課題は山積しています。
課題山積の東京都における政策実現の「即戦力」となるのか、「新党への追い風で当選した一過性の議員」として終えるのか、「有権者として選挙で候補者」に審判を下した「1300万都民」は、これからは「納税者として都議会議員の活動」に厳しい視線を送ることになります。2021年7月22日の任期満了まで、都議として活動できる時間は残り「1,445日」です。(8月8日時点)
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