「ヒラリー氏が勝つと思っていた」。
多くの人がヒラリー氏の勝利を予想していましたが、選挙の行方を注視していた日本政府にとっても「トランプ大統領」は想定外だったことでしょう。TPPなど通商政策の行方に思いを巡らせた首相は表情を曇らせたに違いありません。
秋口から解散風がビュンビュン吹き荒れていた永田町ですが、ここにきて風はぴたっと止んでいます。その理由はトランプ氏の勝利を含めた3つの想定外。「早期解散で現状程度の議席を確保する」という首相官邸の基本戦略は大きく狂っているのです。
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想定外の一つが日露問題。安倍首相とロシアのプーチン大統領はこれまで経済協力と引き換えに北方領土問題を前進させ、日ロ平和条約の締結につなげるべく協議を重ねてきました。12月にはプーチン大統領が安倍首相の地元である山口県を訪問する予定で、永田町ではその場で北方領土問題を進展させることで合意し、その成果をもって衆院解散に踏み切るとの見方が広がっていました。
しかし、現実にはロシア政府の態度は想定以上に固く、北方領土問題解決への期待は急速にしぼんでいます。11月20日の日ロ首脳会談後、安倍首相は「平和条約はそう簡単な課題ではない。一歩一歩進んでいかねばならない」と語り、協議が難航していることを暗に認めました。
さらにロシアは首脳会談の直後、北方領土の択捉島と国後島に最新鋭ミサイルを配備。北方領土問題に関して譲歩しない姿勢を示しました。「プーチン大統領と近いトランプ氏の大統領当選により、ロシアは日本より米国を重視する方針に転じた」との解説もあります。いずれにしても安倍政権にとっては大きな誤算です。
もう一つの想定外は10月の新潟知事選で与党系候補が負けたこと。「今解散すれば想定以上に議席を減らすのではないか」との見方が広がり、首相官邸も衆院解散について慎重姿勢に転じたとみられています。
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昨年夏の参院選で勝利したことにより、現状は与党が衆参ともに全議席の3分の2以上を占める状態。衆院では定数475のうち与党が329議席を占めていますが、仮に衆院選を行って13議席以上減らすことになれば3分の2(317議席)を下回ります。そうすれば首相の「悲願」である憲法改正が大きく遠のいてしまいます。
与党議員の頭には「麻生政権の悪夢」もよぎります。2008年に福田康夫首相の後を受けて首相の座に就いた麻生太郎財務相はリーマンショックへの対応を理由に解散を先延ばし、結果的に解散のタイミングを逸して2009年の衆院選で大敗を喫しました。「今、解散しなければ麻生政権のように解散のチャンスを失う」との見方は根強くあります。
仮に今年12月、来年1月の解散を見送れば国会における予算案審議が始まり、夏には東京都議選を迎えます。自民党の連立相手である公明党は都議選の前後数か月間は衆院を解散しないよう強く求めており、来年の秋まで解散のチャンスは訪れません。その頃に今より経済が悪化していたり、トランプ大統領に外交をかき乱されたりしていれば、「3分の2を割り込む」どころの話ではありません。
「安倍一強」と言われてきた永田町ですが、少し風向きが変われば足元が揺るぎかねません。首相は解散時期について思い悩んでいるのかもしれません。
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