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トランプ氏の当選にみる投票行動の危うさ 日本も同じ状況になりかねない

2016/11/10

猪野 亨

猪野 亨

※本記事は「弁護士 猪野 亨のブログ」の転載となります。記事内容は執筆者個人の知見によるものです。

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米国大統領選挙が行われ、当初は絶対当選は無理と言われていたトランプ氏が当選しました。
世論調査には反映されないトランプ氏への隠れ支持層があったというようにも言われています。
トランプ氏、優勢?カギ握る“隠れ支持者”」(日テレ2016年11月2日)
「1日に発表された「ワシントン・ポスト」などによる世論調査では、トランプ氏が支持率で1ポイントリードした。この接戦の中、重要なカギを握るのは、これまで見えてこなかった有権者の動向となりそうだ。
まずはトランプ氏を隠れて支持する人たち-。
トランプ氏支持者「トランプ氏支持者も多いのに、彼らは『リベラルな考えの友達が多く、怖くてトランプ氏支持だと言い出せない』と言う」
トランプ氏と同じ過激で差別的な言動の持ち主だと思われるのを嫌い、表だって支持していると言えない人が相当数いると言われている。」

過激な発言を繰り返し、女性蔑視も露骨、このような人を支持するとはとても恥ずかしくて言えないという分析です。特に一定のインテリ層であればなおさらでしょう。
しかし、本当にそれだけなのかなと思います。
当初、優勢だったクリントン氏でしたが、投票日直前の世論調査ではほとんど接戦であったり、トランプ氏がリードする状況にもなりました。
その原因は言わずと知れたFBIによるクリントン候補のメール問題が蒸し返しです。
2016年10月29日にはこの問題が公になっていますが、投票日の直前です。
その直後から、世論調査ではあれよあれよという間に逆転となりました。隠れ支持層の存在とはあったとしても、いきなり逆転なのですから、このFBIによる捜査の蒸し返しを原因としてクリントン候補から相当数がトランプ氏に流れたことは明白です。
米国大統領選挙 クリントン候補の過去のメール問題が選挙直前に捜査再開 だからトランプ候補という極端な選択と世論がブレブレの怖さ

投票日の直前にFBIが訴追しないと公表こそしたものの、その影響を消し去ることはできず(というより投票後に訴追しないという結論を公表すればあからさまな選挙介入であることが明白となるので、選挙介入目的ではないとの弁明の余地を残すためと思われます)、クリントン候補はあえなく敗れ去りました。
訴追しないという公表から1ヶ月後の投票であれば結果は違っていたことでしょう。
投票行動(世論)を動かすことがいかに簡単なのかを物語っています。
もちろん、それだけがトランプ氏当選の要因ではありません。どのようなスキャンダラスなことが露見しようともトランプ氏には盤石な支持層がありました。米国の有権者が米国社会の矛盾の行き場を求めていたからです。それは対外的強硬路線へと舵を切ったことを意味します。
米国の「トランプ大統領の誕生」に日本支配層がおののく? 米国の忠実なポチでしたから!
「優勢」だったクリントン氏からトランプ氏に雪崩を打つように支持が流れたのは、両候補の間で揺れていた層をトランプ氏に追いやったきっかけがあったからにほかなりません。その直接のきっかけがFBIによる捜査の蒸し返しです。

こういった投票行動や世論などというものは極めて危ういものがあるということを私たちは常に意識しなければなりません。
近いところでは英国のEU離脱です。国民投票の結果ではありますが、EU離脱派が虚偽の主張をしたとかしないとかで国民投票の有効性が問われていました。
英国EU離脱派がウソの宣伝? それなら安倍自民党の方が上だよ

日本でも同様の事件があります。小沢一郎民主党幹事長の強制起訴です。
検察が嫌疑不十分で不起訴処分にしたにも関わらず、検察審査会が2010年4月に一度目の起訴相当議決したことが追い打ちを掛けました。
強制決議の裏側
東京弁護士会の前会長斎藤義房氏の疑惑 自ら弁明せよ

それもあって民主党鳩山政権は崩壊したわけですが、構造改革路線を推進しない鳩山政権に対し、財界、米国が激怒したからです。
2016年6月、民主党鳩山政権が倒されました。
あたかも鳩山氏に問題があるかのような風潮が作られ、世論がそれにいとも簡単になびいたのです。
先日、北海道裁判員制度を考える会主催で清水雅彦先生を講師としてお招きしましたが、その中で、この鳩山政権に対する評価のお話がありました。渡辺治先生らとこの問題で話している中で、渡辺治先生が「もっと私たちが鳩山政権を支えるべきだった」と発言されていたことの紹介がありました。

鳩山政権を支えていたのは民主党だけ(その中の一部)であって、他の共産党、社民党、や市民グループも決して支えようとはしなかった。
しかし、それは間違っていた。今、野党間の選挙協力の問題が議論されているし、多くの人たちが中に入って支えようとしている。しかし、当時の鳩山政権に対しては多くが傍観者であった。鳩山政権があっけなく崩壊した原因でもあった。

私も共感するところです。
鳩山氏は最後には米国の圧力に屈した形となりましたが、しかし、現実に孤立した状態だったのですから、その重圧は凄まじいものがあったでしょう。他方で、左右どちらかも批判の矢面に立たされたのです。
民主党鳩山政権が誕生したときも、とにかく左側の人たちがこの政権の「欠点」をとにかく探し出しては攻撃していました。支えるということからはほど遠かったし、むしろ鳩山政権を倒したい財界やマスコミと同じレベルに成り下がっていたのです。

米国大統領選挙は、私たちの教訓でもあります。ちょっとしたきっかけで誘導させられてしまう、これが世論の怖さです。

 

※本記事は「弁護士 猪野 亨のブログ」の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。

 

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猪野 亨

猪野 亨

1968年生まれ/1992年北海道大学法学部卒業/1998年弁護士登録/2000年いの法律事務所開設 司法改革から政治経済、世界情勢にいたるまで幅広く意見を発信している。 法科大学院の廃止、弁護士人口激増の阻止、裁判員制度の廃止へ向け精力的に活動中。

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