南スーダンPKOに派遣される自衛隊の部隊、平和安全法制施行後、同法制で新設されたいわゆる「駆け付け警護」が初めて任務として付加されることに注目が集まっていたが、ここへきて「駆け付け警護」任務付与が先送りされる方向となってきた。
この件について、平和安全法制に反対の立場の野党側は、派遣された自衛官のリスクが高まり、危険に晒されることになること、特に現在の南スーダンの状況に鑑みその可能性が極めて高いこと等を理由として反対の論陣を張っている。
これに対する政府、特に本件を担当する稲田防衛大臣の答弁は、新たな任務を付加してもリスクは高まらないといったことを繰り返す程度であることに加え、現地反政府勢力のトップの名前の読み方を繰り返し間違える(「マシャール」を「マーシャル」)といったように、不安を増すことはあっても安全であることに確信を持てるような内容とはほど遠いもの。
こうした対応を奇貨としたのか、野党側は稲田大臣の過去の様々な発言や発信まで持ち出して、辞任に追い込もうとするかのように攻勢を強めている。
そもそも、PKOに派遣された自衛官の武器の使用は、改正前のPKO法において、自衛のための最小限の範囲で認められていた。昨年の改正により、使用できる条件が拡大された訳であるが、武器を使用しなければならない状況に遭遇すれば威嚇だけでどうにかなるとは限らず、攻撃してくる相手方を殺傷せざるをえなくなる可能性も否定できない。そうなれば、逆に発砲した自衛官に対して報復の攻撃が加えられる可能性さえある。
つまるところ、なにがしかの武力攻撃が反政府勢力なりから加えられるような状況があれば、形式上関係勢力間に停戦や武力の使用の停止の合意がなされていても、実質的にはそれがないに等しいのであり、武器の使用云々以前にリスクは高いと言えるのではないか。
では、肝心の南スーダンの状況はと言えば、国連南スーダン派遣団(UNMISS)が各地で頻発するようになった武力衝突や一般市民をも巻き込んだ暴力の使用に憂慮を表明しているような状況。(その旨の声明を10月12日付で発表。)既に死傷者が出ており、今後この状態が治る可能性は低いと言わざるをえないだろう。
そうした現状に鑑みれば、稲田大臣が現地の状況を「法律上の戦闘行為ではなく、衝突」と形容したり、「比較的落ち着いている」との認識を示したりするのは、呆れるのを通り越して、この方で防衛大臣は大丈夫か?と心配にさえなる。
ここまでくると、野党でなくとも稲田大臣の防衛大臣としての資質を疑いたくなる。閣僚たるもの、所管分野の専門家ではなくとも、ツボを押さえて的確に対応、答弁できて当たり前。このところ閣僚にはなったもののまともに答弁できず、審議の混乱を招いた人材は毎挙にいとまがない。総理候補とまで言われた稲田氏。まさかこの人までがといったところだろうか。
これ以上稲田氏に大臣として本件への対応・答弁を続けさせるのは、端的に言って酷ではないだろうか。酷というのは本人にとってのみならず、振り回される現地の自衛官や防衛省の担当職員にとっても、である。
斯くなる上は大臣の交替、というのは当然ありうる話として、現地の情勢も踏まえつつ、適任の者が選任されるまで派遣部隊の一時撤収というのも検討すべきであろう。(まあ、その後現地の武力衝突が激しさを増せば、再派遣どころではなくなるだろうが。)
南スーダンPKO問題、既に現地のリスク云々の問題ではなく、稲田氏の大臣としての資質問題に堕してしまった。
(なお、筆者は自民党が野党時代の稲田氏と議論させていただいたことがあるが、人の意見や話をしっかり聞き、的確に答える、非常に聡明な方という印象を持っている。したがって、昨今の一連の対応は未だに解せない・・・)
※本記事は「室伏謙一 (公式ブログ) 政治・政策を考えるヒント! 」の10月14日の記事の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。
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