先月末には、ヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏による初の公開討論会が開催されました。
CNNの調査によると、クリントン氏の勝ちだったと答えた人が62%で、トランプ氏の勝ちだったと答えた人は27%と、圧倒的にクリントン氏の勝ちだったと報道されました。
十分に準備を重ねてきたクリントン氏がトランプ氏が感情的に答えるような「罠」とも思える発言を繰り返し、まんまと引っかかったトランプ氏を横目に自身は冷静に議論する…
(トランプ氏)「クリントン氏は今日の討論会の準備ために、遊説を何度も中止したそうじゃないか!」
(クリントン氏)「あなたは、この討論会で私を批判する準備をしてきたのでしょう。私も準備してきました。それは何か知っていますか? 大統領になる準備をしたのです」
まさに、この一連の流れに代表されるような討論会でした。
しかし、アメリカ国内ではトランプ氏の態度を評価するメディアも多く存在し、米紙ウォールストリート・ジャーナルのヘニンガー氏や英紙デーリー・テレグラフのヘンダーソン氏はトランプ氏の勝利と見ています。
その理由の1つは、クリントン氏の「冷静さ」によるもの。始終笑顔でトランプ氏を皮肉る態度は、「冷たい」「冷酷」といった態度とも受け取られることがしばしばあります。これに対して、感情を剥き出しにするトランプ氏は「人間味がある」と好評化されることもしばしば。
有権者数が2億人を超えるアメリカでは、細かい政策以上に人柄やその人のイメージが重要になってきます。日本国内では批判されがちなトランプ氏の態度を見てみましょう。
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トランプ氏は9月15日に「ザ・トゥナイト・ショー」というトーク番組にゲストとして参加しました。この番組は、司会者であるジミー・ファロンがゲストに面白おかしくインタビューするというのがコンセプトのものです。
その中で、とりわけ大きな歓声が起きたのが、ファロン氏がトランプ氏に「あなたの髪の毛をグチャグチャにしていいですか?」とお願いした時でした。トランプ氏はわざとらしく苦々しい顔を浮かべながら、観客の歓声を確かめてから髪をグチャグチャにすることを認めます。そして、ファロン氏は髪の毛をグチャグチャにした時には拍手喝采。大統領候補らしからぬトランプ氏の姿に、観客は大爆笑となりました。
もともと、トランプ氏は「かつら」疑惑がいつも噂されていました。そこで、トランプ氏はこの疑惑を自身の「持ちネタ」としてフル活用していきます。選挙キャンペーン中が始まってからも、他人に髪の毛を触らせて観客から笑いを取り続けてきました。しかし、今回はトランプ氏ではなく、ファロン氏が言いだしました。そして、トランプ氏もかつてのように泡沫候補などではなく、れっきとした大統領選共和党指名候補です。ちなみに、ファロン氏がトランプ氏の髪をグシャグシャにした部分は、パロディとして動画サイトにたくさんアップされました。これまでの、カッコイイ、けど近づき難いという大統領像を良い意味で裏切ったと言って良いでしょう。
トランプ氏が親しみ易さの演出に長けていることは、かつら疑惑ネタに限ったことではありません。これまでも、あらゆる場面で親しみ易さの演出に成功してきたと言って良いでしょう。
例えば、トランプ氏は2007年、プロレスの興行で「バトル・オブ・ビリオネア」と銘打った一戦を行いました。これは、トランプ氏と大富豪のマクマホン氏がそれぞれ代理のレスラーを立てて勝負させるというものです。結局、トランプ氏の代理レスラーが勝ち、トランプ氏は負けたマクマホン氏の髪を容赦なく刈り上げました。大富豪マクマホン氏の坊主姿に、観客は大爆笑。このように、時には悪役になりながらも観客の笑いを取っていくのがトランプ氏のスタイルなのです。
また、彼は「僕は金持ちだからね」という決め台詞を持っています。政治献金疑惑を否定する時、他の人を小馬鹿にする時などなど、あらゆる時にこの決め台詞で支持者の笑いを取ります。
一方クリントン氏は愛嬌を感じさせるエピソードが全くと言っていいほどありません。実際、彼女はスピーチが下手であるということはよく言われます。例えば、お笑いコンビのパックンマックンのパックンことパトリック・ハーラン氏は、彼女のスピーチについて「ロボットっぽい」「冷たい女」などと酷評しているくらいです。確かに、彼女のスピーチや振る舞いからは大統領のようなオーラは滲み出ています。しかし、トランプ氏が持っているような愛嬌はこれっぽっちも感じさせないのです。
この愛嬌こそが、クリントンの支持率とトランプの支持率を拮抗させる要因なのかもしれません。
髪の毛を触らせて笑いを取った番組には、批判が上がっています。
愛嬌のある「かつらネタ」は、触れられたくない話題の逃げ道として使われていたと言われてるからです。トランプ氏が出演した日はちょうど、トランプ氏がそれまでの発言を翻して、オバマ大統領がアメリカ生まれであることを認めた日でした。触れられたくないナイーブな話題である「人種差別的姿勢」をトランプ氏はうまくかわしたことになります。
トランプ氏は、ただ悪口を言っているだけのように見えて、しっかりとフォローをしているのです。
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