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分裂と相剋のトランプ・アメリカ~アメリカの弱体化と世界の混乱の深刻なリスク

2017/1/26

児玉 克哉

児玉 克哉

※本記事は「児玉克哉の希望ストラテジー」の転載となります。記事内容は執筆者個人の知見によるものです。

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1月20日にアメリカ・トランプ大統領が誕生した。8年前にオバマ大統領が誕生した時は、アメリカでも世界の各国でも大歓迎のムードであった。オバマ大統領誕生時の支持率は68%であるのに対して、トランプ大統領の支持率は45%であった(ギャラップ社調査)。支持率が低いだけでなく、不支持率も高いのがトランプ大統領である。アメリカの大統領誕生時には、ご祝儀相場として、支持率は高く、不支持率は低くなるものである。それが誕生時ですでに拮抗している。強い反発があることがわかる。

8年前、オバマ大統領の「チェンジ」を国民は求めた。それが、8年後の今、トランプ大統領によるオバマ・チェンジとは異なったチェンジを国民は求めたと言える。オバマ・チェンジの方向とトランプ・チェンジの方向は真逆に近い。つまりオマバ・チェンジの方向がまだ残る状態で、トランプ・チェンジが引き起こされようとしているわけで、2つの方向にアメリカは分裂しつつあるのだ。言葉は「チェンジ」で同じだが、意味するものは正反対。アメリカは分裂と相剋へと向かい始めた。

トランプ大統領に関しては、あまりに敵が多いことが懸念材料だ。日本では、トランプ氏を警戒する声が強かったが、彼が勝利すると、中国への牽制にもなるかという見方もあり、当面は様子見という感じだ。しかし、アメリカでは状況は異なる。極めて厳しい対抗ムードがある。

私のアメリカの研究者の友人の多くは、トランプ反対に全力を出している。トランプ氏の大統領就任に関して、「反対キャンペーン」をするために、「忙しくてほかの仕事をやってられない」というメールが届く。彼らは、トランプ大統領の誕生はアメリカの終わり、世界の終わりだ、というくらいの感覚だ。アメリカの大学ではかなりマジョリティがトランプ大統領に反対である。アメリカの大学ではリベラル派が幅をきかせてきたが、最近は保守派も有力になりつつある。しかし、その保守派も含めて、トランプ大統領には反対の意向を示している。世論を動かす知識人階級では、圧倒的にトランプ反対の声が強い。これは学生にも影響を与える。

またメディアも露骨なくらい反トランプだ。アメリカは二大政党の国であり、普通は支持・不支持が分かれる。日本のように形式的「中立」をとらずに、明確に政党や政治家の支持・不支持を打ち出すものだ。トランプ大統領に関してはほとんどのメジャー・メディアが半トランプ大統領となっている。アメリカでは稀な現象といえる。トランプ大統領もメディアは敵だ、という姿勢を明確にしている。ロイター(1月22日)によると「米ホワイトハウスは22日、トランプ大統領の就任式の観客数をめぐるメディア報道について、政権に対する不当な攻撃だと批判し、『全力で』戦う姿勢を示した」。メディアもトランプ批判では手加減をしていない。トランプ大統領は、メディアとの戦いでは情報管理やさらにはメディア管理にまで進んでいく可能性が高い。こうなるとメディアは「言論の自由を守る」という正義のスローガンを得ることになり、戦いはさらに加熱するだろう。

アメリカ在住の移民はトランプ大統領誕生で不安を抱えている。まずは不法入国者の強制送還の可能性だ。オバマ政権の政策のもとでアメリカでの安定を掴みかけた彼らの未来は一気に不透明になっている。不安と恐怖が、強いトランプ反対へ駆り立てている。他の外国人や移民もトランプ大統領の政策を極右勢力が支持していることもあり、アメリカが住みづらくなると感じている。トランプ大統領の政策がどれくらい本格的に彼らに厳しいものになるか。それによっては、反トランプというだけではなく、人種間・民族間の亀裂をさらに深めることになるかもしれない。これはアメリカ社会の治安の悪化に繋がりかねない。

女性運動家も激しくトランプ大統領を批判している。実際に、トランプ米大統領が就任した翌日の21日の抗議デモは女性が中心となって企画実行したものだ。女性運動家の魂に火がついたとでもいえようか。簡単にこの火を消せるとは思えない。トランプ大統領が火消しに力を注げば注ぐほど、この火は強く、広がっていくという感じだ。

これまでのアメリカ大統領へ「不支持」とは異なるレベルでの「嫌悪的不支持」「不退転の不支持」を感じる。この状態でアメリカの政治や社会はまともに動くのだろうか。「アメリカ・ファースト」の志向は、外国との摩擦も生む可能性が高い。

アメリカは分裂と相剋の時代に入った。第二次世界大戦後、いい意味でも悪い意味でもアメリカは世界のトップリーダーであり、世界の警察官であった。分裂と相剋のアメリカは、アメリカの混乱と世界の混乱を引き起こすリスクがある。私は特に国内の方が問題だと思っている。共和党であろうと、民主党であろうと、アメリカ大統領は国民からのリスペクトを受け、「民主主義の国・アメリカ」のスローガンのもとに、国の方向、世界の方向をリードしてきた。知識人からもメディアからもこれだけ嫌われる大統領はおそらく初めてではないだろうか。「大統領暗殺」の可能性を示唆する人も少なくない。分裂と相剋のトランプ・アメリカはどこへ行き着くのか、何をもたらすのか。

 

※本記事は「児玉克哉の希望ストラテジー」の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。

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児玉 克哉

児玉 克哉

三重大学副学長・人文学部教授を経て現職。トルコ・サカリヤ大学客員教授、愛知大学国際問題研究所客員研究員。専門は地域社会学、市民社会論、国際社会論、マーケティング調査など。公開討論会を勧めるリンカーン・フォーラム事務局長を務め、開かれた政治文化の形成に努力している。「ヒロシマ・ナガサキプロセス」や「志産志消」などを提案し、行動する研究者として活動をしている。2012年にインドの非暴力国際平和協会より非暴力国際平和賞を受賞。連絡先:kodama2015@hi3.enjoy.ne.jp

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