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「北方領土2島半返還」論~現実的で2島返還よりはるかに大きいメリット

2016/10/3

児玉 克哉

児玉 克哉

北方領土返還の議論が活発化している。安倍首相もプーチン大統領も日露の経済協力について語っており、今年末に予定されている日露首脳会談では何らかの進展があるのではないかと期待が高まっている。産経新聞(2016年10月3日付)はシベリア鉄道の日本への延長を報じている。「日本の対露経済協力をめぐる政府間協議の中で、シベリア鉄道を延伸し、サハリンから北海道までをつなぐ大陸横断鉄道の建設案が浮上している」と書いている。このプロジェクトは魅力的だ。日本がロシア、ひいてはヨーロッパと陸路で結ばれることになる。しかし大プロジェクトだけに、北方領土問題の進展と平和条約の締結などが信頼醸成の為にも必要だ。

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北方領土問題では、いつも4島返還と2島先行返還などが議論されることになる。日本の主張からすれば4島返還が譲れないわけで、最低でも4島の帰属問題の解決がなされることが必要となる。つまり4島が日本に帰属することが認められた上で順々にすべてが返還されるということだ。ただ実際にはこれは実現可能性は低い。

私は、「北方領土に新たな展開はあるのか~注目される2島半返還案」で書いたが、国後水道と択捉水道はロシアにとって軍事上の重要性があり、この支配権の確保は譲らないだろう。もちろん、交渉では4島返還や3島返還を主張するのは当然だ。しかし、それに固執しても状況が動くとは考えにくい。安倍政権もプーチン政権も非常に安定しており、今ならお互いに「痛み分け」で状況を動かすことができる。極めて稀なチャンスといえる。ここを逃したら当分、状況の変化は望めないだろう。

現在、現実的に考えることができる案の一つは2島半返還だ。歯舞群島と色丹島に加えて、国後島の南部、つまり泊村の部分の返還だ。2島だけの返還は実際には非常に使いにくいものになる。4島の内の2島といっても、面積が全く異なる。歯舞群島は、現在は住民もほとんどいない4島全体の面積ではわずかに2%の小島の集まりだ。色丹島を合わせても全体の7%程度にしかならない。しかも歯舞群島にも色丹島にも飛行場はない。北の海は冬は荒れるので、海路ではなかなか行けない。特に色丹島はかなり離れているので、時間もかかるし、日本の資本で産業開発といってもそれほどできるようには思えない。根室からも近い国後島が入るかどうかは決定的とも言えるほど価値が変わる。国後島の南部の返還であれば、国後水道の支配権を移動させることにならず、ロシアが応じる可能性はある。これでも全体の面積では少ないが、少なくとも2島半の返還には応じてもらいたいところだ。

より具体的にこの国後島の南部の返還について書いてみたい。

歯舞群島と色丹島に加えて、国後島の南部だけでも返還されることは、2島だけの返還と比べて多くのメリットがある。

1.漁業の拠点の確立

国後島南部には幾つかの港がある。古釜布港や泊港は北海道の漁民にとっても拠点として使うことができる。国後の漁港が活用できると漁業の幅ができるし、海が荒れた時にも避難所になる。

2.水産物加工業の展開

国後島南部であれば、輸送距離も短く、また町のインフラもあるので、水産物の加工業の展開もありえる。古釜布や泊の近くでは新鮮な水産物を水揚げして、加工することが可能だ。ロシア住民も新たに移住する日本住民も労働力となることができる。

3.観光産業の展開

泊港までなら、北海道からは海路で短い時間で着くことができる。古釜布までも4~5時間では行けるだろう。北海道からも観光が現実的になる。国後島南部には火山もあり温泉も開発できそうだ。また、国後には飛行場もある。メンデレーエフ空港は古釜布から車で約1時間。夏場には羽田や札幌からの便があれば、かなりの観光客が見込めそうだ。北の海と山、豊かな自然、温泉、海の幸などは新たな観光地としての魅力がある。これらは、ロシア側にとっても経済活性化に繋がるものだ。

4.日露友好拠点

2島半返還となると、日本は陸に国境を持つことになる。国後島は日本とロシアが共有するような形になるだけに、日露友好の象徴と位置づけることができる。日露首脳会談の場にもなりうる。これからのシベリアなどでの日露経済協力のプロジェクトの象徴となるなら、両国に意味がある。

5.色丹島や歯舞群島開発の拠点

国後南部の古釜布などに拠点ができると、色丹島や歯舞群島の開発もさらにできやすくなる。根室と古釜布と色丹(穴澗・斜古丹)を結ぶことによって、より意味のある開発が可能になるだろう。

2島返還に比べて、2島半返還は明らかにメリットは大きくなる。そしてこれはロシア側にも利益を生み出す。国後島の南部が日本領になることによって、日本からの投資は確実に増える。観光客も相当数になるだろう。それは北方領土全体の経済活性化にも繋がるものだ。日本政府がロシア住民にも永住権などを付与するなら、生活上問題はなく、新たな産業の展開によってロシア住民も潤うことになる。

日本ではあくまで4島返還にこだわるべきだという人は少なくない。その議論は正しい。しかし現実的には展開は難しく、戦略が必要だ。国後島南部も含めて返還されるなら、北方領土における日本企業や日本人の活動は活発化する。移住する日本人もかなりになるだろう。10年、20年、30年、50年と経つにつれて、状況は変化していく。日本人がいなくなった島を一気に取り戻すことは非常に難しいのだ。日本人が関わることを続けて、将来的に全島返還の機運に繋げる長期的な戦略も必要だ。

※本記事は「行動する研究者 児玉克哉の希望ストラテジー」の10月3日の記事の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。

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児玉 克哉

児玉 克哉

三重大学副学長・人文学部教授を経て現職。トルコ・サカリヤ大学客員教授、愛知大学国際問題研究所客員研究員。専門は地域社会学、市民社会論、国際社会論、マーケティング調査など。公開討論会を勧めるリンカーン・フォーラム事務局長を務め、開かれた政治文化の形成に努力している。「ヒロシマ・ナガサキプロセス」や「志産志消」などを提案し、行動する研究者として活動をしている。2012年にインドの非暴力国際平和協会より非暴力国際平和賞を受賞。連絡先:kodama2015@hi3.enjoy.ne.jp

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