昨年アメリカの大統領選挙では「ロシアが介入してきたのではないか」という疑惑が問題になりました。民主党のサイトが選挙期間中にハッキングされ、重要な情報が流出してスクープされてしまったり、トランプ候補がロシアに好意的な発言を行っていたりしたことが背景でした。
さらには、今年の2月13日には「トランプ政権の発足前にロシア当局者と対ロ制裁について協議していた」としてトランプ大統領の側近である、マイケル・フリン大統領補佐官(安全保障担当)が辞任するなど、疑惑は一層深まっています。
アメリカでロシアの疑惑が深まっている中、今度はフランス大統領選で「ロシアが介入しているのではないか」という疑惑が問題になっているのです。
この疑惑に火が付いた直接のきっかけは、現在大統領選で最有力となっている独立系のエマニュエル・マクロン候補の陣営がハッキング被害を訴えたことでした。具体的には、マクロン氏の選対本部長を務めるリシャール・フェロン氏が、ロシアからのハッキングが数100から数1,000に及び、またロシア政府の影響が及ぶロシアの主要メディアが偽ニュースを拡散していることを明らかにしたのです。
この問題は、昨年問題になったアメリカにおける疑惑と非常に似ています。民主党のサイトがハッキングを受けてヒラリー・クリントン候補に不利な情報が流出したり、彼女を貶める嘘のニュースがインターネット上で拡散したりしたことで、クリントン候補の支持率の低迷に少なからず影響を与えたことが指摘されています。
そのため、フランスの大統領選でも、こうしたハッキングや嘘のニュースによってマクロン候補の支持率の低下をもたらしかねないこと、ひいては大統領選の結果そのものにまで影響を与えかねないことが懸念されているのです。また、偽ニュースの拡散源として、ロシア政府の影響が及ぶロシアの主要メディアが特定されていることも、今回の懸念をより深めるものにしているのです。
今回の疑惑がアメリカの疑惑と似ている点はもう1つあります。選挙期間中トランプ候補がロシアに融和的な発言を繰り返し行っていましたが、今回のフランス大統領選では極右政党のマリーヌ・ルペン候補もロシアに融和的な発言を行っているのです。ロシアは2014年にウクライナ領のクリミア半島に侵攻しその領土を奪取したとして、国際社会から批判を浴びていますが、ルペン候補はクリミア併合について合法であると主張しました。
フランスの大統領選では、現在マクロン候補を除いて有力な候補はルペン候補のみです。そのため、マクロン候補の支持率が低迷すれば、ルペン候補の支持につながりかねない状況と言えます。今回のマクロン候補陣営に対するハッキングや偽ニュースによる攻撃がその通りだとすれば、ルペン候補が大統領選で有利に立つのです。
トランプ候補は既に大統領になっていますが、仮にルペン候補も大統領になって、アメリカ、フランス両方のトップがクリミア問題などについてロシアに融和的な姿勢をとった場合、対ロ制裁をめぐる国際社会の足並みが乱れることになります。そのことがロシアに資することになるというのが懸念です。
無論、トランプ候補やルペン候補の発言自体がロシアの選挙介入と直接結び付くわけではありませんが、マクロン候補陣営の訴えによって現実味を帯びてきているというのが実情でしょう。
今回の疑惑については、既にフランス政府の閣僚が軒並みロシア政府をけん制するコメントを発表しています。マクロン候補も既にハッキングと偽ニュースに警戒する姿勢を示しており、クリントン候補の二の舞にならないように対応していると言えます。
しかし、有権者が実際にどう判断するかは別問題です。マクロン候補陣営は偽ニュースを偽ニュースだと伝えるために、大変な努力を強いられることになるでしょう。そのことは、公正な競争の下で選挙を行うという、現代の民主主義の基盤を大きく損なうものとして、世界でますます問題になりそうです。
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