北方領土問題が動くかも知れない。読売新聞(9月23日)は「政府が、ロシアとの北方領土問題の交渉で、歯舞群島、色丹島の2島引き渡しを最低条件とする方針を固めた」と報じている。これまで日本政府の主張は、択捉島、国後島、歯舞群島、色丹島の4島返還であった。かなり現実味がないと思われたが、2島返還となると、プーチン大統領が決断すれば決まる可能性はある。後は条件次第となる。
択捉島、国後島の返還にはいくつかのハードルがある。ロシアが最も難色を示すと思われるのは、軍事的な問題だ。国後水道、択捉水道はロシアにとって高い軍事的な価値がある。択捉水道と国後水道をロシアが支配していると、ロシアの潜水艦はここを自由に通過できる。それ以上に重要なのは、アメリカの潜水艦がオホーツク海に侵入することを防ぐことが出来ることだ。択捉水道と国後水道が日本の支配下になれば、千島列島の防御に風穴が空いてしまう。ロシアのSLBM配備の潜水艦が攻撃されるリスクが高まり、アメリカのSLBM配備の潜水艦がオホーツク海に侵入する可能性が高くなる。現状でも宗谷海峡からの潜水艦や軍艦の航行は国際法上可能であるが、実際にはロシアは厳しく他国の軍艦や潜水艦の侵入を防いでいる。サハリンがロシア領であり、北から睨みをきかすことができる。択捉水道と国後水道が日本の支配下に入ることは日米安保がある状態では、ロシアは簡単に容認することができない。
他にも面積的にこの2島は大きく、ロシアの住民も多い。正確に実際に在住している住民数の把握は難しいが、択捉島が6000人強、国後島が7000人強とされる。色丹島は3000人弱で歯舞群島には基本的に住民はいないとされる。択捉島や国後島が日本に返還となったら、ロシア住民の立ち退き補助金などもかなりの額にはなる。ただこれは、永住権を付与するなどのやり方でカバーされうる。日ロが知恵を出すことでなんとかなるだろう。
私は、2島半返還が両国にとって最も現実的と考えている。歯舞群島、色丹島にプラスして国後島の南西部を返還してもらうという案だ。これで国後水道はロシアが継続して支配下に置くことになるので、ロシアのハードルは低くなる。日本にとっては、泊や古釜布の漁港が使えると漁業的には大きな意味を持つ。また加工業などの産業投資もできる。ロシアが欲しいのは経済的な投資だ。国後島を日ロの共同事業の象徴的場所にすることができる。北方領土で獲れた水産物を国後島で加工し、日本を中心として世界に輸出することが可能になる。また観光産業の投資も可能になる。国後島が北方領土の観光の中心地になる。ロシアの企業とも共同事業とすることで、ロシアにもメリットがある。国後が産業と交流において、日本とロシアの架け橋となるという構図だ。
4島返還に拘る人もいるし、それも十分理解できる。ただ、こうした形で日本人が北方領土に住み、活動することが、長期的にも状況を変える将来への一歩になる。住民のいる実行支配は年数が経つごとに、それ自体が正当性を持ってくる。違法な在住も時間が経つと正当化される傾向にある。それだけに日本が産業と人の在住でも存在感を示すことが重要だ。
2島返還よりも2島半返還は、日本にとってもロシアにとっても意味のある現実的な案だと思われる。国後の半分が返還されると色丹島の開発もさらにできやすくなるだろう。相乗効果があると考えられる。
※本記事は「児玉克哉のYahoo!ニュース個人」の9月23日の記事の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。
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