7月7日 13時。JR日豊線の小さな駅前に人が集まり始めていた。
暘谷駅。駅前には巨大電気店と郊外型のスーパーマーケットが広大な駐車場を前に立っていた。大分駅から30分程の小さな町だ。
「本日13時から蓮舫参議院議員が足立信也の応援にやってきます!」
通りを挟んで選挙カーを止め、足立信也候補は既に車上で演説を始めていた。
「6月1日に国会閉会した後、自民党の議員と話した。そうしたら自民党議員が『自民党の暴走が危ない。止めなければならない』と言ったんですよ。与党の中にもこういう(良識のある)人は沢山居る!安倍政権の暴走を止めなければならないんです!」
これまでの足立候補とは打って変わった厳しい口調に、聴き入る聴衆の形相も険しくなる。
「私は大分県民の統一候補のつもりで戦っているんです!」
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蓮舫氏は黒のワンボックスカーで到着すると、足早に車上に登った。
自身も、今回の参院選の候補者の一人である。選挙区は東京。ここで話したところで自分の票にはならない。
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白のジャケットに白のパンツ。爽やかな笑顔。颯爽と車上で手を振る姿にスター性を感じたのは私だけではないだろう。登壇した途端、場の空気が華やいだ。
「本物や!」「美人やねえー」待ち構えた人々から歓声が上がる。いつの間にか辺りは詰めかけた人でごった返していた。
足立候補から早々にマイクが渡されると、蓮舫氏は「みなさんにお伝えしたいことがいっぱいあります!」と口火を切った。
東京で「子ども食堂」と呼ばれる貧困家庭向けの施設が増えている事実を示しながら、「年収122万円に満たない家庭」を「与党は『自己責任』と言うのです!これは政治の責任です!」と拳を上げる。演説は、生活目線から切り込み、数字を積み上げ、国政のうねりを示す。演説が巧いと言われる政治家は、この組み立てが巧い。特に蓮舫氏は、マスコミ出身。見せたい自分像が明確で、聴取の聞きたいことを。聞いている側も安心してうなずき続ける演説に徹している。
「そうだ!」「待ってたよー!」と聴衆が呼応する中、「1年半で失った皆さんの年金13兆円」、3年半経過したアベノミクスを「役人から報告された数字を鵜呑みにして、自分の政策がうまく行っていると思い込んでいる」
生活者目線から国政の大きな数字に積み上げて畳み掛けていく。ダイナミックで繊細。聴衆を惹きつけ続ける。
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約20分の熱弁を終え、拍手の中、集まった聴衆の前に進んだ蓮舫氏は、握手を求める人々であっという間にもみくちゃにされた。最前列で聞き入っていた70代の女性から「都知事に出りゃ良かったのに!もったいないわ」と言われ「それをやったら大分に来られなくなるから」と笑顔で応えた。
蓮舫氏の特徴は、何と言っても、爽やかさと力強さが共存して見えるところだろう。自分の選挙活動をさておいて他候補の応援に駆けつけることができるのは、それだけ地盤が盤石だということ。蓮舫氏は前回の選挙で1,710,734票をたたき出した。同年の全国比例のトップ当選が有田芳生氏の373,834票。二度見する数字だったことを思い出した。
安倍総理昭恵夫人が緊急来県
「励ます女性の集い」
7月6日14時30分。大分の駅前から少し離れたホテルに安倍晋三総理夫人、安倍昭恵夫人が緊急来県するというので駆けつけた。女性限定の集会だと言う。古庄玄知(こしょうはるとも)新人候補の応援だ。
弁護士である古庄氏は、足立信也候補と同じ59歳。足立候補は外科医なので、弁護士と医師の戦いと言ったところだろうか。同じ年のせいだろうか、印象も似ている。2人の違いが不明瞭なことはどちらの候補に有利に働くのか。
激戦の大分に「緊急来県」と駆けつけた安倍総理夫人。白のジャケットにモノクロ柄のワンピース姿で詰めかけた2000人の来場者に向け笑顔で登壇した。
昭恵夫人の話は「演説」というより「講話」だった。やわらかな口調で、総理を「夫」と呼び、初めての総理時代の苦労話から政治家を辞めようとも思った「夫」の悩みを、「妻」としてどうやって支えてきたかを語る。総理夫人の日常を「夫婦」という言葉で聴衆の日常に変換し共感を得る。話し方がうまいと言うより、どうしたら共感を得られるかがよく判っているのだろう。
この穏やかな口調が一変したのは最後の一節だった。30分を過ぎるころ、最後のお願いと声を張り「安倍政権の中でぜひとも(古庄候補に)ご活躍頂きたい! 女性のお力を結集して頂き、なんとしても当選させて頂きたくお願い致します!」
会場が割れんばかりの拍手とはこれか。会場に入りきれず通路で見ていた女性達も「ご苦労されておったのねえ」と独りごと。
続いて、友党公明党の副代表 古屋範子衆議院議員の挨拶。黄色のジャケットが華やかだ。「安倍夫人が来たということは、いかに厳しい選挙かということだ」。
いつもの「選挙区は自民党、比例区は公明党」は出てこない。
代わりに「民進党に負けず」に覚えてほしいと言ったことが会場を沸かせた。
「公明党の重点候補はあきのです!夏でもあきの!そして、ぴりっとこしょう!」
今回は「女性の会」であり、登壇するのは全て女性。続いて、大分県広瀬勝貞知事夫人が登壇。
ピアニストでもある古庄候補夫人と自分との付き合いを語り、個人的な付き合いから二つ返事で応援を引き受けたと語る。
大分市長佐藤樹一郎夫人の短い挨拶の後、候補者夫人が登壇した。昭恵夫人が見守る中、緊張の面持ちは隠せない。
第一声は「家内です」。
「全くの新人候補で無名。でも相手候補に肩を並べるほどになった。この9ヶ月間いろんなところで、励まして頂き、感謝の気持ちしかない」と涙ぐみ、政治のことは分からないが、この日本のために力を尽くすと思うと訴えた。「夫人」の挨拶はこのくらい控えめな方が共感を得られるのだろうか。自民党は「三歩下がって」の良妻ばかりかと思っていのが、次でひっくり返った。
大分2区衛藤征士郎衆議院議員夫人の登壇。
選挙の演説会で、〆の挨拶に「頑張ろうコール」というのがよくある。この会では「頑張るぞコール」らしい。この発声で紹介され、マイクを持ったのが衛藤征士郎夫人だった。
「皆さん、またこの国に生まれ変わりたいですか?!」と開口一番の発声に会場が一瞬ざわっとしたのも無理はない。まるで立候補者のよう。
この参院選で大分に安倍総理が4回来県していることに加えて、「昭恵夫人まで!」「日本一の激戦区」と続けた。
そして「この会のタイトル『こしょうはるともを励ます女性の集い』は間違いです!『あと一票を積み上げるための集い!』です!」に会場も沸いた。
「誰?あのひと」と私の隣に立っていた女性がメモを取っていた私に聞いてきた。衛藤夫人であることをお伝えすると「立候補してる人かと思ったわ」。そうですね。力強いですもんね。
衛藤夫人の力強さは止まらない。
「皆さん、この二千人の女性の仲間が、あと一人で二千票、あと二人で四千票!ひとりひとりが、この会場を出たら携帯で、ひとり、ふたりに、こしょうはるともを宜しくと」と、4年前の政権交代で味わった苦渋を思い出すように訴える。
最後は「頑張るぞコール」挨拶をした女性全員が登壇し、左手は腰に、右手は拳を作って「頑張るぞー!頑張るぞー!頑張るぞー!」。これだけの会場が全員女性で埋まっているのは圧巻だった。
閉会後、昭恵夫人の退場は、握手を求める人の渦に飲み込まれていた。警備も大変だったことだろうと思う。
さて、同い年の男性候補に応援に入った女性たち。
幸運の女神となったのはどっちだろう。
■さぁどうなる、激戦の大分。意外な争点、候補のプロフィールにも注目!
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