「横一線!」
両陣営が同じ言葉で訴える愛媛選挙区は、正に「横一線」の戦いが繰り広げられていた。
7月4日18時。夏至を過ぎたばかりの自民党山本順三候補の演説会場は、昼間の様に明るい。開始30分前、支持者が集まり始めた会議室には椅子が100席。座席が足りずに立ち見も増えてきた頃、地元県議から開会の挨拶が始まった。
ここは山本候補の出身地、愛媛県今治市のJA支店。
選挙戦12日目。平日の個人演説会に自民党の重鎮が来場するという。
地元の県会議員らの演説の後、会場に入ってきたのは村上誠一郎衆議院議員(64)だった。大きな身体で演壇に立つなり、檄を飛ばした。「三十数回選挙をやってきた中で一番厳しい選挙です」。冒頭の挨拶もそこそこに、山本候補を「実質的な(国土交通)大臣」と持ち上げ、「愛媛県の中で勝てているところが一つもない!」と支持を訴える。10分程の演説だっただろうか、次へ移動しなければならないと言いながら、最後の一言で声を詰まらせ、目頭を赤くさせた。さすがは人情派と言われる村上誠一郎衆議院議員。
次に控えていたのは細田博之自民党幹事長代行とこちらも大物。細田氏もそれまでの応援弁士と同じく「横一線」を訴える。北朝鮮への危機感から「ニコニコしていればいいという安易な時代は終わった」「万が一のときには必ず備える」と。聞いている私がハラハラしたのは、JAの支店を会場にしながら、農業の話が全く出てこないことだった。やっと「みかん」とのセリフが出てきたが、隣に座っていた白髪の男性が「遅いわ」とポツリ。
細田氏は、一人も漏らさず集票したいのだろう。今治市の産業を網羅して産業全ての話題に触れようとしていた。必死とはこのことなのだろう。「とにかく知人に声をかけてください!」と何度も繰り返していた。
予定時間を遅れて山本候補が会場に文字通り駆け込んできた。日に焼けた顔は、壁に貼られたポスターと別人かと見紛う。
声が出ないからと大音量が出る別のマイクに持ち替え、訴える話は「相手候補と数パーセントしか差がない!」から始まった。相手候補である永江たかこ氏を指して、「数パーセントなんです。差が!」。
松山市で強い永江たかこに勝つには、この今治で「一人でも2人でも声をかけて」と訴えた。
この前日、無所属で野党統一候補の永江たかこ候補は愛媛県宇和島市に居た。宇和島駅を降りて10分程歩いた先にある道の駅「きさいや広場」には、民進党枝野幹事長が応援演説に入っていた。
プラカードを手にした支持者が、枝野幹事長の話に聞き入る。
枝野氏は、「(自民党は)基本の農業を打ち壊す。これまで大事にしてきたことを壊そうとしている。もう昔の自民党ではないと、自民党を信じて来た人に知らせて下さい。」永江候補が手を振る横で、枝野幹事長の演説は熱を帯びた。「今度ばかりは安倍さんの暴走に歯止めをかけなければならない!」
枝野幹事長からマイクをバトンタッチされた永江候補は、6月29日に松山市内で4野党結集した時の演説とは雰囲気がまるで変っていた。アナウンサー出身の熟れた柔らかな声は消え、突き上げる拳に聴衆が呼応する。知名度はどの調査でも永江氏がリードするなか、それでも「横一線の戦い」を訴える。
演説を終え、幹事長の車を見送った後も、永江候補は有権者と握手を交わす手を休めない。
1時間経っただろうか。青空が夕焼けに変っていた。有権者数4万人弱の宇和島の道の駅に、公称1,000人が集まっていた。
翌朝、松山市内のホテルでこの原稿を書いていると、何やら演説調の音が聞こえてきた。男性の声だが山本氏とは違う。窓から見てもどこの政党か分からなかったので、取るものも取り合えず通りへ飛び出した。
そこにあったのは共産党の選挙カーだった。
「永江たかこ!永江たかこを宜しくお願いします!」
そうか。永江たかこ氏は野党統一候補なのだ。
マイクを持っていたのは、共産党広島選出の大平よしのぶ衆議院議員だった。
「選挙区は永江たかこに!比例は共産党に!」
あれ?このセリフどこかで聞いたことがあるような。
そうか、「選挙区は自民党に!比例は公明党に!」
まさに総力戦の一騎打ち。横一線の戦いは、正に横一線。投票箱を開けてみるまで、結果は分からない。
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