長野県。
この参議院選挙から2人区から1人区へと議席を減らされた選挙区だ。今日は安倍総理が自民党候補の2度目の応援演説に入るという。「テコ入れ」重点選挙区だ。
全国で389人が立候補するこの選挙で、選挙区に顔と名前の知れた総理や大臣クラスに応援演説に入るのは、候補陣営の希望だけでは叶わない。政党の慎重な調査で「横一線」と数字がたたき出された選挙区にだけ大物を投入するのが常だ。実際、党の大物が応援に入った地域は、同じ選挙区の中でも得票数がずば抜けて高い。
しかし、「負ける」と踏まれた選挙区に総理は入らない。と言うより入らせない。「総理が来たのに負けた」と評されることを嫌うからだ。
民進党の候補者、杉尾ひでや。
TBSアナウンサー出身の甘いマスクの杉尾候補は、握りこぶしを突き上げ、思いの丈を訴えていた。甘いマスクに柔らかな笑顔。私が思っていたイメージとの違いに一瞬戸惑った。
「憲法を権力者のものに変えてはならない」「言論・表現の自由に公の秩序と縛りがかけてある」憲法を「国民に従わせるための憲法」に変えようとしているとの力説に、プラカードを手にした支持者が「そうだ!」「そうだ!」と檄を飛ばす。引退を表明した北澤俊美元防衛大臣の支持者だったのだろうか。ひとつひとつの言葉に頷きながら、口を真一文字に結んだ硬い表情が印象に残った。
次は15時45分開始予定の自民党会場まで、車を飛ばす。2時間かけて着いた安倍総理が来るという会場は、開始30分前にも関わらず既に聴衆が集まっていた。
手元には配布された候補者「若林けんた」の選挙ビラと黄色の紙が一枚。
若林けんた候補、安倍首相が会場に到着するまでの間も、自民党県議と思われる政治家が「横一線!」を連呼した。
続いて、公明党県議の挨拶の後に現職の務台衆議院議員。演説は、先に登場の諸氏と同じく、「横一線のデットヒート」「万が一のことがあったらこの長野県は日本中の笑い者になる」との表現まで。必死さが伝わる。与党なのにここまで必死になることに違和感があったのか、隣に立っていた初老の男性が「一生懸命だなー」とポツリ。
ほぼ予定通りで総理の車が会場横に入って来た。総理付きのSPと県警が動きだすと、聴衆は壇上の候補者より総理の乗っている車に釘付け。
演説中の若林候補が苦笑しながら、車上に上がって来た総理を横に、「総理の話を聞きたいのですよね。でも少し話させてください。」と。どっとわいた会場に向けて手を振る安倍総理は満面の笑み。
選挙の際に人を沢山集める著名人や大物政治家を選挙用語で「パンダ」という。その「パンダ」が話すのは、政党の政策の成果と、候補者がどんなに有能な人か、というのが常だ。安倍総理が話したのはこの路線ではあったが、民進党が政権をとっていた民主党時代と安倍政権での成果の差異を、経済・雇用・賃金等の実態を例に示しながら、野党批判を立て板に水のごとく語り続けた。政党支持率が42%ある中で(毎日新聞6月24日)、もっと泰然自若とされた方が有権者に写りが良いだろうに、と思った私は、まだ甘いのだろうか。マイクを手に拳を振り上げた総理の熱弁は20分を超えた。
それだけ、長野県選挙区が重要と位置づけられているのだろう。演説後は、総理自ら聴衆にハイタッチをするパフォーマンス。だれが来ているか把握のしようがない屋外で、SPや県警の重責を思うと頭が下がる。ハイタッチは予定されていたロープの箇所を総理自ら超え、予定時間も超えて文字通り老若男女がスマホ片手にハイタッチが続いた。聴衆の盛り上がりはご想像の通り。総理が車で去った後は、このビックイベントを終えた選挙スタッフのホッとした表情があった。
応援に集まった民進党杉尾候補の人数とは比べものにならない比率だが、それでも予測は「横一線」なのが事実。2人区だった前回の選挙では、民主党が強気に2人候補者を立てていたこの選挙区。野党統一候補の基礎票が50万票を超えるこの地域で、総理が2度もテコ入れに入った。さて、勝敗は如何に。
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