さとう しゅういち ブログ
モカ制圧とマンデブ海峡の危機──フーシ派を「山賊」と誤解する日本の危うさ
2026/9/11
◆ 社説:モカ制圧とマンデブ海峡の危機──フーシ派を「山賊」と誤解する日本の危うさ
イエメン情勢が新たな段階に入った。フーシ派が、モカ・コーヒーで世界的に知られる港湾都市モカを制圧した。モカは紅海の南端、マンデブ海峡に直結する要衝である。ここを押さえるということは、紅海の入口を押さえるということだ。
欧州とアジアを結ぶ海上物流の大動脈は、いまやフーシ派の軍事的圧力の射程に入った。
日本でも「フーシ派=山賊に毛が生えた武装集団」という誤解が根強い。しかし、これは危険な認識だ。
イエメンは現在、戦国時代に近い構造にある。国際社会が承認する政権は、まるで足利義輝のように首都を追われ、権威だけが残る征夷大将軍のような存在である。一方、フーシ派は三好長慶政権のように、首都サヌアを実効支配し、行政・軍事・財政の中枢を握る“中央政権”として機能している。
国際社会が承認していないからといって、実力がないわけではない。むしろ逆である。
フーシ派は、当時世界第4位の軍事大国だったサウジアラビアの攻撃を受けながら善戦し、領域支配を拡大してきた。今回のモカ制圧は、単なる局地戦ではなく、紅海の戦略的支配権をめぐる大きな地政学的転換点である。
マンデブ海峡が不安定化すれば、欧州との貿易は直撃を受ける。
スエズ運河を通る物流は、マンデブ海峡を経由する。ここが詰まれば、欧州向けの自動車、機械、部材、化学製品の輸送は遅延し、保険料は跳ね上がり、海運コストは急騰する。
日本の製造業は、紅海ルートの安定を前提にサプライチェーンを組んでいる。つまり、これは「遠い国の話」ではなく、日本の工場の稼働率と物価に直結する問題である。
日本は、フーシ派を「山賊」と誤解したままでは、情勢判断を誤る。
必要なのは、
フーシ派を“中央政権としての実力を持つ主体”として認識すること
紅海・マンデブ海峡の不安定化が日本の物流に直結する構造を理解すること
欧州との連携を強化し、海上安全保障の枠組みを再構築すること
供給制約を前提とした国内経済運営に転換すること
である。
中東の火種は、いまや世界の物流の首を絞めかねない段階に入った。
日本は、情勢の変化を正しく読み取り、外交と経済の両面で備えを急ぐべきだ。
さとう しゅういち
サトウ シュウイチ/50歳/男