さとう しゅういち ブログ
広島瀬戸内新聞社説:見えない「老若介護」の破綻が広島を襲う 広島・呉で相次ぐ親による子ども殺害事件
2026/6/5
見えない「老若介護」の破綻が広島を襲う
広島県内で、親が中年の子どもを殺害する事件が相次いでいる。昨年は広島市で母親が息子を殺害し、今年は呉市で74歳の父親が47歳の息子を殺害した。いずれも、長年の病気や精神疾患、暴力リスク、生活困難を抱えた中年の子どもを、高齢の親が支え続けていた家庭で起きた。これらの事件は、単なる家庭内の悲劇ではない。日本社会が直視してこなかった「老若介護」という構造的危機が、広島で連続して破綻した結果である。
◆ 老若介護は、老老介護やヤングケアラー以上に“見えない”老若介護とは、高齢の親が中年〜壮年の子どもを介護する状態を指す。対象となる子どもは、精神疾患、知的障害、発達障害、難病、引きこもり、生活困窮など、多様な背景を抱える。しかし、この構造は制度上ほとんど把握されない。子どもは介護保険の対象外親が元気なうちは地域包括支援センターの対象外精神保健・障害福祉・生活困窮支援が縦割り家族支援の仕組みが存在しないそのため、老若介護は制度の谷間に落ち、孤立した家庭の中で静かに進行する。広島市の事件も、呉市の事件も、支援につながらないまま、家族が限界に達して破綻した。
◆ 広島の人口構造は老若介護の危機を加速させる広島市は政令市で唯一、人口流出ワースト1位という異常事態にある。若者が流出し、中年層が孤立し、高齢親への依存が強まる構造が固定化している。若者が出ていく中年の子が自立できない高齢の親が支え続ける支援につながらない破綻が事件として表面化する広島市と呉市で連続した事件は、まさにこの構造の帰結である。
◆ 「家の問題は家で」という文化が孤立を深める広島には、「家の問題は家で」「迷惑をかけたくない」という家族内完結の文化が根強い。その結果、支援を求めない・求められない家庭が増え、老若介護はさらに不可視化する。広島市の事件でも、呉市の事件でも、近隣住民は「大変そうだった」「相談している様子はなかった」と証言している。
◆ 事件は“家族の問題”ではなく“社会の構造問題”広島市と呉市の事件には、驚くほどの共通点がある。高齢親(70〜80代)中年子(40〜60代)長年の病気・精神疾患暴力リスク生活困難支援につながらない孤立介護保険の対象外地域包括の対象外家族内完結文化破綻して初めて社会が知るこれは偶然ではない。広島という地域の人口構造・文化・制度の隙間が、老若介護の破綻を事件として噴出させている。
◆ 広島こそ「家族を支える社会」への転換を老若介護は、老老介護やヤングケアラー以上に深刻で、かつ見えにくい。放置すれば、同様の事件は今後も繰り返されるだろう。広島で必要なのは、“家族全体”を支える支援への転換である。高齢親+中年子の世帯を把握する地域包括の対象拡大精神保健・障害福祉・介護・生活困窮支援の横断的連携親亡き後の生活・医療・住まいを事前に設計する支援計画暴力リスクの高い家庭への安全な訪問支援体制孤立家庭を早期に発見する地域ネットワーク事件が起きてから制度を作るのでは遅い。広島こそ、老若介護という“見えない危機”に正面から向き合い、家族を支える社会へと転換する先頭に立つべきだ。
◆ 最後に広島で続く「親が子を殺す事件」は、家族の崩壊ではなく、社会の崩壊の予兆である。家族にすべてを押し付ける時代は終わった。広島が変われば、日本が変わる。
さとう しゅういち
サトウ シュウイチ/50歳/男