2026/6/2
広島瀬戸内新聞
特集在宅医療と介護を“守る”という発想へ──川口市事件とふじみ野市条例が突きつける広島の課題
■ 川口市でケアマネ殺害──「在宅の最前線」に再び突きつけられた現実
埼玉県川口市で、利用者の息子がケアマネジャーを殺害し、自らも命を絶ったとみられる事件が発生した。詳細は捜査中だが、介護の現場に携わる者にとって、胸を締めつけられるような衝撃である。
4年前、同じ埼玉県ふじみ野市では、渡辺宏被告による在宅医・医療介護職殺傷事件が起きた。医師1名が死亡するなど3名が死傷したこの事件は、在宅医療・介護の安全性を根底から揺るがした。今回の川口市事件は、あの惨劇を想起させる。
そして、広島の現場もまた、同じ構造的リスクを抱えている。
■ ふじみ野市が踏み出した「地域で医療・介護を守る」条例
ふじみ野市は事件を受け、全国でも例のない条例を制定した。医療・介護従事者への暴力・脅迫・ハラスメントを禁止危険家庭の情報共有を行政・医療・介護・警察で連携高リスク家庭への二人体制訪問相談窓口の設置地域全体で医療・介護を守るという理念の明文化この条例の核心は、**「医療・介護従事者の安全は地域の公共財である」**という発想の転換である。
■ 広島の現場が抱える“見えない危険”
広島でも、在宅医療・介護の現場は次のような構造的リスクを抱えている。
介護職・ケアマネが単独で家庭に入る
家族の孤立、介護疲れ、精神疾患DV・暴力歴などの情報が縦割りで共有されない
包括支援センターの人員不足
行政の介入が遅れがちな「家庭内領域」
現場の声を拾えば、
「危険だと分かっていても、契約中だから行かざるを得ない」
という悲痛な実態がある。広島でも、ふじみ野市と同じ構造が存在している。
■ 広島で必要な「医療・介護を守る条例」の論点
本紙は、広島で同様の条例を制定する場合の論点を次のように整理する。
① 在宅医療・介護の安全を“公共財”と位置づける
医療・介護従事者の安全は、地域医療の持続性そのもの。
「個々の事業者任せ」から脱却する必要がある。
② 危険家庭の情報共有制度の構築警察・行政・医療・介護の縦割りを超えた連携が不可欠。
リスクレベル分類と共有ルールを明確化すべきだ。
③ ケアマネ・介護職の「危険回避権」の明文化危険がある場合、サービス提供を中止できる権利を制度化し、
行政がその判断を支える仕組みが必要だ。
④ 暴力・脅迫・ハラスメントの禁止規定暴言・威嚇・つきまとい・SNS中傷などを明確に禁止し、
行政が介入できる根拠をつくる。
⑤ 地域包括支援センターのリスク管理強化人員増強、多職種会議の義務化、警察との連携強化。
包括が「地域の安全センター」として機能する体制が必要だ。
⑥ 行政の責務の明確化危険事例の収集・分析、研修、相談窓口、警察連携、
二人体制訪問への補助など、行政の役割を明文化する。
■ 広島の特殊事情──なぜ今、条例が必要なのか
広島には、独自の背景がある。女性労働者が多い医療・介護・保育の待遇軽視
行政の縦割りと“上意下達”文化
住民参加の形骸化(県病院再編でも顕著)
高齢化率の高さと単身高齢者の増加
災害リスクと医療アクセスの脆弱性
これらはすべて、在宅医療・介護の安全性を揺るがす要因である。
■ 結語──「守られるべきは誰か」を問い直す
川口市事件は、ふじみ野事件と同じ問いを突きつけている。「在宅医療・介護の最前線に立つ人々を、地域はどう守るのか」広島でも、医療・介護従事者の安全を「公共財」として扱う発想が求められている。
制度がなければ、現場は守れない。
現場が守られなければ、地域医療は崩壊する。広島が今こそ踏み出すべき一歩は明らかだ。
「医療と介護を守る条例」を、地域の意思として形にすることである。
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