2026/7/14
児童相談所が子どもを親から強制的に引き離す「一時保護」。
2025年6月から、親権者が同意しない場合などには、児童相談所が裁判官に「一時保護状」を請求する制度が始まりました。
こども家庭庁は、この制度について、
一時保護の適正性や手続の透明性を確保するための司法審査
と説明してきました。
しかし、運用開始から半年間の数字が明らかになり、その「司法審査」が児童相談所の判断をほとんど無条件に追認する手続になっている実態が浮かび上がりました。
共同通信の報道によれば、全国の児童相談所が請求した一時保護状2780件の結果は、次のとおりです。
許可 2775件
却下 3件
取り下げ 2件
一見すると、「99%が許可された」という数字です。
しかし、問題は残る1%の中身です。
却下された3件は、児童相談所の一時保護判断が誤っていたと裁判所が判断したものではありません。
児童相談所が法律で定められた請求期限を守らず、期限後に請求したため、手続上却下されただけです。
残る2件は児童相談所側による取り下げです。
つまり、期限不備と取り下げを除いた2775件については、すべて一時保護状が発付されたことになります。
数字の本質は「99%許可」ではありません。
児童相談所の親子分離判断に裁判所が実体的に踏み込み、「この一時保護は必要ない」と退けた事例がゼロだった。
ここが最大の問題です。
一時保護の対象となる家庭事情は、一件ごとに異なります。
虐待を裏づける事実、親子関係、子どもの年齢や意向、学校や医療機関の見解、親族の支援、在宅支援の可能性、緊急性の程度。
これほど個別性の高い判断について、全国242の児童相談所から請求された2775件すべてで、児童相談所の判断が正しく、親子分離が必要だったというのでしょうか。
児童相談所職員も人間です。
事実誤認、過剰な危険評価、思い込み、記録の偏り、親との対立による判断の硬直化は当然起こり得ます。
それにもかかわらず、裁判所が児童相談所の判断を実体的に否定した事例はゼロです。
これは、児童相談所の判断が2775件すべて完璧だったことを意味する数字ではありません。
むしろ、
裁判所が児童相談所の判断内容を独立して検証していなかったのではないか
と考えるべき、極めて不自然な数字です。
この制度が通常の裁判とは大きく異なる点は、裁判官が親や子どもの話を直接聞く手続になっていないことです。
こども家庭庁のマニュアルには、次のように明記されています。
一時保護状の審査は、児童相談所長などが提出する資料に基づく迅速な書面審査であり、裁判官が親権者の主張や陳述を直接聴取する機会を含むものではありません。
親の言い分は、児童相談所が聞き取り、児童相談所が書面にまとめ、裁判所へ提出します。
子どもの意見についても同じです。
裁判官が子どもから直接話を聞くのではなく、児童相談所が子どもの意見や意向を聞き取り、その内容を書面にして裁判所へ提出します。
つまり、児童相談所の判断を審査するための材料を、審査される側である児童相談所自身が作成しているのです。
親の主張も、子どもの意向も、児童相談所というフィルターを通して裁判官へ渡されます。
裁判官は、児童相談所の説明と親側の反論を法廷で直接聞き比べるわけではありません。
これでは、児童相談所が作ったストーリーの中で、児童相談所の判断が正しいかを確認するだけになりかねません。
今回、裁判所が請求を止めた3件は、すべて期限後請求でした。
裁判所が問題にしたのは、
といった、一時保護判断の中身ではありません。
「7日以内に請求したか」という形式的な問題だけです。
反対に、期限内に必要な書類を提出した請求は2775件すべて許可されました。
この結果は、
裁判所が審査したのは親子分離の正当性ではなく、児童相談所が必要事項を記載した書類を期限内に提出したかどうかだった
ことを強く示しています。
形を整えれば通る。
期限を過ぎれば落ちる。
そこに、児童相談所の事実認定や一時保護の必要性を疑う実質的な司法判断は見えてきません。
これを司法審査と呼ぶのであれば、司法審査という言葉そのものが空洞化しています。
2019年、国連子どもの権利委員会は、日本について、多数の子どもが裁判所の命令なく家族から引き離され、児童相談所に数か月間置かれることに重大な懸念を表明しました。
そのうえで日本政府に対し、次のことを強く求めました。
国連は単に、
「裁判官の印をもらってください」
と言ったのではありません。
子どもと親の双方から話を聞き、児童相談所の判断とは独立した立場から、親子分離が本当に最後の手段なのかを判断する司法審査を求めたのです。
さらに国連は、「一時保護制度を少し改善せよ」と求めたのでもありません。
児童相談所における一時保護の慣行を廃止せよ
と明確に勧告しています。
ところが、日本が導入した制度はどうでしょうか。
児童相談所は、裁判所の許可を得る前に子どもを一時保護できます。
その後、保護開始から7日以内に書面で一時保護状を請求すればよい仕組みです。
裁判官は子どもや親から直接話を聞きません。
児童相談所が作成した記録と、児童相談所がまとめた親子の意見を基に書面審査をします。
そして実際の運用では、期限内に請求された2775件がすべて許可されました。
児童相談所の親子分離判断を裁判所が実体的に否定した事例はゼロです。
これでは、国連が求めた司法審査とは到底言えません。
裁判所を手続の途中に登場させ、
「日本でも司法審査を導入しました」
という外形だけを作ったにすぎません。
実態は、児童相談所の親子分離判断に裁判所が判を押す事実上の追認。
国連から一時保護慣行の廃止を求められた日本が、制度の実質を変えず、裁判所の印だけを付け加えた。
今回の数字は、その偽装を見事に象徴しています。
こども家庭庁は、制度の目的として「手続の透明性の確保」を掲げました。
しかし、許可された2775件について、
といった審査内容は、国民から見えません。
見えるのは「裁判所が許可した」という結果だけです。
これでは透明性の確保ではありません。
不透明な児童相談所の判断に、さらに不透明な裁判所の許可を重ねただけです。
そして児童相談所は、親に対して、
「裁判所も一時保護を認めています」
と言えるようになります。
司法審査によって児童相談所を監視するはずが、逆に裁判所の権威によって児童相談所の判断を防御する制度になっています。
この制度によって、子どもと親に十分な反論の場が保障されたわけではありません。
裁判官から直接話を聞いてもらえるわけでもありません。
一方、児童相談所には、請求書、総括書面、証拠資料、親や子どもの意見をまとめる作業が新たに加わりました。
こども家庭庁の試行運用でも、請求書や総括書面の作成、証拠資料の準備などに相当の作業時間が必要になることが示されています。
裁判所も、2775件もの書面を処理しなければなりません。
それだけの事務負担をかけながら、児童相談所の実体判断を一件も否定していない。
子どもの権利保障にはつながらない。
親の防御権も強化されない。
児童相談所の負担だけは増える。
裁判所の人的資源も消費する。
そして社会には、「裁判所が認めたから正しい」という誤解だけが残る。
まさに、子どもも、親も、児童相談所も、裁判所も、誰の利益にもつながらない欠陥制度です。
子どもの生命や安全に差し迫った危険がある場合、緊急に保護する必要があることまで否定するものではありません。
しかし、緊急保護が必要であることと、児童相談所の判断を後から検証しなくてよいことは全く別です。
必要なのは、短期間の書面審査で裁判所のお墨付きを与えることではありません。
児童相談所が、
を記録し、当事者や独立した第三者が後から検証できる仕組みを作ることです。
誤った一時保護であれば、迅速に解除する。
判断過程に問題があれば、是正し、責任の所在を明らかにする。
同様の誤りを繰り返さないよう、匿名化した判断内容や検証結果を公表する。
これこそが本当の透明性です。
請求2780件。
許可2775件。
期限後請求による却下3件。
取り下げ2件。
児童相談所の親子分離判断を裁判所が実体的に否定した事例はゼロ。
これが、日本の「一時保護時の司法審査」の運用結果です。
裁判所が関与したという外形だけで、司法審査が機能していることにはなりません。
児童相談所の書面を裁判官が確認し、期限内請求をすべて許可する制度は、司法審査ではなく行政追認です。
国連から「児童相談所における一時保護の慣行を廃止せよ」と強く求められた日本が、裁判所の印を付けることで制度を正当化しようとした。
その偽装が、早くも数字によって露呈しました。
不透明な一時保護を止め、児童相談所の判断を後から実質的に検証できる制度へ改めること。
それこそが、子どもの権利を守り、児童相談所への信頼を回復し、行政の透明性、公平性、公正性を実現する方法にほかなりません。


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