2026/9/11
| 小森さだゆき | 高槻市議会議員

2026年9月、京都府警が、いわゆる「地下銀行」を運営していた疑いで男女3人を逮捕したと報じられました。
今回の事件で興味深いのは、日本円そのものを中国へ送らなくても、日本から中国へ「価値」を移すことができるという点です。
実は私は2026年6月10日にも、地下銀行と正規の銀行制度に共通する「帳簿の書き換え」という仕組みについて記事を書いています。
これは国際送金のクリアリングという仕組みを学べば理解でき、今回の事件は、その仕組みを具体的に考えるうえで非常に分かりやすい事例だと思います。
報道によると、京都府警は、免許を受けずに日本円と中国人民元の間で為替取引を行った疑いで男女3人を逮捕しました。
逮捕容疑となっているのは、2023年10月から2024年3月ごろまでの12回の取引で、日本円約1億5,000万円を受け取り、中国側で737万7,000人民元を指定された銀行口座へ振り込んだというものです。
さらに報道では、関係する口座などから総額約6億円相当の取引があった可能性があるとして、警察が実態を調べています。
ここは重要ですが、現時点で「6億円すべての違法送金が立証された」という意味ではありません。約1億5,000万円分が今回の逮捕容疑であり、約6億円については警察がさらに捜査している段階です。
今回のMBSニュースはこちらです。
中国人向け“地下銀行”運営か 円→人民元に不正換金した疑い MBSニュース
「海外送金」と聞くと、日本にある100万円が銀行を通じて中国まで移動するようなイメージを持つ人も多いと思います。
しかし、地下銀行では必ずしもそうではありません。
例えば、日本にいるAさんが、中国にいる家族へ100万円相当を送りたいとします。
Aさんは、日本国内で地下銀行側に100万円を渡します。
しかし、その100万円自体を中国へ送るわけではありません。
中国国内では、地下銀行側があらかじめ保有している人民元から、100万円相当の人民元をAさんが指定した口座へ振り込みます。
すると、
日本ではAさんの日本円が100万円減り、
中国では受取人の人民元が100万円相当増えます。
日本円そのものは一度も国境を越えていないにもかかわらず、経済的には日本から中国への価値移転が完成します。
今回の報道では、逮捕された人物の一人が任意の捜査段階で、日本で不動産を購入するために日本円が必要だったという趣旨の説明をしていたとされています。
仮に報道されている構図を単純化すると、
中国へ送金したい人は「日本円を持っているが、中国で人民元が欲しい」。
地下銀行側は「中国国内に人民元を持っているが、日本で日本円が欲しい」。
という関係になります。
つまり、
日本で日本円を渡す。
中国で人民元を渡す。
この2つの取引を組み合わせれば、国際送金そのものを行わなくても双方の目的が達成できます。
これは「お金を国境の向こうへ運ぶ」のではなく、「日本と中国それぞれで所有者を書き換える」ことで価値を移転する仕組みです。
私は2026年6月10日に、
「『帳簿』が動かす現代経済の裏表 地下銀行と銀行制度の意外な共通点」
という記事を書きました。
▼過去の記事はこちらです。
「帳簿」が動かす現代経済の裏表 地下銀行と銀行制度の意外な共通点
この記事で紹介したのが、送金の本質は必ずしも「現金を物理的に移動させること」ではない、という考え方です。
正規の銀行でも、例えばA銀行からB銀行へ100万円を振り込むたびに、100万円の札束をトラックで運んでいるわけではありません。
銀行同士で債権や債務を記録し、最終的に差額を決済します。
つまり、現代の金融システムの多くは帳簿やデータ上の数字を書き換えることで動いています。
もちろん、正規の銀行と地下銀行では、法的な位置付け、本人確認、監督、資金洗浄対策などに大きな違いがあります。
しかし、「現金そのものを移動させずに価値を移す」という金融の基本的な構造を見ると、共通する部分があります。
正規の銀行や登録された資金移動業者には、本人確認や取引記録の保存など、さまざまな規制があります。
それは、犯罪収益の移転、マネーロンダリング、詐欺、テロ資金供与などを防ぐためでもあります。
一方、地下銀行がこうした制度の外側で運営されれば、
「誰が」
「誰に」
「何の目的で」
資金を移したのかが見えにくくなります。
地下銀行の問題は、単なる無許可の両替ではなく、正規の金融システムによる資金追跡を回避できる可能性があることです。
今回の事件では、地下銀行側が日本国内で受け取った円について、不動産購入や事業資金などに使用されたと報じられています。
ここは、今後の捜査で特に注目したい点です。
例えば、
中国国内では人民元を別の人に渡す。
その代わりに、日本国内では日本円を受け取る。
さらに、その日本円を使って日本の不動産を購入する。
という形になれば、実際に大きな資金を国境越しに送金しなくても、中国側にある資産価値と日本側の資産価値を実質的に交換することが可能になります。
ただし、今回購入された不動産そのものが犯罪収益であった、あるいはマネーロンダリング目的だったと確定しているわけではありません。
現段階では警察が資金の流れや取引実態を調べている段階です。
今後、
誰が地下銀行を利用していたのか。
中国側の人民元はどこから用意されたのか。
日本国内で受け取った日本円がどこへ流れたのか。
そして、不動産取引と地下銀行がどのようにつながっていたのか。
こうした点が明らかになるのか注目しています。
今回の事件から見えてくるのは、現代のお金の仕組みです。
私たちは「100万円を中国へ送る」と聞くと、100万円というお金そのものが日本から中国へ移動すると考えがちです。
しかし、実際には、
日本で日本円の所有者を変える。
中国で人民元の所有者を変える。
これだけでも、国境を越えた価値移転を実現できます。
「現金がどこへ動いたか」だけを見ていては、現代の資金移動の全体像は分かりません。
重要なのは、誰の資産が減り、誰の資産が増え、その結果として誰が経済的な価値を手にしたのかという視点です。
私は3か月前の記事で、地下銀行を例に「帳簿」が動かす現代経済について書きました。
今回、実際に関西で地下銀行とみられる事件が発覚したことで、この仕組みをより身近な問題として考える必要があると感じています。
単に「約6億円の地下銀行事件があった」というニュースで終わらせず、その裏側でどのように価値が移転していたのか。
今後の捜査にも注目していきたいと思います。
【関連記事】
「帳簿」が動かす現代経済の裏表 地下銀行と銀行制度の意外な共通点
| 小森さだゆき | 高槻市議会議員
この記事をシェアする
ホーム>政党・政治家>小森 さだゆき (コモリ サダユキ)>京都「地下銀行」事件を解説