2026/8/8
| 小森さだゆき | 高槻市議会議員(大阪府高槻市)
私は、政府がお金を使うこと自体に反対しているわけではありません。
景気が悪く、企業も家庭もお金を使わず、物価も賃金も下がっているときには、政府が国債を発行して需要をつくる積極財政には意味があります。
災害や感染症などの非常時に、政府が国債を活用して国民生活や企業を支えることも必要です。
しかし、現在の日本は、長く続いた金利ゼロ、デフレ、円高の時代とは状況が変わっています。
積極財政が常に間違いなのではありません。経済状況が変わった以上、昔と同じ政策を続けることが危険なのです。
財政政策について議論するとき、積極財政か緊縮財政かという二者択一になりがちです。
しかし、本当に考えなければならないのは、財政支出の量だけではありません。
同じ10兆円の財政支出でも、防災、電力、研究開発、人材育成などに投資する場合と、財源を示さず一律に現金を配る場合とでは、将来への影響が異なります。
重要なのは「いくら使うか」だけではなく、「何のために、いつまで使うか」です。
日本銀行は2026年7月31日の金融政策決定会合で、無担保コールレートを1.0%程度で推移させる方針を決定しました。
日本では長い間、金利がほぼゼロの状態が続いてきました。そのため、国債残高が増えても、利払い負担の増加は表面化しにくい状況でした。
しかし、金利が上昇する局面では事情が変わります。
| 金利がほぼゼロの局面 | 金利が上昇する局面 |
|---|---|
| 国債を増やしても利払いが増えにくい | 借換えのたびに利払いが増える |
| 需要不足を政府が補う意味が大きい | 需要拡大が物価上昇を強める可能性がある |
| 金融緩和と財政出動が同じ方向を向く | 政府と日銀の政策が逆方向を向くことがある |
金利が動き始めた現在、過去と同じ感覚で国債を増やし続けることはできません。
財源を示さない恒久減税、一律給付、効果を検証しない歳出拡大を行えば、国内の消費や需要は増えます。
しかし、日本国内で生産できる商品やサービス、電力、食料、住宅、労働力などの供給量が、同じ速さで増えるとは限りません。
供給が増えないまま需要だけが増えれば、物価上昇や輸入増加につながります。
輸入が増え、財政への不安が強まれば、円安や国債金利上昇の圧力になる可能性もあります。
円安が進めば、海外から輸入する食料、ガソリン、電気・ガスの燃料、飼料、肥料、工業原材料の価格が上がります。
円安と物価上昇を抑えるため、日本銀行はさらに金利を上げる必要に迫られます。
政府が財政支出でアクセルを踏み、日本銀行が利上げでブレーキを踏む。
現在の日本では、このような政策の矛盾が起きる可能性があります。
金利が上がれば、住宅ローンを抱える家庭や、銀行融資を受けている中小企業の負担が増えます。
国民にお金を配っても、その後に物価高、住宅ローン金利の上昇、企業の借入負担、将来の増税という形で戻ってくるのであれば、生活が本当に豊かになったとはいえません。
現在の財政を考えるうえで、特に注目しなければならないのが国債の利払費です。
財務省の機械的試算では、国の利払費は次のように増えるケースが示されています。
| 年度 | 利払費 |
|---|---|
| 2025年度 | 10.5兆円 |
| 2026年度 | 13.0兆円 |
| 2027年度 | 15.5兆円 |
| 2028年度 | 18.5兆円 |
| 2029年度 | 21.6兆円 |
これは、今後の経済成長率や金利などについて一定の前提を置いた機械的な試算であり、将来の予算額が確定したものではありません。
それでも、金利上昇によって国の利払いが急速に増える可能性があることは、十分に警戒しなければなりません。
2029年度の利払費21.6兆円は、2025年度の10.5兆円と比べて、わずか4年間で2倍を超える規模です。
教育、防災、子育て、社会保障などに使えるはずのお金が、過去に発行した国債の利息に置き換わっていく可能性があります。
財務省の試算では、想定より金利が1%高くなった場合、国債費は基準となる試算と比べて、次のように増えるとされています。
金利が上がっても、すべての国債の金利がその瞬間に変わるわけではありません。
満期を迎えた国債を借り換えるたびに、より高い金利の国債に置き換わっていくため、影響は数年かけて大きくなります。
金利ゼロの時代には、借金を増やしても利払い負担は表面化しにくい状況でした。
しかし、金利が上がる時代には、国債を増やすほど、毎年の予算が利払いに奪われていきます。
ここは正確に分けて考える必要があります。
積極財政を行えば、必ず円安になるというわけではありません。
例えば、防災インフラ、安定した電力供給、半導体、研究開発、教育、人材育成など、日本の生産力や競争力を高める投資であれば、将来の経済成長や税収増加につながる可能性があります。
そのような投資は、日本経済や日本国債への信頼を高める場合もあります。
問題は、次のような政策です。
これらは短期的には国民の手取りや消費を増やすように見えても、国内の供給力を増やさなければ、物価上昇や輸入増加につながる可能性があります。
2026年8月4日、アメリカのスコット・ベッセント財務長官は、CNBCのインタビューで、安定した円はアメリカだけでなくアジア地域全体にとって重要だと述べました。
また、為替介入は市場にシグナルを与えることはできるものの、最終的に為替を動かすのは政策と経済の基礎条件だという趣旨の説明をしています。
ただし、ベッセント財務長官が、高市政権に対して「積極財政や消費税減税を撤回せよ」と明確に述べたわけではありません。
日本の高い債務と、さらなる利上げの必要性が、拡張的な財政政策と矛盾していると直接指摘したのは、元アメリカ財務長官のヘンリー・ポールソン氏です。
そのため、外国の財務長官が日本の積極財政を否定したという説明だけで議論するのは適切ではありません。
日本自身の金利、円相場、物価、国債残高、利払い費を見たうえで、日本にとって何が必要かを考えるべきです。
IMFは2026年の日本経済に関する審査で、より拡張的な財政政策は需要圧力や基調的な物価上昇を強める可能性があると指摘しています。
また、日本では国債金利が上昇しており、その背景には将来の政策金利への期待だけでなく、財政リスクへの認識もあると分析しています。
もちろん、IMFの判断をそのまま日本の政策に取り入れればよいというわけではありません。
しかし、物価が上昇し、金利も上がり始めている局面で、追加の需要拡大策を行うことには副作用があるという指摘は、無視できません。
日本国債は円建てであるため、外貨不足によって返済できなくなる国と比べれば、名目上のデフォルトは起こりにくいと考えられます。
しかし、円を発行して返済できたとしても、円安、物価高、金利上昇によって国民の購買力が低下すれば、実質的な負担は発生します。
問題は、国債を円で返せるかだけではなく、その円で何が買えるかです。
国債を保有する側から見れば、国債が資産であることは事実です。
しかし、国債を多く持っている人と、物価高や将来の増税を負担する人が同じとは限りません。
また、国の利払いが増えれば、教育、防災、社会保障、地方交付税など、他の政策に使える予算が圧迫されます。
消費税率を下げれば、実施直後には対象商品の価格を押し下げる効果があります。
一方で、財源を確保しない恒久減税によって需要が増え、財政への信頼が低下すれば、中期的には金利や為替を通じて物価を押し上げる可能性があります。
店頭価格への直接的な効果と、財政や為替を通じた中期的な影響は、分けて考える必要があります。
私は、すべての積極財政に反対しているわけではありません。
財源を示さない恒久的な需要拡大策には反対です。
一方で、次のような政策には積極的に取り組むべきだと考えています。
財政支出を行うのであれば、少なくとも次の点を示さなければなりません。
これらを明確にすることが、本当の意味での責任ある財政政策です。
金利ゼロの時代の積極財政と、金利が上がり円安が進む時代の積極財政は同じではありません。
現在は、政府がアクセルを踏めば、日本銀行がより強くブレーキを踏まなければならなくなる可能性があります。
今、財政支出を増やすのであれば、その分だけ財源と供給力を示さなければならない局面です。
積極財政か緊縮財政かという言葉だけで、政策を判断してはいけません。
経済状況に応じて、必要な支援を必要な人に届けながら、将来の生産力を高める分野へ重点的に投資する。
そして、物価、円相場、金利、国の利払いを確認しながら、政策の規模と期限を調整する。
それこそが、現在の日本に必要な、現実的で責任ある財政運営ではないでしょうか。
日本銀行「当面の金融政策運営について」(2026年7月31日)
https://www.boj.or.jp/en/mopo/mpmdeci/mpr_2026/k260731a.pdf
財務省「令和8年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」
https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/outlook/sy2026a.htm
IMF「Japan: Staff Concluding Statement of the 2026 Article IV Mission」
https://www.imf.org/en/news/articles/2026/02/13/imf-cs-02172026-japan-staff-concluding-statement-of-the-2026-article-iv-mission
CNBC「U.S. Treasury Secretary Scott Bessent Speaks with CNBC’s “Squawk Box”」
CNBCインタビュー全文
Reuters「US will do 'whatever it takes' to support Japan after yen intervention, Bessent says」
高槻市議会議員
小森さだゆき
#積極財政 #円安 #財政政策
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