2026/8/12
今、メディアで大々的に報じられている「介護職員の給与1万9,000円引き上げ」。
このニュースを見て、介護職員の皆様はどう思われたでしょうか。また、私たち介護経営者はどう受け止めているでしょうか。
深刻な人材不足が続く介護業界において、私をはじめ現場を預かる経営者の願いはただ一つです。「少しでも多く給料を払い、スタッフに安心して長く働いてもらいたい。そして雇用の安定と促進を図りたい」ということです。
しかし、今回の「1万9,000円アップ」という政府の発表と報道のされ方には、強い違和感を拭えません。実は、私は以前にも全く同じ「違和感」を国政の場で指摘したことがあります。
私が国会議員となり、初めて予算委員会の質疑(第208回国会・2022年2月3日)に立った時のことです。当時も政府は「介護職員の給与を月額9,000円引き上げる」と大々的にアピールしていました。
しかし、私は経営者・現場の皮膚感覚として「絶対にそんな額にはならない」と直感し、当時の厚生労働大臣に対して直接質疑を行いました。
国の主張: 常勤換算の基準(3:1配置等)で計算し、「職員1人あたり9,000円」の加算原資を出す。
私の指摘: 現場は安全やシフトを守るために「2:1」に近い手厚い配置をしている。10人の利用者様をケアするのに、基準上の10人ではなく15人のスタッフを配置していれば、9,000円の原資は分散され「実際には6,000円アップ」にしかならない。
さらに、基本給等へのベースアップ要件(3分の2以上)や他職種への配分・社会保険料負担を引けば、最終的な手元への支給額は「4,000円程度」まで目減りしてしまう。
国が「9,000円あがる」と独り歩きする数値を発表することで、現場の手元に4,000円〜6,000円しか届かなかった時、スタッフは「会社がピンハネしているのではないか」と経営者に不信感を抱き、せっかくの政策が誰も喜ばない結果になる、私はそう強く警告したのです。実際、その後の実態調査や報道でも、平均支給額は6,000円台にとどまり、現場に大きな困惑と徒労感をもたらしました。
そして今、再び全く同じ「やってる感」の演出が繰り返されています。
今回の「1万9,000円」という数値も、以下の通り現場の実情を無視した「理論上の最大値」に過ぎません。
① 「配置基準(3:1)」と「現場の実態(2:1)」の乖離
国の試算モデルは、あくまで公的な最小配置基準を前提に計算されています。 しかし、厚生労働省のヒアリングや実態調査でも明らかなように、ご利用者様の安全を守り、質の高いケアを提供し、スタッフの有給取得や負担軽減を図るため、現場は「2対1」に近い手厚い人員配置を組んでいます。 手厚い体制を組み、スタッフの負担を減らそうと努力している健全な事業所ほど、加算原資が大人数に分散し、「国の言う1万9,000円」に届かなくなってスタッフから誤解されるという本末転倒な仕組みになっています。
② 自社持ち出しの「定期昇給2,000円」まで国の実績にカウント
さらに問題なのは、1万9,000円の内訳に「事業所が自前で払う定期昇給分(2,000円)」が含まれている点です。 これは国からの加算金ではなく、経営努力で捻出する自己資金です。基本報酬の厳しさが続く中、特に小規模事業所で定期昇給を実施できているのは全国で約4〜5割と言われています。事業主が血の滲むような思いで支払う持ち出し分まで、国の施策の成果であるかのようにアピールする姿勢には疑問を禁じ得ません。
なお、「デジタル化が進まないから給料が上がらない」という論調も的外れです。上乗せ要件である「ケアプランデータ連携システム」の利用料は無料化され、小規模事業所であっても金銭的壁なくICT化・生産性向上へ取り組める環境は整っています。デジタル化の可否ではなく、「国の計算の土台(人員配置)がズレていること」こそが最大の問題なのです。
現場の雇用を守りたい。スタッフに少しでも多くの給与を支払い、安心して働いてもらいたい。そのために必要なのは、見栄えの良いモデル数値によるパフォーマンスではなく、現場が手厚い配置(2:1体制など)を組んでもしっかりスタッフへ還元できる、実情に即した制度設計です。
私はこれからも経営者として、また現場を知る者として、デジタル化をはじめ取れる工夫は全て行い、雇用を守る努力を続けていきます。だからこそ国には、政治家として机上の空論を捨て、現場のリアルを直視した本当の意味での処遇改善を切に求めます。
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