2026/8/3

富士市議会「知行合一」東川町視察報告書
(令和8年7月14日)
視察先:上川郡東川町
説明員:吉原敬晴(経済振興課都 課長)
【視察目的】
人口8,600人の小さな町が、如何にして年間20億円(5年連続)というふるさと納税を集め続けているのか?というのが今回のリサーチクエスチョン。
東川町には「写真の町ひがしかわ株主総会」というユニークな制度がある。
これがふるさと納税持続に寄与しているのではないか、という仮説を立て、現地でお話を伺いながらこの仮説の検証をするのが今回の視察の目的。
東川町は適当に疎がある「適疎(てきそ)の町」と自称している。合併特例法が施行された際も隣接する旭川市とは合併せず、独自の行政サービスを展開中。
【東川町の概要】
・人口:8,637人(令和6年12月末現在)
・面積:約247.3㎢
・位置:北海道のほぼ中央。日本最大級の自然公園「大雪山国立公園」の区域の一部となっており、大雪山系の最高峰旭岳(2,291m)を有する優れた景観が観光資源として高く評価されている。
旭川空港から10分。旭川駅から30分。羽田空港から2時間。
・キーワード:
1985年「写真の町」宣言、2014年「写真文化首都」宣言、東川国際写真フェスティバル、写真甲子園、全戸が地下水で生活する町、高品質米「東川米」、公設民営酒造誕生、「旭川家具」の3割が東川産、君の椅子プロジェクト、2022年「ゼロカーボンに取り組む適疎な街」宣言、25年間人口が増え続ける町
視察概要
東川町は2010年代にかけて人口8千人台を回復し、緩やかに増加中。しかし基幹産業である農業とのバランスをとるため、農地の宅地転用を伴う定住人口の無制限な増加は求めていない。あくまでも8000人規模を維持し、海外の学生受け入れ事業やひがしかわ株主制度などによってなんらかのかたちで町に関与し、人を呼び込む「関係人口」の拡大を目指す。
まずは“写真文化を活用したブランド戦略”というテーマで、なぜ東川町は人口が増えているのかも含めてご説明いただいた。
独自の行政サービス
・地の利の良さ
二地域居住に最適。コンパクトな旭川空港が近くにあり、東京まで2時間、旭川市内まで30分という好立地。
・適当に疎があるまちと豊かな水資源
25年間で20%人口増。 20mの汲み上げ井戸が標準
(地下水位ー4〜ー7m)。
町全域に上水道を敷設する議論も昭和の時代からあった。東川の南端を流れる石狩川水系の忠別川で多目的ダムの工事が進んでいるときに町民アンケートをとった結果、半数以上が「上水道は必要ない」と答え、「今は必要ない」も23%で、両方合わせると約8割が上水道は不要という結果になった。「水質検査でもまったく異常がない。あえて必要ないのでやめたのです」との説明。
北海道屈指のこめどころ「ゆめぴりか」を主とする東川米。一枚あたりの田んぼが2ヘクタール。平均策付け面積は一戸当たり18ヘクタール。2020年に、コメと良質の水を活用した酒蔵を誘致(公設民営)。
3 写真文化を活用したブランド戦略
・30年続く写真甲子園と国際写真フェスティバル
写真家の間では「写真写りの良いまち」として知られていた。40年前に「写真の町宣言」。 海外の高校生から応募を募り国際写真フェスティバルの開催。
・全国初の「町立の日本語学校」設立。 韓国台湾中国からの留学生を集める
・日本三大家具のひとつ、旭川家具の1/3は東川産。暮らしの中に家具が溶け込む 「君の椅子プロジェクト」。隈研吾設計のキトウシ保養施設「きとろん」
・東川風住宅設計指針で塀や生垣のない街並みのグリーンヴィレッジ
美しい東川の風景を守り育てる条例の施行。
4 ひがしかわ株主総会
・令和6年度25億円のふるさと納税
寄付をいただいた方を「株主」に登録。 株主の皆様にお知らせイベントを行い、 継続的な寄付を誘導する「ひがしかわ株主総会」。 現在、日本全国に26万人の株主がおり、株主総会には「一万円の寄付で町内に2泊」可能。
※一万円で2泊では総務省の基準をかなりオーバーしてしまうのではないかという疑問については質疑応答で回答いただいた。
・企業連携としてオフィシャルパートナー制度を創設。
企業版ふるさと納税を推進し、現在59社によるキズナサミットを開催。
・東川わかものふるさと住民制度によるホームタウンフレンドシッププログラム
東川町出身者が友人を連れて帰省した場合、最大2名招待できる制度。
・デジタル住民証と地域通貨HUC
地域通貨をデジタル技術で活用。これも移住者から提案だった。コロナ禍以後全国で流行したプレミアム付き商品券だが、一万円配っても結局町外に流れてしまう。そこで町内115店舗で使えるフックカードを導入。10%還元祭の時期は50ポイントで500円と10倍お得。経済対策と合わせて移住定住に寄与している。

5 質疑応答
Q;写真のまちに取り組んだ経緯と観光交流人口の増加や経済波及効果は?
A;一時的な経済効果として写真文化事業で来訪者の受け入れが増加した。
交流人口増に波及効果があった。「自然環境は良いけどそれだけ」と思い込んでいたが、「写真写りの良い町」として知られるようになると地域に対する愛着が育まれ、例えば東川町民限定のバスツアーを開催したところ、町民の方でも知らないカフェにおじいちゃんおばあちゃんが殺到するようになった。町民が自らの町の良さを再認識し、シビックプライドの醸成に大きな効果があった。
Q;ブランド形成に苦労した点は?
A;1985年に写真の町宣言。1986年に写真の町条例施行 町長が変わっても変えない決意を示した。最初の頃は認知されなかった。40年続けた苦労があった。そして現在の成果が得られるまで町民参加、町民協力で少しずつ定着してきた。「写真写りの良い町づくり」は単なる観光キャッチフレーズではありません。条例化した先人の先見の明の産物。
Q;SNSの発信は?
A;東京のアマナデザインに監修いただいている。自治体のwebサイトには統一性に気をつけてとアドバイスもらいながら発信を続けている。 他にもオフィシャルパートナーにホリプロさんがおり、自由に使える動画を作成していただいている。今後はオフィシャルTikTokにも取り組んでいく。
Q;「ひがしかわ株主総会」には一万円の寄付で町内に2泊できるとのことだが、これは総務省の返礼品30%基準をオーバーしないのか?
A;株主総会招待は返礼品ではない。「関係人口づくり事業」として総務省の了承をいただいている。
6 考察
セレッソ大阪がキャンプ中ということで、セレッソのユニフォームを着用して勤務中の職員の方が多く見受けられた。我々も負けじとモスペリオで行けばよかったかと反省した。シビックプライドの醸成にはスポーツ振興が常道。しかし、今回は「写真の町」としてのブランド戦略を伺うことが眼目であり、富士市自慢の「富士山カレンダー」もお土産として持参した。多くの自治体で喜ばれる四季の富士山を題材としたカレンダー。「風景写真としては素晴らしいが」と前置きしながら、写真家でもある副議長さん(添付集合写真の左から2番目)から「うまい下手ではなくもっと生活感があった方が面白い」と意外なダメだし。
視察後には写真談議に花が咲いた。確かに私たちは「富士山」にばかり目を向けすぎかもしれない。富士市は普通の人たちが生き生きと暮らす街だ。シビックプライドは市民一人ひとりがストンと胸に落ちるような、普通の暮らしと共にあるべきだ。
副議長さんが撮られた「君の椅子プロジェクト」を代表する一枚の写真。小さな子供が腰かけてこちらを向いているポートレートを見ながら「この子も、もう二十歳になります」といった会話の中に、深い愛情を感じさせられた。日常を、その瞬間を切り取るのが「写真」という芸術なのだ。富士山自慢で思考停止しがちな私たちにとっては貴重な、本当にありがたいアドバイスだった。
富士市の最大の弱点は「市民の自己肯定感の低さ」であり、ウェルビーイングが一向に向上しない点にある。私たちは富士山という観光資源に頼るばかりで、自らの足元を見ることを忘れているのではないか。背筋を伸ばして富士山を見上げる「頂へのはじまり」という富士市のスローガン。これはもはや人口減少を当たり前と考える「地方創生2.0」の時代にはそぐわないのかもしれない。
ふるさと納税の勝ち組負け組がはっきりしだして、毎年10月恒例となった「ふるさと納税の制度改正」だが、今年は所得制限と「6割ルールの導入」が検討されている。これは寄附金のうち「自由に使えるお金」を6割以上確保しなければならないという新基準。
富士市のふるさと納税(寄付額)100億円のうち、真水の部分は43億円。これを60億円まで上げる努力が必要になる。返礼品のボリューム、もしくはその輸送コストを圧縮しなければならない。富士市の主要な返礼品はトイレットペーパーであり、東川町の場合はお米だ。何れも輸送コストの高さがネックになる。今年の制度改正は生活必需品を返礼品とする富士市や東川町を狙い撃ちにしている。
そんな中で「ひがしかわ株主制度」は参考になる。返礼品ではなく「関係人口づくり」の事業の一つとして、寄付して頂いた方々を「株主」として囲い込み、持続的なふるさと納税を促すのだ。ロゼシアターの中ホールで実際に株主総会を開催するのも良い。制度改正で圧縮された返礼品を、総会のお土産に持って帰っていただくのだ。総会に合わせて「超かぐや姫!」応援上映会(株主限定)を開催しても良い…そんなアイデアが浮かんだ東川町視察だった。
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