昭和、平成、令和と3つの時代にまたがって数々の選挙に携わり、「選挙の神様」と呼ばれた選挙プランナーの藤川晋之助氏が11日、亡くなりました。このコラムでは、藤川氏の経歴を紹介し、これまで選挙ドットコムに寄せていただいた次世代への提言をまとめました。
藤川氏は1953年10月31日生まれ、大阪府出身。23歳の時、選挙の手伝いをきっかけに自民党田中派代議士秘書に。37歳で大阪市会議員に当選し、2期務めました。
その後、放浪と隠遁生活を経て東南アジアでいくつかの事業に挑戦。帰国後、東京で事務所を設立し、国会議員や首長の政策立案、選挙をサポートしてきました。政官マスコミに幅広い人脈を持ち、田中派・小沢派での豊富な選挙経験を武器に高い勝率を誇り「選挙の神様」と呼ばれました。
近年では、昨年7月の都知事選で次点だった石丸伸二氏の陣営に、9月の自民党総裁選で次点だった高市早苗氏の陣営に入って選挙をサポートしました。
国政選挙の討論会でカンペを読む候補者を見て、国家全体に無関心な国会議員がいるという話を聞いて、藤川氏は二大政党制のもとで政治家の劣化が進行していることを痛感したといい、この持論を述べました。
現行の選挙制度にも課題を感じており、「政治の振り子が大きく振れるたびに能力や人間力に欠いた議員を大量生産するばかりなのでは、日本の政治風土にやはり小選挙区制度は合っていないのではないかと考えざるを得なくなるのである」と述懐しています。
引用元記事:「政治家は偉大なゼネラリストであって欲しい」北海道5区の補欠選挙から考える(永田町の住人が死ぬ前に絶対に伝えたい政治の話.1)(2016/4/13選挙ドットコム掲載)
「ひたすら歩け」「握手した数しか票にはならない」ーー昭和の大物政治家・田中角栄氏に徹底した戸別訪問と辻立ちによる選挙戦略をたたき込まれた藤川氏は「有権者の心を真に掴むのは地上戦」だというモットーを持ち続けました。
国や地域のために奉仕するのが政治家の役目である以上、「人を好きにならないと出来ない仕事」と言い切ります。そして、若手に向けて次のエールを送りました。
「これから政治を志す人たち、政治にチャレンジしようとする人たちは、民主主義とは対話から始まり、有権者の声に耳を傾け、しかし同時に有権者を啓発するべきリーダーたらんとすることを、忘れないで欲しい」
引用元:選挙の手法が地上戦から空中戦に変わると、政治家が小粒になる|(永田町の住人が死ぬ前に絶対に伝えたい政治の話.12)(2017/4/26選挙ドットコム掲載)
繰り返される「政治とカネ」の問題に辟易する人は多いでしょう。しかし、多額の資金を投じながら、有権者一人ひとりに働きかけ、説得を重ねる選挙の現場を見てきた藤川氏は、「お金をかけずに政治家は育つのか」と問いかけます。
政策提言や法案作成といった政治家の本来の仕事を遂行するにも、各省庁からの情報収集や専門的な分析には人手が必要であり、それには当然ながら資金が伴います。実際、アメリカでは、政治家が集めた献金を基に政策立案を推進し、有権者への働きかけを強化する仕組みが確立されています。そこでは、有権者が政治家を資金的に支援することが、最終的に公益となって還元されるという好循環が生まれています。
一方、日本では「政治にお金をかけること」を避けてきた結果、多くの政治家が政策立案や法案作成を官僚に依存する現状が続いています。藤川氏はこの弊害を指摘し、「今の政治家は、いまだに役人におんぶにだっこの状態だ」と警鐘を鳴らします。
彼はまた、能力の高い野球選手や人気のある歌手と同様に、「人を育てるには費用がかかる」と強調し、資本力と仕事の質が比例することを訴えます。そして、「国民がもっと政治を理解し、自ら政治家を育てる立場に立たなければならない」と語りかけます。
選挙ドットコムちゃんねるより(41:17頃より)
日本の戦後から高度経済成長期、そして幾度となく訪れた政治不信の波の中で、日本の政治を見つめ続け、関わり続けた藤川氏。その言葉には、多くの示唆が込められています。
ぜひ、この記事や動画をご覧いただき、読者の皆さんそれぞれの心に響く言葉を見つけ、深く考えるきっかけとしていただければ幸いです。
この記事をシェアする
選挙ドットコムの最新記事をお届けします