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選挙の手法が地上戦から空中戦に変わると、政治家が小粒になる|(永田町の住人が死ぬ前に絶対に伝えたい政治の話.12)

2017/4/26

藤川 晋之助

藤川 晋之助


長年、選挙のコンサルティングのようなことをしているが、ご承知のように選挙には大きく分けて、空中戦と地上戦がある。昭和の時代は田中角栄元総理が、「五万件の戸別訪問と、一万五千件の辻立ちを川上からやって行き、握手した数しか票にはならない、だから歩け歩け、ひたすら歩け」と言われていたようなどぶ板選挙があたりまえのことだった。

しかし、平成になると、駅前に立って露出することだと、朝に夕に駅前で立って挨拶することが、活動の主流となり、効率論重視になって行った。もちろん今でも地方では昭和的な地上戦中心の戦い方をせざるを得ないのは言うまでもなく、駅前と言えども人があまりいないのだから仕方がない。しかし、都会では駅だちをやり続けることが、毎日一所懸命やっているねと浮動票を集めることの基本となっているようだ。

いつだったか、アメリカの視察団が日本に来て、駅前に立っている政治家を見て、「不思議な光景だ。アメリカだったら駅に立っている候補者は落選するね。それは言葉がないからだ。演説をしてその意見に共感して支持者を増やすのが政治の基本だから、できるだけミニ集会を開いて有権者と会うことを大切にする。あるいは運動員が熱心に戸別訪問や電話作戦をするんだけれど、先ずは候補者の話を是非聞いて、会ってみてから始まる。ずいぶん日本とは違うんだね」と、率直に言われた。

確かに、明治時代から演説会、辻立ちが日本でもしょっちゅう開かれ、行われていたけれど、時を重ねるに従ってそうした政治家の会合が少なくなって来て、なかなか人に集まってもらえることが難しくなって来た。そもそも政治家の話も面白くなく、かつてのように啓発され感動するような演説をほとんど聞いたことがないと多くの人が言っていることも事実だ。

これは民主主義の後退ではないのか? そんな問題意識を持つようになってすでに久しいのだが、芸能人ならば金を出しても人が集まるのに、政治家は無料でも人が集まらない。それはクオリティが低いからだ。同時に、政治への無関心が壁としてある。われわれ日本人の多くが、国家や地域社会の将来を自分のことと関係付けて考える力を見事に失ってしまったと実感するし、それは戦後教育の産物だと思っている。それだけに、政治側の人間からしてみれば、政治活動や選挙運動は空しさと裏腹にある。だから、よほどの強靭な精神力を持ち得ていない限りなかなか政治家にはなれないものである。

昭和に比して平成の政治家は小粒になった、魅力がなくなったとよく聞かされるが、それは地上戦から空中戦へと選挙の手法が移って行くに従って、政治家として揉まれる機会が少なくなってきているのか、言葉が貧しくなっているような気がするのである。

駅前で挨拶しているのと、辻立ちや、集会で演説しているのとは明らかに違う。だから、私はできるだけ地上戦を大切にして、候補者が短い時間でしっかりと相手に思いを伝えて、魂の共感を導き出せるように、日々修行としての活動を求めるのだが、最近はなかなか効率論の前に人気が無いようだ。

政治は人を好きにならないと出来ない仕事。国や地域の為に奉仕しなくてはならないのだから。しかし、どうも目の前にいる一人一人を愛せない人が多く、意外に理想を語る人ほど、自分を愛しているばかりの人が目立つのは寂しいことで、エリート主義の傾向が強いのに気づくことが多い。これから政治を志す人たち、政治にチャレンジしようとする人たちは、民主主義とは対話から始まり、有権者の声に耳を傾け、しかし同時に有権者を啓発するべきリーダーたらんとすることを、忘れないで欲しい。

人に会うことが楽しい! 共感しあい、支持の輪が広がっていく為に、何よりも国や地域のことをしっかりと考え、驚くほどの知識を身に付けて、明日を語れるようになる為に、努力奮闘あるのみです。実に私的にはあたりまえのことを述べているのだが、空中戦も大切なのは分かるが、有権者の心を真に掴むのは地上戦!どんな時代になっても人の心の底にあるものは変わらないと思っています!

とはいえ、空中戦か地上戦かは選挙をやるものの永遠のジレンマ。選挙しつつ組織し、組織しつつ選挙する。平生往生、きちっと仕事で評価される政治家になり、その成果をより情報発信する姿勢が何よりも大事なことは言うまでもないことです!

空しくとも政治を諦める訳にはいかない。それは国や地域を少しでも良くしていくためには政治が不可欠なのだから。老いた私などは、若い人材がもっとこの国や地域の為に育って欲しいと、今日もなお永田町の周辺をうろうろしているのであります。

何よりの楽しみは志しの高い真っ直ぐな若者に会うことであり、そのことで何故か喜びひとしおとなるのです。

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藤川 晋之助

藤川 晋之助

政治アナリスト。23歳の時、選挙の手伝いをきっかけに国会議員秘書となる。代議士秘書、大臣秘書、地方議員、放浪と隠遁生活を経て東南アジアでいくつかの事業に挑戦。帰国後、東京で藤川事務所を設立し、国会議員や首長の政策立案、選挙をサポートする。政官マスコミに幅広い人脈を持ち、田中派・小沢派での豊富な選挙経験を武器に高い勝率を誇る「選挙のプロ」としても名高い。趣味は文学と政治。

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