選挙ドットコム

少ない資金で選挙を制す!トランプ陣営の巧妙なデジタル戦略とイーロン・マスク氏がもたらした影響【2024年米大統領選】

2025/2/28

市川裕康

市川裕康

【前編はコチラ】約7000億円をかけた2024年米大統領選挙〜資金の内訳とSNS広告費の変化(市川裕康)

2024年の米大統領選挙では巨額の資金が投じられ、テレビやSNSの広告などが果たした役割を前編で概観しました。ドナルド・トランプ陣営はデジタルメディアを駆使し、限られた資金でも効果的に支持を拡大する戦略を展開しましたが、今回は以下の3つの点に関して深堀りしてみたいと思います。

●    ストリーミング広告と緻密なターゲティング:有権者データを詳細に分析し、動画ストリーミング広告を通じて説得可能な浮動層に集中的にリーチする戦術。従来のテレビではなくインターネット経由の配信に重点を置き、的を絞った広告展開を実施。

●    インフルエンサーとの連携:ポッドキャストやYouTubeといったプラットフォームで人気の発信者と協力し、候補者のメッセージを新たな視聴者層に届けました​。トランプ氏自身が多数のネット番組に出演し、若年層・無党派層との直接的な対話を実現。

●    X(旧Twitter)の活用:イーロン・マスク氏によるプラットフォーム改革を追い風に、従来より拡散力を増したSNS空間で情報戦を展開しました​。アルゴリズム変更やコンテンツ傾向の変化に乗じて、自陣に有利なオンライン世論形成を促進。

トランプ氏がホワイトハウスに復帰した背景には、インフレ、移民、そして民主党政権の4年間における国の方向性に対する全般的な不満など、多くの大きな構造的原因があったことは選挙結果をもたらした背景として重要な点です。ただ、ハリス陣営が15週間で15億ドル(約2250億円)を費やしたといわれる選挙戦において、トランプ氏が財政的に不利な状況を縮めた巧妙な方法は注目に値すると思われます。

ストリーミング広告と緻密なターゲティング

トランプ陣営のデジタル戦略の核心は、限られた資金の効率的な使用にありました。対するハリス陣営が4470万人という広範な層に向けてテレビやSNSの広告を大々的に展開し、その85%が既に投票先を決めている有権者だったのに対し、トランプ陣営は説得可能な630万人に焦点を絞ったストリーミング広告キャンペーンが効果的だったと、ニューヨーク・タイムズなどの分析記事(『トランプ氏、限られた資金で未決定層を効率的に攻略』[12/5 The New York Times])で詳しく紹介されています。

そもそもストリーミング配信とは、日本でいうところのコネクテッドTV(インターネット接続型のテレビ)、スマートTVのようなしくみで、視聴者の属性に応じたきめ細やかな広告出稿が可能な点が特徴です。近年アメリカではケーブルテレビ離れが進み、動画コンテンツ視聴の主流がストリーミング配信へ移行しつつあるという背景があります。

まずトランプ陣営は2024年春の時点で2万人規模の独自大規模調査や行動データ分析を実施し、「説得可能な浮動層」に属する有権者を抽出、接戦州に散在する約630万人のターゲットリストを作成したといいます。

これらの有権者は従来よりも若く人種的にも多様で、ニュースをケーブル経由ではなくオンラインで消費する傾向が強い層でした​。その後、クレジットカードの購買履歴やインターネット閲覧データと紐づくデバイスIDといった民間のビッグデータも駆使し、個々人の関心に合わせて広告内容を最適化する緻密なマイクロターゲティングが行われたそうです。

トランプ陣営はストリーミング広告には約8000万ドル(約120億円)を投資したと言われています。中でも驚いたのは、選挙戦終盤では、早期投票者を日次でリストから除外するなど、きめ細かな最適化を継続していたそうです。

こうしたアプローチは、従来の「散弾銃的」なアプローチから、データに基づく精密なターゲティングへの移行が進んでいることを示しました。特に、ストリーミングプラットフォームの台頭により、郵便番号レベルではなく、個人レベルでのターゲティングが可能になり、限られた資源でも効果的な選挙運動が可能になったと言われています。政治広告の新時代の幕開けを示唆し、今後の選挙戦略に大きな影響を与えるとも予測されています。

インフルエンサー戦略による若年層へのアプローチ

第二の特徴的な戦略は、インフルエンサーとの積極的な連携でした。特筆すべきは、Z世代(30歳未満)の男性層からの支持を大きく伸ばしたことです。この世代の男性投票者の56%がトランプ支持を示し、4年前から15ポイント上昇という驚異的な伸びを記録しました。

この成果の背景には、若年層の情報消費傾向の変化があります。調査によると、30歳未満の有権者の46%がソーシャルメディアを主な情報源としており、その4割近くの37%がニュースインフルエンサーに依存している点が挙げられます。調査会社のピューリサーチは2024年末と2025年に「ニュースインフルエンサー」に関する調査を実施、2025年2月には「2024年選挙期間中のニュースインフルエンサーがトランプとハリスについて語った内容」と題したレポートの中でこうした状況を詳しく解説しています。

出典:アメリカ人の2024年選挙報道に対する見方 [2024年10月10日 Pew Research Center]
出典:アメリカのニュースインフルエンサー – ソーシャルメディア上のニュースと情報の世界における発信者と消費者[2024年11月18日 ピュー・リサーチ・センター]

レポートによると、2024年の米大統領選挙において、ニュースインフルエンサーの投稿の79%がX(旧Twitter)で行われ、そのうち48%が右寄りインフルエンサーによるものだったことが指摘されています(左派寄りは28%)。X上ではハリスへの批判が支持の2倍以上(38%対17%)だったのに対し、トランプ氏への投稿はほぼ均等に分かれていました。また、分析対象のインフルエンサーの77%は報道機関やニュース業界との関連はなく、それらのインフルエンサーはハリス氏により批判的であったことも明らかになっています。

トランプ陣営は、ポッドキャストやユーチューブなどのプラットフォームで影響力を持つ発信者と戦略的に連携。候補者自身が多数のネット番組に出演し、若年層・無党派層との直接的な対話を実現しました。この戦略は、高額な従来型広告に依存せず、オーガニックな拡散力を活用した点でも注目されています。

欧米の主要メディアでもこうしたポッドキャストやユーチューブ上のインフルエンサーがもたらした影響力に関し、詳しい調査報道を踏まえた特集記事を数多く掲載しています。

日本においてはあまり知られてないものの、米国の若年男性層に強い影響を持っているジョー・ローガン氏がトランプ氏をゲストに招いたポッドキャスト番組はユーチューブでも配信され、視聴回数が確認できるユーチューブ上だけでも現時点で5600万回以上視聴されています。トランプ氏は選挙期間後半戦には伝統的メディアを避け、約17時間に渡ってこうしたインフルエンサーの番組に出演し、支持を集めたと言われています。

ブルームバーグ紙の調査報道では、トランプ氏を勝利に導いたと言われる9人のインフルエンサー(ポッドキャスト/ YouTube)による過去2年間の動画を分析し、主要視聴者である若年男性に対していかに強い影響を持ち、トランプ氏に勝利をもたらしたかを分析しています。2022〜2024年の間に配信された2000以上の動画の内容分析によると、選挙・投票(37%)、戦争(33%)、トランスジェンダー問題(29%)が頻繁に言及され、また、スポーツや男らしさについての議論に政治的メッセージを織り交ぜ、政治的に無関心な視聴者にも影響を与えたと指摘されています。投票日直前のトランプ氏がポッドキャストに出演した回は各チャンネルで最も視聴された回となり、9つの番組での合計視聴回数は1億回を超えたそうです。

これらのインフルエンサーはジャーナリストとしての経験を持たず、長時間の気軽な対話形式が中心で、事実確認をあまり重視せず、「本物の声」を提供するとして若い男性からの支持を集めています。主要インフルエンサーは広告収入から年間1000万〜5000万ドル(約15億〜75億円)もの利益を生み出し、従来のメディアの影響力が縮小する一方で、今後ますます影響力を持つことが予測されています。さらに、今後のトランプ政権において政策アジェンダのコミュニケーターとしての役割を果たす可能性も指摘されています。

日本国内においては切り抜き動画やインプレッションに応じた広告収益目的による政治や選挙に関するコンテンツを発信するインフルエンサーの存在感が増加傾向にある中、アメリカで起きていることが日本でも起きつつあることを感じます。

イーロン・マスク氏とXの影響力

2024年の大統領選挙の第3の特筆すべきポイントは、イーロン・マスク氏とXプラットフォームの大きな影響力でした。

フランスの新聞ル・モンドは英語版の解説動画『How Elon Musk used X to help Donald Trump win(イーロン・マスクはいかにXを使ってドナルド・トランプを勝たせたか)』を制作し、マスク氏が自身のプラットフォームを「プロパガンダ装置」に変貌させた様子を検証しています。動画によると、投票日までの1ヶ月間、マスク氏は合計3247回(1日平均100回)の投稿を行い(4年前の10倍)、その7割が政治に関するものであるなど、いかに選挙キャンペーンに注力していたかがうかがえます。

7割の政治関連投稿の内訳はドナルド・トランプ氏の支持(27%)、民主党批判(25%)、メディア批判(11%)、誤情報(7%)となっていて、2億人以上のフォロワーを持つマスク氏の投稿は圧倒的な影響力をもたらしたことが分かります。誤情報関連投稿だけでも10億回以上閲覧され、アルゴリズムの変更によりプラットフォーム全体の有害コンテンツの表示の増加にもつながっています。

時代とともに変化を続ける米大統領選挙

トランプ陣営は2016年の選挙ではTwitter活用とFacebookのマイクロターゲティング広告戦略などが功を奏し勝利したものの、2020年にはプラットフォーム各社の規制強化とコロナ禍で集会の開催なども難しい中で敗れました。2024年のトランプキャンペーンは、過去の選挙から学んだデジタル戦略を洗練させ、「少ない資金でも勝つ」戦術が進化し、ストリーミング広告とインフルエンサー活用、イーロン・マスク氏のX買収による保守寄りの環境変化を追い風に、効果的な情報戦を展開しました。一方、ハリス陣営は従来型のテレビ広告に依存し、デジタル戦略で巨額の選挙資金を活かしきれませんでした。情報流通経路がテレビからスマートフォンへ移行する中、資金力よりもデータと最新メディアの賢い活用が勝敗を左右する時代に入ったことを2024年の米大統領選挙は示しています。

日本においてもインターネットやSNSが選挙活動の際に無視できない存在になりつつある今、米国の大統領選挙で注目を集めた戦略・戦術の事例から学べる点もあるのではないでしょうか。

(おわり)

この記事をシェアする

市川裕康

市川裕康

株式会社ソーシャルカンパニー 代表取締役 NGO団体、出版社、人材関連企業等を経て2010年3月に株式会社ソーシャルカンパニーを設立。メディアコンサルタントとして、国内外の政府機関、国際機関、企業、報道機関、NPO団体などに対し、海外デジタルメディアのトレンド調査・執筆・講演・コンサルティング活動に従事。『現代ビジネス』での連載(2010-2015)や著書に『Social Good小事典(講談社)』がある。1994年同志社大学(法学部政治学科)卒、1996年米国アマースト大学(Political Science専攻)卒。1970年静岡県浜松市生まれ。

選挙ドットコムの最新記事をお届けします

採用情報

記事ランキング

ホーム記事・コラム少ない資金で選挙を制す!トランプ陣営の巧妙なデジタル戦略とイーロン・マスク氏がもたらした影響【2024年米大統領選】

icon_arrow_b_whiteicon_arrow_r_whiteicon_arrow_t_whiteicon_calender_grayicon_email_blueicon_fbicon_fb_whiteicon_googleicon_google_whiteicon_homeicon_homepageicon_lineicon_loginicon_login2icon_password_blueicon_posticon_rankingicon_searchicon_searchicon_searchicon_searchicon_staricon_twitter_whiteicon_youtubeicon_postcode