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約7000億円をかけた2024年米大統領選挙〜資金の内訳とSNS広告費の変化(市川裕康)

2025/2/27

市川裕康

市川裕康

2024年秋のアメリカ大統領選挙では、巨額の選挙資金が投入され、ドナルド・トランプ氏が勝利を収めました。投票日から約3ヶ月が経過し、詳細なデータが公開されたことを受け、選挙資金の流れと効果的な活用方法を振り返ってみたいと思います。集まった選挙資金の総額とその使途、また、対立候補と比べて少ない選挙資金でトランプ氏が勝利を収めた背景について、データを基に検証してみます。SNSやデジタルマーケティングが重要性を増す日本の選挙活動において、参考になる点があれば幸いです。

選挙資金の全体像

資金調達額:約47億ドル(約7050億円)

各陣営の最終報告によると、2024年の米大統領選では総額約47億ドル(約7050億円)の資金が集まりました。この金額には、候補者本人の選挙運動費用、政党、そしてスーパーPAC(独立系の政治支援団体)による資金が含まれています。

陣営別の内訳

  • 民主党(バイデン・ハリス陣営および関連団体):約29億ドル(約4350億円)
  • 共和党(トランプ陣営および関連団体):約18億ドル(約2700億円)

特筆すべきは、2024年7月のカマラ・ハリス候補の正式立候補表明以降、民主党陣営への献金が急増したことです。

※1ドル=150円換算で計算

選挙資金の使途:何にいくら投じたのか

総支出規模

選挙資金などのデータを追跡・公開する米非営利団体「オープン・シークレット」の調査によると、大統領選挙関連の総支出は約55億ドル(約8,250億円)に達しました。これは2020年の約77億ドル(約1.15兆円)と比べて22億ドル少ない金額です。なお、この数字にはロバート・F・ケネディ・ジュニアら第三政党候補の支出約5億ドル(約650億円)も含まれています。

広告費の配分

実際に何にいくらの選挙資金を投じたのかに関し、昨年11月6日に投票日時点でハリス陣営とトランプ陣営、関連団体、連携する超党派政治活動委員会(スーパーPAC)および政党委員会の支出内訳を集計したデータの分析をフィナンシャル・タイムズが伝えています。

各陣営のキャンペーンにかかった費用

  • ハリス陣営:約10.3億ドル(約1545億円)
  • トランプ陣営:約7.6億ドル(約1140億円)

支出項目にはメディア/広告購入、運営・管理費、資金調達、ダイレクトメール、法務費用などが記載されていますが、最も多くの資金を投じているのはメディア/広告購入費用です。また、トランプ陣営はトランプ氏の訴訟費用に1億ドル以上、つまり全支出の約13%が充てられていることも読み取れます。

両陣営とも、支出の大半を広告とメディア購入に充てました。特徴的なこととして、この広告費の大部分が7つの激戦州(ミシガン州、ジョージア州、アリゾナ州、ペンシルベニア州、ネバダ州、ウィスコンシン州、ノースカロライナ州)に集中投下されたと広告分析会社アドインパクトのレポートで報じられています。例えば、ペンシルベニア州だけで4億ドル(約600億円)以上が投じられ、これは非激戦州43州の合計額(3.58億ドル)を上回ります。

イーロン・マスクの2.77億ドル(約415億円)の支援:資金の使途と政治的影響

2024年の大統領選挙で特に注目されたのが、起業家イーロン・マスク氏がトランプ陣営に拠出した2.77億ドル(約415億円)という巨額資金です。マスク氏は自身が率いる企業や個人資産を通じてこの資金を提供し、その多くは彼が2024年に密かに立ち上げたスーパーPAC(独立系の政治支援団体)「America PAC」に流れ込みました。同PACには約2.387億ドルが投入され、マスク氏はこれにより史上最高額を投じた献金者となったと言われています。

更に注目に値するのがマスク氏が投じた資金の用途です。選挙管理委員会(FEC)に提出された資料によれば、America PACはその資金のうち約6割の約7000万ドルをトランプ氏支援の戸別訪問(キャンバス)に直接投じ、さらに約4050万ドルを署名した有権者に現金を給付する活動に充てられたことも資料から判明しています。これらの取り組みは報道やソーシャルメディア上でも大きな話題になり、有権者の関心を喚起することに貢献したと言われています。

もっとも、マスク氏はソーシャルメディアのX(旧Twitter)のオーナーでもあり2億人以上のフォロワーを持つ圧倒的なインフルエンサーです。その影響は資金面だけでなく情報拡散の面でも大きなインパクトをもたらし、トランプ氏当選に大きな役割を果たしたことは多くの人が知るところです。

デジタル広告・SNSマーケティングへの投資

伝統的に米大統領選挙ではテレビやラジオといったマスメディア向けの広告費が重きを占め、現在も年々政治関連の広告市場が増加傾向にあります。2023年12月に調査会社のイーマーケターが実施した調査によると、大統領選挙に限らない連邦議会や州・地方も含めた政治関連の広告全体の市場規模は2016年の42.5億ドルから2024年には123億ドル規模へと3倍近く拡大していることが分かります。広告市場全体における比率としても2024年の予測として3.1%の水準と予測されていたほどです。

今回の大統領選における詳しい内訳に関しては、広告分析会社アドインパクトによるレポートが詳しいデータをまとめています。

レポートによると、7月22日以降のデジタル広告費は約4.2億ドル(約630億円)に達し、大統領選における総支出の18%を占めたと言われています。また、X(旧Twitter)を除く主要ソーシャルメディアプラットフォームにおいて、ハリス陣営が多額の広告費を支払っていたことが分かります。さらに特徴的な点としては、7月22日以降の終盤戦において、7つの激戦州で約18億ドル(約2700億円)のデジタル広告費が投入され(ペンシルベニア州には全体の22%が集中)、これは終盤戦の総広告費の79%に当たるとのことです。

一方、SNS広告費に関し注目に値する傾向として、デジタル広告費が年々増加しているにも関わらず、ソーシャルメディア広告に投じる比率が年々低下していることです。2024年9月10日のトランプ氏とハリス氏による討論会直後の週における広告支出を比較すると顕著です。ハリス陣営がFacebookとInstagramに約1220万ドル(約18.3億円)を投じたのに対し、トランプ陣営はわずか61万1228ドル(約9,200万円)しか投じていません。

2016年の大統領選挙の際にはトランプ陣営が4400万ドル、クリントン陣営が2800万ドルを支出し、2020年の選挙ではトランプ陣営が8910万ドル、バイデン陣営が8520万ドルと巨額の資金を投じていた頃と比べると、SNS広告への支出額の減少傾向は一目瞭然です。

再度イーマーケターによるデータによると、2016年から2024年までの間にSNS上の政治広告の市場は1.4億ドルから6億ドルへと4倍以上に拡大しているものの、デジタル政治広告市場の中の比率としては40%から17.5%へと急速に低下していることがうかがえます。

トランプ陣営とハリス陣営との戦略の違い:低予算ターゲット広告 vs 大規模TVキャンペーン

選挙資金の規模が大きく異なる中で、共和党トランプ陣営と民主党(バイデン・ハリス陣営)は対照的な戦略を展開しました。その象徴的な違いが「低予算でも狙い撃ちするトランプ陣営」と「潤沢な資金で広範囲に訴える民主党陣営」という構図です。

2024年12月5日のニューヨーク・タイムズの記事『トランプ氏、限られた資金で未決定層を効率的に攻略』では、大統領選挙における選挙広告戦略の進化を象徴する事例として、「ストリーミングサービスを利用する浮動層」に対するアプローチが詳しく紹介されています。そもそもストリーミング配信とは、日本でいうところのコネクテッドTV(インターネット接続型のテレビ)、スマートTVのようなしくみで、視聴者の属性に応じたきめ細やかな広告出稿が可能な点が特徴です。近年アメリカではケーブルテレビ離れが進み、動画コンテンツ視聴の主流がストリーミング配信へ移行しつつあるという背景があります。

トランプ陣営は2万人規模の詳細な調査を実施し、激戦州における投票先を決めていない(未決定層)が従来と異なり、若年層や黒人、ヒスパニック系により偏っていることを特定しました。さらに重要な発見は、これらの有権者の約半数がストリーミングサービスを主な視聴手段としていることでした。この知見を基に、世論調査データと消費者情報を組み合わせ、7つの激戦州で630万人の重点ターゲットリストを作成し、今までトランプ氏に投票してこなかった有権者の獲得に成功したと言われています。

トランプ陣営のこうした戦略は、従来の「散弾銃的」なアプローチから、データに基づく精密なターゲティングへの移行が進んでいることを示しています。

後編の記事においては、費用をかけずに効果的なキャンペーンに寄与したと言われるストリーミング広告の緻密なターゲティング、ポッドキャスト/ ユーチューバーのインフルエンサーの存在、そしてイーロン・マスク氏のXにおける影響力を詳しく掘り下げたいと思います。

日本においては選挙にかける費用も期間もアメリカ大統領選挙と比べると規模は小さいかもしれません。一方で東京都知事選から兵庫県知事選挙に至るまで、最近では「選挙とSNS」を巡る社会の中での影響力が選挙活動や市民社会に大きな変化をもたらしています。「SNS上で選挙や政治は金になる」という思いから偽情報や正しくない情報が蔓延する気配すら懸念されている状況です。選挙を巡るお金とSNS活用について、アメリカ大統領選挙から学べる点は少なくないと言えます。

(後編へつづく)

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市川裕康

市川裕康

株式会社ソーシャルカンパニー 代表取締役 NGO団体、出版社、人材関連企業等を経て2010年3月に株式会社ソーシャルカンパニーを設立。メディアコンサルタントとして、国内外の政府機関、国際機関、企業、報道機関、NPO団体などに対し、海外デジタルメディアのトレンド調査・執筆・講演・コンサルティング活動に従事。『現代ビジネス』での連載(2010-2015)や著書に『Social Good小事典(講談社)』がある。1994年同志社大学(法学部政治学科)卒、1996年米国アマースト大学(Political Science専攻)卒。1970年静岡県浜松市生まれ。

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