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2024年12月14日に公開された動画のテーマは「え?おかしくない?公選法の歴史と課題を徹底解説」
東京都知事選でのポスター問題などで注目された公職選挙法とは、いったい何を規定した法律なのか。選挙プランナーの松田馨さんが、日本の選挙の歴史とともに、変遷をひもときます。中には時代錯誤な項目も?
【このトピックのポイント】
自由民主党と公明党が、選挙ポスターの「品位を維持する規定」を新たに盛り込んだ改正公職選挙法の早期成立を目指し、今国会にも成立させたい構えです。
背景には、今年の都知事選での掲示ポスターに、候補者自身の当選を目的としない宣伝や極端な主義主張を書き込んだものが目立ったことがあります。国民から批判の声が大きかったことから、そうした点を規制しようとする動きが生まれました。
公職選挙法では、立候補者の表現の自由を損なわないため、表現を制限するのでなく「品位を維持する」という表現になっています。現在、政見放送に対して品位維持規定として盛り込まれている内容を、ポスターにも適用させたいという狙いです。
現在の公職選挙法の問題に触れる前に、日本の選挙制度の歴史について振り返ってみましょう。
そもそも日本の選挙制度は、明治7年(1874年)に板垣退助らが「民選議院設立の建白」を提出したことから始まりました。
天皇主権である大日本帝国憲法ができたのは明治22年(1889年)。この時に衆議院議員選挙法が公布されました。当時は年齢制限が25歳以上、直接国税15円以上を納めている男子のみが有権者でした。いわゆる「高額納税者」の男性のみで、当時の人口の1.1%に限られる制限選挙ではありますが、これまで投票の機会がなかったことから考えると一歩前進と言えるでしょう。
しかし、この制限は不評で、直接国税の納税額を10円以上にゆるめる中で、大正デモクラシーの流れが生まれます。そして、大正14年(1925年)に衆議院議員選挙法を改正する流れで、男子普通選挙が実現しました。
この選挙法改正と同時期に成立したのが、治安維持法です。
当時は、社会主義の流れが広がっていくことに対して強い警戒をしていました。天皇主権という国家の形から考えると、社会主義は大きな脅威になり得ます。また、当時の日本国家は、大衆が強い力を持つことに抑制的でした。
そして第二次大戦が終結した昭和20年(1945年)に衆議院議員選挙法が改正され、ようやく女性にも男性と同等の選挙・被選挙権が認められる普通選挙制度が導入され、満20歳以上の男女が選挙権を獲得しました。
日本国憲法が公布されたのが翌昭和21年(1946年)。なんといっても国民主権になったことが大きな変化ですが、松田氏は「それと、公職選挙法の成り立ちには全然関係がなくて……」とコメント。
公職選挙法は、戦後制定された参議院議員選挙法、それから衆議院議員選挙法と地方自治法における地方議員の選挙法をまとめて作られました。
松田氏は、公職選挙法は、基本設計が大正時代の衆議院議員選挙法、大日本帝国憲法下における制限の多い選挙法をベースに作られているのが一番の問題であると指摘します。
松田馨氏「GHQはそこまで考えていなかったんでしょうね」
松田氏は、公職選挙法を作る際に、他国の選挙制度がどうなっているか、国民が主権者となった場合にどういう選挙制度、投票のやり方など、どうすればより有権者にとってより良い選挙となるかを検討すべきだったとコメントします。
公職選挙法では、法律の中にかなり細かい規定がしっかり書かれています。制定後、さまざまな変更があったものの、大きな変更には至っていません。
1994年の小選挙区比例代表並立制の導入は、「政治とカネ問題」に起因するものです。国民の不満が頂点に達し、中選挙区から小選挙区に、選挙区をどう変えるかという話はしましたが、公職選挙法の中身を変更する話にはなりませんでした。
松田氏は、国会議員は外交・教育・経済など国会で議論すべきことがたくさんあることと、国会議員自らが今の公職選挙法で選ばれていることから、公職選挙法改正の議論がよほど盛り上がらない限り、着手しづらいのではないかと推測します。
また、行政が法律改正を提案することにならないのは、選挙自体は各都道府県で分権しており、中央に選挙管理委員会があるわけではないことを指摘します。
松田氏は、現在の公職選挙法を「そもそも設計がおかしい。天皇主権の時にできた、候補者も有権者も縛る法律。スクラップ&スクラップが必要」と主張します。
問題と指摘するのは、立候補者自身が資金のあるなしに関わらず、選挙を戦えるようにするための「一律平等に不自由な中で公平な選挙を」という建て付けにあると語ります。
松田氏「ポスターの枚数、サイズ、選挙カーの台数など形式の規定がとても多い。手法に対して厳しく規制している。先進国の中では日本だけ」
有権者に届くかどうかでなく、量的な公平を期すだけでは、「不自由な選挙を候補者が強いられている」と指摘。有権者が参加しづらく、投票率が下がるだろうとコメントします。
事前運動を禁止するのも日本だけだと言います。
選挙期間を厳しく区切り、告示前に選挙運動をするのは、候補予定者だけでなく、一般の有権者がやっても違反とされます。「18歳未満が選挙運動をしても捕まってしまう。わかりづらく、制限が多い」と松田氏は厳しい表情を浮かべます。
松田氏は、こうした規制のせいで、一般の市民が気軽に選挙に参加できないと分析します。
費用の上限額も細かく決まっているのですが、選挙期間中に使える金額が大きいことにも松田氏は首を傾げます。
松田氏「直近の兵庫県知事選を例に取ると、有権者数440万人×7円+2420万円を加えた約5500万円が上限となる。期間中17日間で使い切れる金額ではない」
もちろん、報酬を支給できる範囲や人数も決まっており、原則ボランティアとされています。
しかし、告示前にいくら費用を使っても制限がありません。「むしろ選挙期間中に自由にしたほうが結果として平等になるのでは」と松田氏は指摘します。
電子メールや携帯のショートメールの禁止についても同じです。SNSのメッセンジャーはよく、電子メールはダメという理由はなかなか納得しがたいものがあります。
かたや、公職選挙法には、今もなお、明治時代に街灯がなかった頃の名残りで「選挙事務所に提灯を置いていい」という項目もあると紹介。松田氏は「日本国憲法下で、その思想をもとに作られた法律ではない」とコメントします。
この法律のもとで、戦後70年以上選挙をやってきたことが、ひとつの風土にもなっているだろうと慮りますが、「主権者である国民の1票が、より豊かに反映される」よう、時代に合った改革を行っていくべきだと松田氏は結びました。
こんな項目が?選挙プランナー松田馨氏が公職選挙法を徹底解剖!
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