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「選挙妨害」とは一体なんだろう?東京都知事選挙のタイミングでもう一度考えたい適正な選挙運動のあり方

2024/7/7

選挙ドットコム編集部

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2024年4月28日に投開票された衆議院小選挙区東京15区補選(以下「東京15区補選」といいます)で注目を浴びた「選挙妨害」。他陣営の演説妨害をしたとして政治団体「つばさの党」の立候補者・代表ら3人が公職選挙法の選挙の自由妨害容疑で逮捕される事態になりました。妨害行為の悪質性を踏まえて異例の逮捕に踏み切った形である一方、選挙期間中の選挙運動への妨害活動を取り締まることの困難さなどの課題も浮き彫りとなりました。このコラムでは、そもそも「選挙妨害」すなわち「選挙の自由妨害」とはどういった行為を指すのか何が問題として残っているのかを改めてまとめてみました。

ヘイト、押しかけ……15区補選の現場で何が?

東京都第15区の選挙では、事務所への生中継をされた凸行為が報じられました。私は生放送をチェックしながら事務所を監視し、対策を練りました。

妨害行為は、ヘイトスピーチや事務所への強引な押しかけ行為でした。それに対し、私達は法を守って行動しました。私たちの陣営は情報網が発達しており、これが被害を最小限に抑えられた要因だと考えています。

警察に対応依頼は何度もしましたが、効果的な行動が得られず、警備の追加もありませんでした。

私たちは候補者の安全を守りながらも、冷静に対応する戦略を取りました。

当時の緊迫した現場の状況をこう振り返るのは葛飾区議会議員の門脇しょうへい(かどわき・しょうへい)氏です。

選挙ドットコム編集部がボネクタユーザー向けに募集した投稿企画に応募してくれた門脇氏のブログではこれから連載として、選挙妨害対策について、スタッフたちの精神的疲労について、そして今後の対策などについて発信していくといいます。ぜひ元ブログもご覧ください。

門脇翔平と選挙妨害の被害。 連載概要

今年4月の東京15区補選の現場での「選挙妨害」には多くの関係者が対策に頭を悩ましました。選挙後には関係者が三度逮捕される事態に発展しているものの、選挙期間中に失われた時間は返ってきません。さらに、各候補が答えづらいであろう質問を大音量で繰り返し投げかける動画の再生数は伸びに伸び、妨害行為を助長したと考えられます。

東京15区補選でのつばさの党による選挙妨害の様子
(4月22日公開の選挙ドットコムちゃんねるより)

選挙妨害って何?90年も前に示されていた「選挙妨害」の線引きとは

そもそも「選挙妨害」とは、選挙犯罪となる行為で公職選挙法(昭和25年法律第100号)(以下、「公選法」といいます。)の罰則の章に「選挙の自由妨害罪」という規定を設けて、以下のように規定されています。

選挙の自由が保障されることは、選挙が公正に執行されるための基本的条件であり、この選挙の自由を妨害する行為は、最も悪質な選挙犯罪といえるものです。

(選挙の自由妨害罪)

第二百二十五条 選挙に関し、次の各号に掲げる行為をした者は、四年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。

 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人に対し暴行若しくは威力を加え又はこれをかどわかしたとき。

 交通若しくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、又は文書図画を毀棄し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害したとき。

 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者若しくは当選人又はその関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の利害関係を利用して選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人を威迫したとき。

公選法第225条各号の犯罪が成立するためには、これらの犯罪行為が「選挙に関し」なされる必要があり、この犯罪行為を行う者に制限はありません。また、被害者は、選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人とされています。

「つばさの党」の5月17日の1回目の逮捕と6月7日の再逮捕の根拠となったのが公選法第225条のうち第2号に規定する「演説を妨害し」と「交通の便を妨げ」の2つの容疑です。

ここで裁判の結果をみますと、選挙妨害と認定され、有罪となった判例も存在します。

古くは、昭和7年5月の大審院(現在の最高裁)判例です。

この判決では、演説者をののしり、約1分間にわたって連続で拍手をするなどして選挙演説の続行を難しくさせた事案に対して、こうした妨害行為の結果が選挙演説会場を混乱に陥れて選挙演説の継続を不可能とさせた「重大な場合」と、選挙演説を邪魔して進行しづらくしたような「軽易なる場合」と区別せずに演説妨害罪が成立すると判示しました。

つまり、妨害のレベルが大規模でも小規模でも全て「演説妨害罪」に当たるということを、90年も前に司法が判断を示していたのです。

そして、昭和29年11月大阪高裁判決では、「演説の妨害となることを認識しながら他の野次発言者と相呼応し、一般聴衆がその演説内容も聞き取りにくくなるほどしつこく自らも野次発言あるいは質問等をなし、一時演説を中止せざるを得なくした行為」を演説妨害罪に該当すると判断しており、東京15区補選での行為とも通じるものがあると受け取れます。

この大阪高裁判決では、もう一つ重要な解釈を示しています。「妨害の故意を認めえないような単純な野次等は、一般の演説においても認容されている程度のものである限り、演説妨害行為とはみられないだろう」とし、1人が発言するようなヤジすらも規制することには一定の歯止めをかけています。

このほか、例えば、候補者が街頭演説をしている所へ他の候補者の選挙運動用自動車を乗りつけ、演説を妨害するために、レコードの音楽をかけて演説を聞こえないようにすることは、演説妨害となりうるとの解釈を示すものもあります。

また、特定候補者の選挙運動用自動車を長時間、執拗に追跡して、速度をあげさせたうえ、進路変更を余儀なくさせ、拡声機で威圧的な言動を投げかける行為などは「交通の妨害」に当たるとされ、捜査が続いています。

「選挙の自由」は基本的条件!重い罰則規定も

選挙妨害を処罰する規定の歴史は古く、現在の公選法の前身となる「衆議院議員選挙法」(明治22年法律第3号)にも盛り込まれていました。公選法第225条を理解する上でポイントとなるのが、妨害しているのが「選挙の自由」だという点です。

公選法にいう「選挙の自由」とは、「選挙人が自己の良心に従ってその適当と認める候補者に対して投票する自由と、候補者およびその選挙運動者等がその当選をはかるために法令の規定の範囲において選挙運動を自由に行うことをいい、選挙が公正に行われるための基本的条件」とされています。

そして、「この投票の自由と選挙運動の自由を不正の方法によって妨害することは何人によって行われるかを問わず、全て犯罪行為として処罰」するというのが、選挙の自由妨害を処罰する趣旨です。

妨害行為が立候補者の自由だけでなく、有権者の「自由」を奪っているか、双方の選挙の自由に支障を来しているかが問われるのです。

この選挙の自由妨害罪の罰則は、公選法第225条の規定により、4年以下の懲役もしくは禁錮100万円以下の罰金と定められています。悪質な選挙違反の代表例である買収罪の罰則は、3年以下の懲役もしくは禁錮、50万円以下であるのに比べて、罰則のレベルは買収よりも重たい、きわめて厳しいものになっています

妨害されたら録画など証拠を残すことが鉄則!

識者は今回の問題をどう見たのでしょうか?

元警察官でこれまで選挙違反や贈収賄の事件などを担当してきた、選挙ドットコム顧問の齋藤顕氏は、「選挙期間中の立候補者による選挙妨害だっただけに捜査機関としては困難も多かったと思う」

一部の候補者からは警察が逮捕か何か対応できないか、との声があがったことに対しては、「逮捕するためには捜査機関が証拠を集めるのに加え、身柄拘束後に所管する法務省との情報共有なども必要となり、一定の時間はかかる」と説明。警視庁捜査2課としては18年ぶりの特捜を立ち上げ、「補選から2週間程度で関係者を逮捕した警視庁の動きからは並々ならぬ気合を感じた」と話します。

「つばさの党は今年7月の都知事選でも妨害行動を繰り返すことを明言していた。それを見据えて早期に取り締まったのだろう」と推察。警察庁の露木康浩長官が会見で「仮に候補者がする選挙運動であっても、他の候補者の演説を妨害する行為が許されることにはならない」「選挙の自由を妨害する悪質な公選法違反事件には、引き続き、法と証拠に基づき厳正に対処していく」と言及したことにも、現場の空気にも捜査機関としての自由妨害罪を広げないように備える強い意志の表れを感じたといいます。

同じく選挙ドットコム顧問で川崎市選管や自治省選挙課での勤務を含め50年に及ぶ実務経験を有する実務経験を有する「選挙制度実務研究会理事長」の小島勇人氏は、自らもかつての川崎市の勤務現場で、今回のような演説妨害を目の当たりにした経験から、選挙運動の関係者に対して「選挙妨害にあったり、その事例に遭遇したら、必ず記録し、証拠を残しておくことが鉄則です。スマホでの動画撮影で十分ですので、日付・時間が分かる形で妨害された様子を様々な角度で撮影しておくといいでしょう」とのアドバイスがありました。

一方で、国会や有識者らが提案している即時に逮捕ができるような公選法改正やガイドラインの制定には慎重な考えを示します。その理由は「今回のように現行法の解釈で対応は可能であり、ガイドラインを示すことにより、それが基本となってしまい取り締まりの範囲を狭める懸念があるのでは」と説明します。

立候補者は何を訴えるべきか、有権者は何を受け取るべきか

立件された今なお残る課題もあります。

今回の問題の背景には、選挙妨害の様子を動画に納めて公開したことで収益を上げていた「落選ビジネス」の仕組みがありました。誹謗中傷で稼げることが、今回の事件の大きな動機になったとも考えられる一方で、罪として問えるのはあくまで演説を妨害した点や交通を妨げた点などに絞られます。

「つばさの党」が選挙期間中に配信した配信動画には「不満に感じていることを代弁してくれた」「このくらいやらないと今の政治は変わらない」など同政党の活動を称賛し、より過激な行動を求める内容も書き込まれていました。

都合の悪い事には口を閉ざし説明責任を果たさない政治家の姿、「政治家は悪い人」「誰が当選しても変わらない」と決めつけて1票を棄てる有権者の姿……今の日本政治の状況や選挙制度には悪意につけこまれるスキマがまだまだ空いているようです。

今回の事件は、立候補者と陣営は選挙運動で何を伝えるべきなのか、そして私たち有権者は立候補者の選挙運動から何を受け取るべきなのか、選挙の自由とは何かを考えて行動を変えなければ、いつどこでも選挙妨害はおこってしまうのではないでしょうか。


投開票日当日の19:55からスタート!知事経験者らが結果を解説!
ぜひ、ご覧ください。


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2023年に年間1億PVを突破した国内最大級の政治・選挙ポータルサイト「選挙ドットコム」を運営しています。元地方議員、元選挙プランナー、大手メディアのニュースサイト制作・編集、地方選挙に関する専門紙記者など様々な経験を持つ『選挙好き』な変わった人々が、『選挙をもっとオモシロク』を合言葉に、選挙や政治家に関連するニュース、コラム、インタビューなど、様々なコンテンツを発信していきます。

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