韓国史上初の弾劾大統領選挙へ

側近であった崔順実（チェスンシル）氏に便宜を与えたことが憲法の定める法治主義違反にあたるとして、朴槿恵前大統領が憲法裁判所に弾劾されました。それにより、朴氏は大統領職を辞任に追い込まれました。こうした「弾劾（議会で不正を明らかにして責任を取らせる）」による大統領辞任は韓国で初めてのことです。

日本では4月総選挙の噂…　ただし「弾劾」による解散は制度上無い

森友学園事件や夏の都議選を前としたタイミングで、3月中に衆議院を解散・4月に総選挙を行うといった噂も聞こえるようになってきています。では例えば、日本のトップである内閣総理大臣が朴前大統領のように憲法違反をした場合、同じような「弾劾」で衆院解散となることはあり得るのでしょうか？

その答えはノーです。日本では、行政のトップである内閣総理大臣に対する裁判による弾劾はありません。似たような制度として、内閣不信任決議があります。

衆議院が内閣を信用できなくなった時に内閣不信任決議を可決させれば、総辞職か衆議院の解散を選択しなければなりませんが、日本の場合は第一党が内閣を構成することから、内閣不信任決議が可決されることはほとんどありません。不祥事が相次いで与党からの批判が高まった時に総辞職に追い込まれるというケースはありますが、裁判による弾劾という制度は日本には馴染みがないといえるでしょう。

初めての弾劾辞任、2ヶ月弱の短期決戦

韓国では、弾劾による大統領辞任は憲政史上初めてのことであるため、それに伴う大統領選挙も特別な形で行われます。通常大統領が5年の任期を終えた時は憲法第68条第1項に従って、任期満了70日前から40日前までに選挙を行うことになります。しかし、今回は弾劾に伴う突然の辞任なので、憲法第68条第2項の規定に従って60日以内に選挙を行うことになります。

こうした規定を受けて、5月9日に大統領選の投開票が行われることが決まりました。通常の任期満了に伴う大統領選の時には、予め選挙の時期がわかっているので、立候補予定者は長期間準備を行うことができます。しかし、今回は突然の辞任だったということもあり、2ヶ月弱の短期決戦となりました。

2ヶ月の間に「予備選挙」と「本選」が行われる

この2ヶ月の間にまずは予備選挙によって各党の公認候補を絞り込む必要があります。これは昨年のアメリカの大統領選で、クリントン氏とサンダース氏が民主党候補者の地位をかけて争ったのと同じシステムです。

今回注目されているのは、現与党の「自由韓国党」が与党であるにも関わらず、主要候補を出せていないという点です。潘基文前国連事務総長や現在大統領職を臨時で務めている黄教安首相が出馬するのでは、と報道されていましたが、結局2名ともに出馬を辞退してしまいました。そのため、「自由韓国党」は主要候補の擁立ができていません。

野党「共に民主党」の候補に注目

現与党である自由韓国党から主要候補者がいない他、そもそも弾劾により失脚した朴前大統領を輩出したことで「自由韓国党」自体が人気を低迷させていることもあり、最大野党である「共に民主党」に韓国国民の注目は移っています。

「共に民主党」では、予備選挙は4月3日に行われる予定です。しかしながら、「共に民主党」の予備選挙で争う候補者たちの政策には大きな違いはありません。例えば、朴前大統領のスキャンダルに絡んで国民から批判を浴びる財閥に対してはいずれの候補者も批判的ですし、慰安婦問題に関する日韓合意についても批判的で再交渉を訴えています。

弾劾による大統領失脚という前代未聞の事態のもとで、新大統領がどう国民の失望と期待に応えていくか。辞任に追い込まれた朴槿恵前大統領も厳しい立場にありますが、次を担う新大統領候補者たちも楽な立場ではありません。