10月23日、衆議院小選挙区東京10区と福岡6区の補欠選挙が行われ、いずれも自民党系候補が当選した。多くの報道では自民党の2勝、国会審議や解散総選挙に弾みがついたとされ、巷では対する野党連合の敗北が過剰に喧伝されているようである。
しかし、今回の二つの補欠選挙、その構図は与野党対決ではなく、与党内対決であった。
まず、東京10区、小池都知事と小池都政を支持する自民党都議・区議グループとそれを後押しする官邸、これに対峙する自民党都連という構図。若狭陣営、都知事選の時の小池選対がそのまま若狭選対に代わったと、記者会見で選対関係者が表現していたように、事実上小池選対であり、なぜそれで機能できたのかと言えば、選挙における対立の構図が実質的に同じだったから、ということであろう。
事実、若狭候補は選挙戦中主張していたのは安心安全や公正さという抽象的な主張以外は東京や都政のことがほとんどであり、野党が主張していたような年金、アベノミクス、TPPなどは出てこなかったと言っていい。もっと言えば主張する必要はなかったし、しない方がよかったといったところだろう。22日朝に掲載した拙稿にも記載したとおり、若狭氏の役割は小池都政を強力に進めていくための国における連携役(これはご自身で語っていた話)であり、当選の記者会見に同席していた小池都知事も、今回の選挙結果を「東京大改革を進めよ」との有権者の意思だと語っている。
要するに、東京10区の補選では、若狭陣営、もとい小池陣営は野党候補など最初から眼中になかったということだろう。(ここを見誤ってはいけない。)
では野党連合は相手にもされない戦いに不毛な努力をしていたのかと言えば、必ずしもそうとも言えないようである。
今回の補選、投票率は34.85%で、若狭氏の得票数は75,755票、対する鈴木候補の得票数は47,141票、得票率にして若狭氏は60.3%、鈴木候補は37.5%。これを前回の衆院選(投票率53.56%)と比べてみると、当選した小池氏の得票数は93,610票、旧民主党の江端候補の得票数は44,123票、得票率にして小池氏50.7%、江端候補23.9%。前回の衆院選は野党候補が乱立していたところ、得票率で見ると今回よりも低い。ちなみに共闘のため候補者を降ろした共産党、前回の衆院選での得票率は15.4%。単純な比較はできないものの、前回の民主、共産両党の得票率を足し合わせると、今回の得票率に近くなる。つまり野党共闘が効いたと考えることができるわけであり、過去数回の選挙で、比例復活となった民主党への政権交替選挙も含めて小池氏がその強さを誇ってきた選挙区における、連日利権と闘う小池知事の姿が報道される中での戦いとしては、意外と善戦であったと言えるのではないだろうか。(取材で訪れた民進党の街宣での蓮舫代表の空回りの演説に辟易し、シラけて聞いていた筆者から見ても、である。)
次に福岡6区、こちらは元大川市長で故鳩山邦夫氏のご子息の鳩山二郎氏と自民党福岡県連が推す蔵内謙氏という、いずれも自民党系の候補による一騎打ちという構図。各候補の後ろには、鳩山氏には菅氏、蔵内氏には麻生氏がいて、その代理戦争とも言われている。(先の参院選の神奈川選挙区における三原じゅん子氏と中西健治氏の戦いと同じ構図。)
民進党については、前回の選挙の際には旧民主党として候補者を立てられなかった。その結果、対抗馬が共産党候補のみというほぼ無風状態で、故鳩山邦夫氏が得票率72%、得票数116,413票で圧勝している。そもそも自民党から民主党に政権交替した平成21年の第45回衆院選でも、民主党の古賀一成氏は故鳩山邦夫氏に勝てず比例復活という状況。つまり福岡6区は鳩山王国ということ。ちなみに、民進党が旧民主党として候補者を立てた前々回、第46回衆院選での得票数は47,643票、得票率にして22.6%。新生民進党として久々に候補者を立てた今回の選挙ではどうだったかと言えば、鳩山二郎氏の106,531票、得票率62.24%に対して、民進党の新井候補は40,020票、得票率23.38%。第46回選挙の投票率が58.66%であったのに対し、今回は45.46%と大幅に低かったことを考えると、こちらも意外と善戦だったと言っていいのではないか。なお、鳩山二郎氏の真の対抗馬である蔵内謙候補は得票数22,253票、得票率は13%と、民進党候補にも及ばなかった。
さて、そうなると気になるのは国会審議以上に解散総選挙の有無。年末説やら年明け冒頭解散説やらあるが、結論から言えばいずれも可能性はなくなった、と言っていいのではないか。その理由としては、まず今回の二つの補選で野党共闘が十分機能していることが、前述のとおり明らかになったことがある。次に、これら2選挙区以外の選挙区、例えば東北地方等で反安倍、反アベノミクスの勢いが強まっていることがある。これは先の参院選の結果からも分かる。反アベノミクスと野党共闘、この二つが結びつけば、自民党が惨敗する可能性も否定できない。一方そうした地域のテコ入れには、ある程度の時間がかかる。そうなると軽々に解散総選挙などできようがない。
朝日新聞の報道によれば、自民党の二階幹事長は記者団との質疑において、「謙虚に、勝ったときほど謙虚にやっていかなきゃいけない。(東京10区と福岡6区の衆院2補選という)この二つ選挙に勝ったからと言ってですね、日本国中で自民党が支持されているかどうかということは、これからも慎重に我々は検討して対応すべきであって。いま言われたような(衆院解散・総選挙への影響という)問題については、まったく考えておりません。この事態を受けて、ね。」と話されたという。さすがのご達観、というべきだろう。
※本記事は「政治・政策を考えるヒント! 室伏謙一 (公式ブログ)」の10月24日の記事の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。
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