突然ですが、仲の良い友だちが選挙に出ようとしているとしましょう。
この友だちの政策も支持できるので投票したいと思いましたが、友だちが立候補しているのは別の自治体… そんな時、「投票するために引っ越す」ことは可能なのでしょうか? さらには「投票するために引っ越す」人なんているのでしょうか?
選挙に投票するためには、市区町村が管理している「選挙人名簿」というものに登録される必要があります。選挙人名簿の登録に関しては公職選挙法で規定されており、3月・6月・9月・12月の年4回と、選挙の公示(告示)日の前日に登録を行うものとされています。
この選挙人名簿に登録されるためには、満18歳かつ住民票の作成日あるいは転入届を出した日から3か月以上その自治体に住民登録されている必要があります。
つまり、冒頭で述べたように、自分が住んでいない自治体に立候補した友だちに投票したい場合は、選挙の公示日の3か月より前にその自治体に住民票を移した上で継続して居住している必要があります。
それでは、選挙に立候補した友人の応援を目的として住民票を移すことは法的には問題ないのでしょうか? 公職選挙法第236条には、「選挙人名簿に登録させる目的で嘘の転入届を提出した場合」には罰則があることが規定されています。ただし、罰則があるのは嘘の転入届の場合です。つまり転入届を出しても実際に引っ越しをしていなければ、選挙違反に問われる事になりますが、本当に引っ越しをして、継続して生活している実態があれば、問題はないことになります。
選挙人名簿の登録にはこのような規定があるため、転入者がその転入先の住所に住んでいて実際に生活しているかという「居住実態」は大きな問題となります。東京都のように多数の転入者がいる自治体では、全転入者の居住実態を詳細に調査することは困難ですが、「架空転入」はしばしば事件に発展します。
選挙終了後に当選した候補の居住実態に疑いが出て、最終的に当選無効となる事例はたまに見られます。この居住実態を調べる方法の1つとして、水道や電気などの使用量を調査するというものがありますが、ある事例では水道の使用量が余りにも少なかったことを問い詰められた人が、湧水を使用していたと苦しい説明をしたこともあります(結局、当選無効となりました)。
これ以外にも、悪質で組織的、あるいは派手に架空転入をした場合なども問題化しやすい傾向にあります。これは候補者の親戚や友人知人、自身の経営する会社の社員などを動員する事例が良く見られる他、暴力団が架空転入に関わっていた事例もあります。
このような架空転入の事例には、「何でこんなずさんなやり方でばれないと思ったのか」というようなものも数多くあります。例えば、一軒屋に41人も居住者がいたことになっていた事例や240平方メートルの施設に202人も転入者がいたことになっていた事例、さらには転入先の住所を調べたら駐車場と建物ですらなかったという事例もあります。
架空転入の人数が余りにも多すぎたため、選挙無効の判決が出た事例もあります。滋賀県の虎姫町(現・長浜市)では1984年の町議会選の時に、町の月平均の転入者が20人程度なのにも関わらず、選挙人名簿登録締め切り直前の2か月だけで約450人も転入者がありました。
この450人という数は全有権者数の約1割という余りにも多数であり、一軒屋に十数人の転入者がいたなど、明らかに不審な大量転入であったことから町議会で問題化しました。しかし、町は簡単な調査をしたのみで、大部分を選挙人名簿に登録し、選挙を執行しました。
これに対し、選挙終了後に候補者3人が、「複数の町議会議員が自身を有利にするために親類や友人を架空転入させた」として、選挙無効の訴えを起こし、最終的に町議会は自主解散するに至りました。
注目を集める都議選の告示は6月23日を予定されています。3ヶ月前、つまり3月22日までに都民となった方は立候補・投票ができます。日時を間違えないよう、お気をつけくださいね!
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