アイスランドの政治は今、激動のときを向かえています。
2012年の設立以来、いわば「泡沫政党」にすぎなかったアイスランド海賊党が、先月行われた総選挙で14.5%の支持率を獲得、63議席中10議席を得て、大躍進を果たしました。
得票率は緑の党の15%に次ぐ3位でしたが、国会での議席は緑の党と同数の10議席を確保し、第2党となったのです。
前回選挙で3議席、得票率では5.1%を獲得したものの衰退していたアイスランド海賊党。
海賊党は、なぜ今アイスランド国民から支持され、躍進するに至ったのでしょうか。その背景を紐解くことで見えてくるのはアイスランド国民が抱えている政治への不信感です。
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海賊党は2006年に制定されたACTA法(模倣品・海賊品拡散防止条約)に反対し、プライバシーの保護、著作権の緩化、市民の情報のアクセスなどを求めた人々が、同年にスウェーデンで最初に結党し、インターネットを通じてヨーロッパ中に広まりました。
2006年9月にできたドイツ海賊党は同年の総選挙で、議席は確保できなかったものの、国からの助成が得られる得票率2%を達成。2011年9月に行われたベルリン市議会選挙では8.9%の得票率で、15議席を獲得しました。
イギリス海賊党では、7原則に基づく政策を打ち出し、知識や考え、文化の共有、人権、プライバシーの尊重、民主的プロセスに参加できる社会を理想としています。
一時期はITの活用や市民の政治参加を促す姿勢が若者を中心に支持を集め、議席を伸ばしていた海賊党ですが、2014年を境に議席を減らしていました。それがここにきて、再度躍進を見せています。
2016年のアイスランドは政治的なスキャンダルで悩まされた年でした。
アイスランド海賊党躍進の直接のきっかけとなったのは、日本でも一時話題となったパナマ事件です。
タックスヘイブン(租税回避地)を利用していた各国首脳や著名人のリスト「パナマ文書」に名前が上がり公開されました。
このパナマ事件によって、アイスランドでも首相を筆頭に政治家の多くがオフショアのタックス・ヘイブンを使って税金逃れをしていたことが明るみになり、首相は辞任に追い込まれることに。
また、アイスランドは2008年の世界金融危機(リーマンショック)で国家財政が破綻し、一時失業率は8%を超えるなど、怒りが国民中に広まりました。
現在失業率は4%ほどに回復したものの、未だ国民は国の現状や金融機関に対する不満を抱えています。今年3月に発表された世論調査によると、国を信用している国民はわずか12%という衝撃的な結果となりました。
そのような状況のなか、パナマ事件は政治腐敗・政治の透明性への問題に光を当てることになり、「政治腐敗の一掃」「オープンガバナンス」を掲げるアイスランド海賊党の人気は急上昇し、今回の総選挙の結果に結びついたのです。
アイスランド海賊党は前ウィキリークスの活動家のビルギッタ・ヨンスドッティル氏が党首を勤めます。
アイスランド海賊党の政策方針は、従来型の政党のものとは一線を画し、政策をエビデンス・ベースで決定すること、つまり、「政策の是非に関係なく集められたデータと知識をもとに政策を決定する」ことを掲げます。
また、「市民権の保護」や「格差の是正」をコア・ポリシーとして掲げ、具体的には、オンラインプラットフォームをつかった直接投票による政策決定、クラウドソーシングによる憲法改正、ビットコインなどの仮想通貨を法定貨幣にすること、そしてベーシック・インカムの導入など、テクノロジーを用いた進歩主義的な政策を主張しています。
今回のアイスランド海賊党の躍進と類似する事態がありました。
それは米大統領選。共和党予備選当初は泡沫候補扱いだったドナルド・トランプ氏が大どんでん返しの末、当選しました。また、イギリスのEU離脱も類似の事態といえるでしょう。
これらの事例の背景にあった共通点は、ふくれあがる「政治不信」。
今世界中で既存の政治に対する不信感があらわになっています。
「変わらない政治」「閉鎖観」それらに直面した国民には、急進的ともいえる選択に希望を感じざるを得ないのでしょうか。
これらの選択をした、国々が今後どのように進んでいくのか、注目です。
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