アメリカ大統領選までいよいよ残すところ数日となりました。
最近では、国務長官時代に業務メールを意図的に隠した疑いでFBIの再捜査が始まり、クリントン氏に大きく打撃を与え、ワシントン・ポストの世論調査で、トランプ氏がクリントン氏を逆転との報道も出ています。日本の報道ではこの世論調査の結果ばかり重視している節がありますが、他の世論調査ではクリントン氏優勢を伝えるものが多く、NY Timesの特設サイトによれば支持率はクリントン氏が45.6%、トランプ氏が42.3%となっています。そのため、捜査再開により支持率にダメージを受けたという状況でも、クリントン氏が優勢を保っているということの方が重要であるかのように思われます。
「クリントン氏が勝つならとりあえずは安心!」という訳にはいきません。むしろその後の方が問題です。クリントン氏が政権を獲ったとしても、早速機能不全になる恐れがあるのです。
【関連】米国大統領選挙・選挙人予測「トランプ勝利のシナリオ」 >>
【関連】ヒラリー大統領でアメリカはどう変わるのか?そして日本への影響は? >>
2012年の衆議院選挙を思い出してみましょう。当時は自民党の安倍総裁が経済政策として「アベノミクス」を訴えました。そして、衆院選で勝った自民党・安倍政権は公約通りアベノミクスを推進しました。日本では、「衆院選で勝った政党が政権を獲得し、公約した政策を実現する」という期待があります。
しかし、アメリカではスムーズには進みません。それは、大統領と連邦議会議員(日本でいう国会議員)が選ばれる選挙が全く別だからです。そして、政策を作り、実行するのは連邦議会の仕事であり、大統領はほとんど関われないからです。
さらに、議会で多数派の立場となっている議員たちも、必ずしも大統領の政策を支持するとは限りません。とりわけ、財政出動が伴う政策は連邦議会では支持されにくい傾向があります。実際、オバマ大統領はその主要政策である「オバマケア」の中身の検討は自身の手から離し、議会に委ねました。官邸で中身を詰めてから政策を実行していく日本とは大きな違いです。
このように、クリントン氏が勝ったとしても、政策を実現できるかは議会がどれだけ大統領に協力するかにかかっているのです。そして、その重要な連邦議会議員を選ぶ選挙が大統領選挙と同じ日程で行われるのです。
【おすすめ】PPAPだけじゃない!累計4000万再生以上! YouTubeでバズるアメリカ大統領選 >>
トランプ氏が所属する共和党は、ライバル候補であるクリントン政権が誕生することを1つの前提として議会選挙を進めています。
例えば、ミズーリ州の上院選挙で共和党は、民主党候補と不人気のクリントン氏を結び付けてイメージダウンを狙っています。そもそも大統領選もまだ行われていない状況で、共和党の広告に民主党大統領候補が載るということ自体異例です。これは、民主党クリントン政権の監視役として議会選挙での躍進を狙う共和党の姿勢が見え隠れします。現在の予測では上院、下院ともに共和党が優勢です。クリントン政権の監視役というアピールが上手くいっているといってよいでしょう。
では、この予測通りに大統領は民主党クリントン氏、議会は共和党が勝ったらどうなるでしょうか? 既に書いた通り、クリントン氏の公約は共和党議会の反対によって実現できないことになります。それだけではなく、共和党議会は共和党の理念に沿った政策(福祉支出削減、オバマケア廃止など)を実現していきます。
大統領は議会が可決した政策を拒否できるので、共和党議会が可決した政策の全部が実現するわけではありません。しかし、拒否権の行使により、クリントン大統領と共和党議会の関係が悪化して、政策がほとんど実現しなくなってしまうでしょう。来年早速陥りかねない機能不全とは、まさに「大統領と議会との関係が悪化して、政策がほとんど実現されない」事態なのです。こちらの方がある意味トランプ大統領誕生以上に現実的な恐怖と言えるでしょう。
大統領選と同時に行われる議会選にも注目です。
この記事をシェアする
選挙ドットコムの最新記事をお届けします
My選挙
あなたの選挙区はどこですか? 会員登録をしてもっと楽しく、便利に。
話題のキーワード