政治家の街頭演説では正しいデータを元に主張がなされているかを探る「ファクトチェック」のシリーズ。今回は先日の東京10区衆議院補欠選挙、若狭勝氏の応援演説を行なった安倍首相の演説取り上げます。
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若狭氏の圧勝で終わった補欠選挙でしたが、果たして安倍首相は正しいデータに基づいた主張をで闘われたフェアな選挙だったのでしょうか。検証してみましょう。
※演説は10月16日付けの産経ニュースを参考にしています。産経ニュースの原文はこちらからご確認いただけます。
目次
2012年、自民党・公明党が政権を奪還し、そのとき日本はどうだったか。
政治は不安定、決められない政治が横行していく中において、経済は低迷し、
【→ 正しいとはいいきれない】
GDP成長率は2008年のリーマンショックで大きく落ち込んだものの、2012年にはプラス成長に戻しています。(第2次安倍内閣は2012年12月から)
無策の中で行き過ぎた円高が進み、
【→ 正しい】
2008年から2012年までドル・円相場は円高が進みました。2012年以降は円安傾向です。
空洞化が進んだ。競争力を失っていた。大企業は外に出ていく。下請け会社は外に出ていけないから、ついて行けないから工場を閉めるしかなかった。
どんなに頑張っても、どんなに知恵を出したって、アイデアを出したって、なかなか報われない時代だった。
【→ 誤り】
日本における海外現地生産比率は1980年代から上昇傾向にあります。民主党政権で特に空洞化が進んだ、という見方は誤りです。
自民党・公明党は政権を奪還し、以来3本の矢の政策を打ち続け、経済最優先で取り組んできた。その結果、中小企業・零細企業の倒産件数は3割減って、
【→ 正しい】
2011年の倒産件数12,734件に対して、2015年は8,812件で30.7%減となっています。
新しく100万人の雇用を作り出すことができた。
【→ 正しいが補足が必要】
2012年と比較して、2015年には110万人増えていますが、正規雇用は36万人減少しており、非正規雇用の割合は335.2%から37.5%に増加しています。
そしてパートで働く皆さんの時給は過去最高となりました。最低賃金は大幅に25円も上がった。
【→ 正しい】
全国加重平均の時給は798円から25円(3.1%)上がり823円になっています。これは過去最高の上げ幅です。
そして何よりも今年高校を卒業した皆さんの就職率は過去最高になった。
【→ 誤り】
2016年3月に高校卒業者の就職率は97.7%と24年ぶりの高水準を記録していますが、1988年には98.2%、1989年には98.3%を記録しており、「過去最高」という表現は誤りです。
有効求人倍率も東京では2倍を超えた。1人の求職者に対し、2人分以上の仕事を持つことができる、2人分以上の仕事が用意された。つまり皆が選ぶことができる状況ができた。
【→ 正しい】
今年4月以降、東京都の有効求人倍率は2.0を上回っています。
全国に目を転じても、47全ての都道府県で有効求人倍率は1倍を超えた。つまり1人の求職者に対し、1人分以上の仕事ができた。47全ての都道府県、これはあのバブル時代、高度経済成長時代にも成し遂げなかった史上初めてのこと。
【→ 正しい】
有効求人倍率の集計が開始された1963年以来始めてのことです。
補正予算、事業規模38兆円の予算を成立させた。
【→ 正しいが説明が必要】
秋の補正予算(一般会計総額3.3兆円)は8月に閣議決定した事業規模28兆円の経済対策の一部です。
この4年間確かに日本経済は成長した。
【→ 正しい】
日本の実質GDPは4年前の2012年は475兆円、2016年は4月時点の推計で506兆円で、経済成長率にして6.5%上昇しています。
成長したことによってわれわれは税収を増やした。国、地方合わせて21兆円、税収が増えた。
【→ 正しいが補足が必要】
2012年度と比較して2016年度では21兆円税収が増えていますが、そのうち約8兆円は消費税増税分です。
今、私たちが出している法律が通れば10年以上払い続けていれば年金がもらえるようになる。25年から10年に大幅に短縮する。そうなれば来年度より60万人の方々が新たに年金をもらえるようになる。
【→ 正しい】
年金の受給資格を得るのに必要な保険料の納付期間を25年から10年に短縮する法案が審議入りしています。この法案が可決すると新たに約40万人が基礎年金の受給権を得ます。60代前半で厚生年金の一部を受け取れる人も含めると対象者の総数は64万人となります。ただし10年だけ納付したケースでは月額の支給は1万6252円になります。
これは消費税を10%に引き上げたときに、その財源を使ってやることになっていたが、私たちは2年半延期をした。
【→ 正しい】
もともとは野田内閣の時代に消費税の増税にあわせて実施される見込みでした。
しかし私たちの成長、アベノミクスの果実を使って実行することができるようになった。
【→ 不明】
財源については疑問が残ったままです。
今、私たちはこの財源を使って保育の拡充を行っています。民主党政権時代の2.5倍のスピードで保育の受け皿作りを進めている。
【→ 正しい】
政府は「待機児童解消加速化プラン」のもと、保育園、認定こども園、小規模保育事業などの「保育の受け皿」を増やしています。民主党政権下では年間定員にして約4万人程度増やしていましたが、安倍政権下ではこれまで年平均10.4万人増、来年度までにさらに約17万人の定員増を目標としています。
でも東京はまだまだ足りない。その中にあって小池都知事は保育の拡充のための補正予算を先般、議会で承認を得た。
【→ 正しい】
今年4月現在の東京都の待機児童は8,466人で前年比652人増です。
東京都議会は「待機児童解消に向けた緊急対策」に基づき126億円の補正予算を可決しています。
安倍政権は4年間で保育士7%、待遇を改善した。さらに2%改善をし、しっかりと経験を積んだ皆さんには4万円の上乗せを行う。
【→ 正しい】
保育士等処遇改善臨時特例事業や人事院勧告に基づき、保育士の待遇は2012年度比で月額約21,000円改善しており、来年度にはさらに2%上乗せするものとしています。また、ベテラン保育士について月額4万円程度の引き上げの方針も示しています。
民進党はまったく改善はしていないどころか、1.2%マイナス、待遇を下げていた。マイナスだった。
【→ 正しい】
民主党政権に変わった2009年には月額21.4万円あった保育士の給与は1.56%下がって21.7万円に下がっています。総理の上げた数字より厳しいものとなっています。(2015年は21.9万円)
以上のとおり、民主党政権時代との比較した数字をあげることが多いのが特徴的です。アベノミクスの果実、といった抽象的な言葉を巧みに使う印象がありますが、基本的に誤った数字を使うことはありません。
蓮舫民進党代表と同じデータをとりあげていても、主張が正反対になるポイントについて有権者の判断が問われているのではないでしょうか。
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