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投票率も高い、政治を考えるスタートラインに立った18歳・19歳

2016/7/15

渋谷壮紀

渋谷壮紀

2016年7月10日(日)の第24回参議院議員通常選挙において、初めて18・19歳が投票することが可能となりました。
多くのイベントやキャンペーンなどの取り組みが事前に行われ、若い世代の低投票率を何とか是正しようと政府や各党も躍起になっていましたが、結果は、皆さんのご存知の通り、自民党と公明党の与党が大勝し、憲法改正を掲げる政党の参議院議員が3分の2を超え、憲法改正の道筋ができたと言えるでしょう。

そして多くの人たちが、期待した18・19歳の得票率(総務省の速報値)は、全体で50%に満たない45.45%で、18・19歳の各投票率も約40〜50%で、これまでの参議院選挙における20代の投票率(約35%)よりは高いものとなっています。

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(総務省「第24回参議院議員通常選挙年齢別投票者数調(18・19歳) 速報値」を参考に作成)

参議院選挙における20代の投票率よりも高いことは、色んなイベントや広報活動の効果があったといえるでしょう。
しかし、19歳の投票率が39.66%であったことは、若年層の政治・選挙への関心を高めることの難しさをあらわしています。

 

若者の政治関心は高かった

やっぱり若い人たちは、政治に関心がないのだなと多くの人が思うでしょう。しかし、事前の世論調査などを用いて、あくまでも推論ですが、18・19歳について、少し違った見方をしてみたいと思います。

選挙の前に多くのメディアが行った18・19歳の若者に対する政治意識の調査をみると、NHKの調査では、約60%が投票に行くつもりだと回答しています。
また政治への関心だと、NHKは約53%、読売新聞では約67%、明るい選挙推進協会(明推協)の調査では約45%が「政治に関心がある」と、半数程度が回答しています。
さらに、政治と自分の生活が関係しているかを聞く質問では、NHKは約80%、明推協は約53%が「関係している」と回答しています。加えて、選挙直前には多くのイベントや広告によって、そして多くの芸能人が期日前投票をしたことをSNS等で発信し、投票に行くことを促していたように、目に触れる機会は多くあったと思います。
なので、選挙前や選挙を通して、政治や選挙を考えた人は多かったと思います。でも、これらの政治・選挙と接する機会が、実際の投票という行動に移らなかったのです。

 

リスクと変化を天秤にかけた若者

関心や政治・選挙に接する機会の多さがあっても行動に移らなかったのはなぜでしょう。
考えられる理由としては、

投票するコスト(投票所に行く、誰が良いか決めるなど)が高かったから
投票したい候補者・政党がいなかったから
自分が投票しても、何も変わらないと思ったから

など、多くの要因が挙げられると思います。
ここでは逆に、投票を行った18・19歳は何を考えたのかを推測することで、どうして投票に行かなかったのかを考えてみたいと思います。

多くの出口調査や選挙後の調査によって、18・19歳の投票先(比例区)は自民党が約40%、公明党を含めると約50%が投票している結果が出ています。(NHK、朝日新聞、日経新聞)

前述の選挙前のNHK調査において、日本の政治のあり方について、約75%もの18・19歳の有権者が「不満」を感じており、さらに約88%が「いまの政治が変わって欲しい」と回答しています。
「いまの政治は変わって欲しい」と願いつつも、政権与党である「自民党に投票する」というのは、一見矛盾した行動ですが、もしかしたら様々なリスクを受け入れて政治・経済の変化という結果を得るための賭けたのかもしれません。

 

 

今の若者は、安定した社会を求める

18・19歳が経験してきた政治状況は、変化を試みながらも、決まらない政治が続いていました。2009年の民主党による政権交代も衆参ねじれによって変化を実感することができず、2012年に自民党が再び政権交代と2013年の参議院選挙でのねじれ解消で、多くの政策が安倍政権の元で良くも悪くも推し進められました。
このような政治状況を18・19歳は、経済的に好転するためには、安定的な政権運営が必要であると考えたのではないでしょうか。

その中で、他の世代と同様に、景気・雇用・社会保障などの経済的な政策を重視した18・19歳は、経済が悪くなってしまうリスクがあるのを分かりつつ、経済を良い方向に変化させるには、自民党に賭けるしかないと考えた可能性があります。
そして逆に、政治の変化を望むが、経済を含め、様々なリスクが大きく、容認できないと感じた18・19歳は、他党に投票するのではなく、棄権を選択したのかもしれません。

政治に対する関心を持った、選挙に触れた18・19歳は、様々なリスクと得られる変化を天秤にかけ、どちらを引き受けることができるのかを考えて投票に臨んだのではないでしょうか。

つまり多くの政党が、変化を与えつつも、しっかりとした経済政策のビジョンを提示することができていれば棄権ではなく、他党への投票が増え、投票率が高くなったかもしれません。(これは他の年代にもいえることですが。)

 

18・19歳はスタートラインに立った

あくまでも推論の域を超えないため、詳細な分析が必要です。肌感覚として、確かに、選挙に行くためのコスト問題は大きく、それによって投票棄権をした有権者がほとんどです。

しかし、端から政治関心がない、何も考えてないとネガティブなイメージを押し付けてしまうと、ますます政治への関心、考え、語ることを止めてしまい、選挙に行かなくなる「負のスパイラル」に陥ってしまうだけです。
そうではなく、しっかりと政治を考えた若者像として捉え、大人と同じように接することが重要なのです。
それこそが、投票によって、選挙に参加し、政治と関わるスタートラインに立った18・19歳を応援することになるのではないでしょうか。

 

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渋谷壮紀

渋谷壮紀

1988年鳥取県生まれ。東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程在学中。専攻は政治意識・行動分析、実験政治学。研究テーマは政党公約分析、有権者選好のマクロ分析、熟議民主主義の実証研究など。学部時代にWebサービス開発の経験あり。

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