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【現地レポート】激闘!北海道5区補選は異種格闘技(後編)

2016/4/22

高橋 茂

高橋 茂

池田真紀候補の「魂」を感じさせる演説

前編のあと、「肝心の池田真紀さんはどうだったのか?」とか「応援しているんだけど情勢は悪いのでしょうか?」という問い合わせをいただいた。
池田真紀さんは、予想どおりの「良いタマ」だった。事前には「自分のことばで話せないのではないか」と言う人もいたが、そんなことはなく、口から出る「ことば」は迫力があり、聞いているひとの心を打つ「リアルさ」があった。

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写真:迫力ある池田真紀候補の演説

前編では街頭演説の問題点について書いたが、選対本部で「若者が独自の動きを見せている」と聞いた。もし、池田真紀氏が盛り返して逆転できるとしたら、ここではないかと思う。若者の動きは平日の昼には見えない。おそらく街頭演説にはあまり顔を出さないだろう。インターネットを主体にした独自のネットワークを駆使すれば、「もしや」ということもあるのかもしれない。そんなことも感じているが、いかんいかん。候補者に肩入れすると判断が鈍ってしまう。

 

和田義明候補はナイスガイ

北海道2日目は和田義明候補の追っかけをした。この日和田氏がまわった千歳・恵庭周辺は、自衛隊の駐屯地があり、新千歳空港もあるので、国防と北海道物流の要だといえる。それだけに今回の熊本地震での自衛隊の活躍は身近なこととして地元の有権者にも捉えられていた。

実は、最初に公民館での立会演説会に行こうとして住所を間違えてしまい、ほとんど終わりの頃に着いた。会場は満席で高揚感に満ちていた。

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写真:和田義明候補の個人演説会のようす

初めて見る和田義明候補は、精悍で「ナイスガイ」と言える雰囲気を持っていた。誠実そうで「良いヤツ」に見える。話はよく噛むが、それがまた誠実そうに映るのかもしれない。ただ、演説の内容を聞いていてメモを取っていたのだが、具体的な話しが何も無いのが気になった。千歳なので自衛隊の話や震災の話をするのはわかるのだが、簡単に書くと
・政治家になりたかったが、お義父さんの町村氏が亡くなってしまった
・震災での自衛隊の活躍は素晴らしい。
・自衛隊の方々やご家族に奉公したい。
・私は苦労してきた。
・可愛い娘(2歳)の未来を作っていきたい。
・外交の仕事がしたい。外交で日本を守る。
・商社勤務の経験を活かして経済を頑張る。
といったところだ。土地柄に配慮した内容でまとめたのかもしれないが、毎回同じ話を聞いていて思ったのは「中身が無い」ということだった。
中身が無いというのは具体策がひとつも無いということであり、小学生が新学期に「運動会頑張る」とか「算数頑張る」と言っているのと変わらない。それでも来場者の顔を見ていると、みんな食い入るように見つめているし、涙ぐんでいるお婆ちゃんもいたので、あまり具体的な政策の話は無くても良いのかもしれない。TPPや安保法案や消費税の具体的な政策よりも、目の前の逞しい男性が「頑張るので勝たせてください」と頭を下げてくれれば「よっしゃ!頑張れ!」となるのだろう。話す内容よりも、「誰が話すか」が大事なのだ。池田真紀候補もTPPや消費増税に関する具体的な話は出なかったが、もともと安保法案反対からスタートしているため、安保や弱者救済関連の話は具体的だった。

 

ザ・自民党の鈴木貴子議員

公民館での個人演説会を終えてすぐ、千歳市グリーンベルトでの街頭演説があったので車を飛ばした。着いたときは、すでに大勢の人が集まり、新党大地の鈴木貴子衆議院議員の演説が始まっていた。鈴木貴子議員は、言うまでもなく鈴木宗男氏の娘であり、数カ月前まで民主党にいたのだが、「共産党と組むのは許せん」と離党届を出し、民主党から除籍された。
鈴木貴子議員の演説は歯切れがよく、まさに父親譲りの迫力ある演説だった。もうずっと前から自民党だったのではないかと思えるような姿だった。ピタリと和田候補について回る彼女の、今回の選挙での功績は相当大きいのではないか。もし彼女がいなかったら、和田候補がここまで盛り返せていたかどうか。

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写真:大活躍の”ムネオの娘”鈴木貴子議員(立会演説会にて)

 

下村博文 vs 馬淵澄夫

鈴木貴子議員の後には下村博文衆議院議員が演説を行った。下村氏は首相特別補佐であり、今回の選挙に安倍首相からの特命で送り込まれた。なぜ北海道にゆかりがなく、しかも教育分野の専門家で選挙のことを良く知っているわけでもない彼が送り込まれたのか。それはいろいろと裏があるようで、今回の補選とは関係ないので割愛させていただくが、池田真紀選対に入っている馬淵澄夫衆議院議員と実際は「下村vs馬淵」の構図となっている。昨日は残念ながら馬淵議員の姿を見ることは無かったが、下村議員は候補者とともに移動し、演説を行うことも多々あるようだ。
演説内容は自分の専門分野関連から日教組批判、北教組批判、そして共産党批判のオンパレードだった。

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写真:自民党大選対を率いる下村博文議員の演説

 

震災と自衛隊の話から入る

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写真:和田義明候補の演説

そして候補者本人の演説。内容は公民館のものとほとんど同じ。「外交と経済を頑張ります」というものだった。
このあとの立会演説会では、小野寺五典元防衛大臣や山本一太参議院議員の応援演説もあったが、全てに共通しているのは、震災と自衛隊の話だった。「震災を政争に使うな」とは、野党批判に使われるセリフではあるが、千歳の事情があるとはいえ、これだけ畳み掛けるように話されると、自衛隊を強化し、安保法制を進めるために震災を上手く使おうとしているのがわかる。それを選挙に取り込んだ自民党を褒めるべきなのだろうか。

街頭演説が終わり、駐車場に向かう途中で、誰かに話を聞いてみようと思い、たまたま見かけた品の良さそうな女性二人に声をかけた。年の頃は40代と50代と言った感じ(間違っていたらごめんなさい)。
和田候補の印象としては「エリートだけど苦労人」「誠実そう」ということだった。政策がどうとかよりも、信頼できる人かどうかが大事だということだった。「以前から自民党支持なんですか?」と聞いたところ、「いや、私たちは公明党なんです」とのことで、ごく普通の市民というわけではなかったが、始終穏やかに話されていたのが印象的だった。

朝からおにぎり一個しか食べていなかった私は、とりあえず目についたラーメン屋に入り、味噌ラーメンを頼むつもりが、激辛ラーメンを頼んでしまい、上顎の皮膚が剥がれそうな痛さを我慢しながら次の会場に向かった。

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写真:とりあえず腹ごしらえ。しかし、激辛ラーメンを食べてしまった

 

大物ゲストを次々投入

夕方からはコミュニティセンター(公民館)の3連チャンで、最初のゲストが小野寺五典元防衛大臣、あとふたつが山本一太参議院議員。私は2箇所見に行った。
最初の北桜コミュニティセンターでは宮城県が地元の小野寺議員による、町村氏との思い出や自衛隊の話が胸を打った。朴訥とした語り口で「北海道は自衛隊の道場なんです」と言ったエピソードを来場者に語りかける。小野寺議員は実際に誠実で、自民党らしからぬと言っては失礼だが、あまり「我」も感じないおっとりしたところに人気がある。

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写真:国防で説得力のある話をする小野寺五典元防衛大臣

逆に、次の会場でのゲストスピーカーの山本一太議員は、はなからパワー全開で「私は声帯の手術をしたばかりで、今ドクターストップがかけられていて6分間しか話せないんです」という半分を民進党批判に費やした。「東北の震災のときに危機管理の経験のない民主党政権だったことが最大の不幸」「やはり平和と安全は自公政権しか無い」「安倍総理はやれることは何でもやる!」「和田候補は良い政治家になる。永田町の預言者と言われた私が言うのだから間違いない!」と6分間をフルに使い、畳み掛けるように力を込めて応援演説を行った。

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写真:「永田町の預言者」山本一太議員はこの日和田候補と初顔合わせ

和田候補には連日自民党の大物議員が応援に駆けつけている。選挙期間もあと3日となった21日(木)には小泉進次郎衆議院議員議員が2回目、翌22日には稲田朋美衆議院議員が来る。私は進次郎議員の演説を見て帰京することにした。

 

圧巻の進次郎節

そして21日(木)、小泉進次郎衆議院議員が来て3箇所で街頭演説を行った。私は3カ所目の「ふれあい広場あつべつ」(札幌市厚別区)に見に行った。おそらくここが最も盛り上がると思ったからだ。公園の広場には溢れるばかりの人、人、人。2千人以上はいたのではないだろうか。そこに小泉進次郎は登場した。会場は軽いどよめきのようなものが沸き立った。

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写真:進次郎議員の話は心地良さの中にグイグイ引き込まれていく

オープニングの地元議員の話や下村議員の話が、民進党の山尾志桜里議員や共産党批判ばかりだったのに対し、進次郎議員の演説は和田候補のエピソードをもとに聴衆をグイグイ「進次郎ワールド」に引き込んでいく。聞いていて心地良いのは、批判よりも「意外なエピソード」と「身近な地元の話題」を上手く織り込んで反応を見ながら、候補者を称える話につなげていくからだ。やはり天性のものなのだろう。10年後にはどうなっているのか。

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写真:広場は大勢の「聴衆」によって埋められた

 

デッドヒートを制するのは誰か 震災との関係は

最初は自民圧勝の選挙かと思われた北海道5区補選。告示前には池田真紀氏が追いつき、一瞬ではあったが追い越した。その後、ある時を機に失速し、現在(21日木曜日)は和田氏が若干リードしているようだ。
九州の震災が北海道の補選に影響するというのは皮肉な話ではあるが、和田陣営の演説を聞いていると「はたして震災が無かったら説得力のある演説ができたのだろうか」と思わせる。鈴木貴子議員がいなかったらどうなっていたか。そのときはそのときで何か戦略を考えるのだろうし、逆に池田真紀候補で野党共闘になっていなかった場合を考えると、想像であれこれ言うのは無駄なことなのかもしれない。

熊本の地震が長引き、被害が拡大する様子を見ていて、遠く離れた北海道の地で「一体、被災された方々にとってはどんな結果になるのが望ましいのだろうか」「震災は、近い将来首都圏にも起きるだろう。そのときどのような政治が行われるのが良いのだろうか」と考えているが答えは出ない。
釈然としない思いを抱えながら、新千歳空港に向かった。

今後の野党共闘の可能性や参院選の展望に関しても、この選挙から見えてくるものがある。
「番外編」に続いて「総括編」も書いていきます。

番外編はこちらへ

 

北海道5区現地レポート

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≫【現地レポート】激闘!北海道5区補選(番外編)夜の情勢調査

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高橋 茂

高橋 茂

2000年、電子楽器のエンジニアから政治とインターネットの世界へ。政治家のネット活用をサポートするVoiceJapan社を経営する傍ら、講演、執筆も行う。武蔵大学非常勤講師。選挙ドットコム顧問

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