今月6日、民進党の柚木道義衆院議員が母校の同窓会名簿に名刺広告を掲載したことに対して公職選挙法違反の容疑がかかり、柚木氏の事務所関係者が岡山地検から任意で事情聴取を受けました。
容疑の内容を聞いてもわかりにくいですが、その点を理解するにはまず、公職選挙法で明示されている規定を理解する必要があります。公選法では国会議員や地方議員がする自分の選挙区内の者に向けた有料広告の禁止について、以下のように規定しています。
「第152条 公職の候補者・・・(中略)は、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域)内にある者に対する主として挨拶(年賀、寒中見舞、暑中見舞その他これらに類するもののためにする挨拶及び慶弔、激励、感謝その他これらに類するもののためにする挨拶に限る。)を目的とする広告を、有料で、新聞紙、雑誌、ビラ、パンフレットその他これらに類するものに掲載させ、又は一般放送事業者、有線テレビジョン放送事業者業務・・・(中略)を行う者の放送設備により放送をさせることができない。」
要約すると、「公職にある議員が、その選挙区内の人への挨拶を目的とする広告を有料で新聞やビラなどに掲載することを禁じている。」のです。
条文に「有料で」と書かれていることに注目してください。
この規定ができる平成元年12月までは、売名や事前運動のおそれがあるという指摘は別として、きちんとした適正な対価が支払われるなら有料という点では問題ありませんでしたが、当時、それを隠れ蓑にして、本来の対価を超えた支払いがなされて、脱法行為につながっているという批判がありました。この規定には、このような脱法的な寄附行為や日常の売名行為もきちっと抑止しようという意図があるのです。
この背景には、選挙や政治についての、金のかかる要因を是正し、立候補者も支援者も含め、「選挙や政治に、金をかけるのはやめよう」という意識に改めていこうという動きがありました。
だからこそ、日常活動に緊張感を持たせるため、この規定に違反すると、「50万以下の罰金」が科されることとなったのです。(公選法第235条の6 第1項)
さて次に、この問題に対する柚木議員の釈明を見てみましょう。彼は、平成26年12月の衆院選で民主党(当時)から出馬。選挙区である岡山4区で敗れ、重複立候補していた比例の中国ブロックにて復活当選しましたが、この場合の議員の当該選挙区は、落選した小選挙区の岡山4区ではなく、重複立候補して復活当選した比例の中国ブロックということになります。
「(名刺広告をした)学校は、(敗れた)小選挙区外に所在している。当該事案発生時まで、比例区との区別がついていなかった」(産経新聞記事より)とのこと。
衆議院議員の選挙制度における小選挙区と比例区というのは、いわば基本中の基本。「何かおかしくないのかな、とい感覚がないほうがおかしい」くらいの問題です。公職の立場にあれば、なおさらです。
さらに、この議員を支える秘書の勉強不足(勉強以前に、選挙を戦うのであれば常識ですが)にも大いに問題がありますね。
さて、議員や秘書の公選法についての知識は、どうでしょうか。もちろん勉強熱心な議員や、法律の知識満載の秘書だっています。例えば晴れて当選した新米議員の場合、選挙中は公選法に関して緊張感を持って接してきたことでしょう。でも終わったとたんに一般の人と同じような「普通の感覚」で物事を判断したり行動したりしてしまうことは、残念ながらありえないことじゃない。
じゃあどうしたらいいか。党に所属しているのであれば、党主催の選挙や政治活動に関するコンプライアンスの勉強会に参加し、勉強するもよし。また無所属議員であれば、自身の選挙区内の自治体選挙管理委員会に問い合わせてみることをおすすめしたい。
とにかく、「わからなかったり迷ったら確認せよ」です。この積み重ねが知識となり、やがて自覚となり、公職の立場にある人間としての信頼につながっていくのですから。
さて、「わからなかったり迷ったら確認せよ」と言いましたが、「私は公選法の本を買って自分で勉強して判断する!」という人もいるかもしれません。
でも公選法の条文というのは、予備知識のない一般の人間が読んで即座に解釈できるという文章かというと、ちょっと厳しいですよね。本記事の最初の項で、今回の対象となる公選法第152条を掲げておきましたが、すぐに理解し解釈を正確に定義できるかというと難しいと思います。
たとえば、条文中にある「挨拶」。「挨拶」といっても幅が広いですね。この条文でも具体例を出していろいろと書かれてはいるのですが、やはり個々の事例についてまで記載はされていないし、すべての事例を網羅出来ません。例えば「クリスマスカードは?」という疑問も出てきます。
また「挨拶じゃなければいいでしょう?」ということで、実際に政策を中心に書かれた広告はOKになる場合もあります。
だからこそ、勉強会への参加や、選挙管理委員会事務局の職員といった専門の知識を持った人たちに、ぜひ確認をしてほしいのです。
柚木議員は、今後どうなるのでしょうか。公選法を知らなかったではすまされない立場だし、立件されず罰則を免れたとしても道義的責任は免れないということになるのでしょうか。
新聞記事によれば、柚木議員は昨年、国会で高木復興相や下村博文文部科学相(当時)を「政治と金」問題で追及していました。他の議員を追及する前に、まず自身の行いを正してほしいところです。
ここまで、柚木議員の公選法違反疑惑事件について説明してきましたが、みなさん、どう感じましたか。実際、このような記事を見なければ知らなかったこともあると思います。「議員って、やっちゃいけないことが結構あるんだな」と思われたかもしれません。公職につくと、一般の人がおこなっても問題のない行為でも、公職にあるがゆえに抵触することがいろいろあります。
この文章を読んでいるあなた自身が立候補することだって、ありえないことじゃない。そんなとき、ぜひ、この記事を思い出してください
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